King Gnu 1stアルバム「Tokyo Rendez-Vous」(2017)レビュー

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●マニアックな雰囲気の1stアルバム

大ヒット3rdアルバム、「CEREMONY」しか聴いたことの無いリスナーも多いと思われるKing Gnuだが、この1stアルバムもクオリティは全く低くないぞ!むしろコアなファンは今作こそフェイバリットに挙げるかもしれんな。この独特の緊張感と静謐な空気はクセになる!しかし2nd、3rdアルバムよりマニアックな雰囲気で、地味で盛り上がらん曲が多いのは確かなのでぱっとしない印象を受けるリスナーもいるだろう。特に白日で知ってこの1stを手に取った層は恐らく「なんか全部盛り上がらんなぁ・・・」で終わるのではなかろうか?有名な米津氏からの助言(サビが強くないと売れない云々)以前の作品なのでハッキリ言ってJ-POPナイズされてない曲が大半だな。それ故一般ウケはあんま良く無さそうだと感じた。インディーズ時代の楽曲のリメイクが曲の大半だが、原曲を聴いてみるとこれでもかなりブラッシュアップ、J-POPナイズされている事が分かるだろう。これでもである(笑)。

●「良くも悪くも」ここからどんどん変化していく

ここからKing Gnuは更にJ-POP化・・・、悪い言い方をすればより分かりやすく売れ線に、安っぽい方向にどんどん向かっていく。個人的にはこの1stで大々的に取り入れている本格的なオーケストラ、弦のアレンジにking Gnuの独自性を見出したタイプなので1st以外であんまガッツリこっち系聴けないのが少し寂しいな(短めのならあるが)。具体的には破裂とかサマーレイン・ダイバーみたいなビッグサウンド系の本気の曲をもっと聴きたいぞ!こういう音って普通のロックバンドだったら外注かプロデューサー付けた時しかできなくねーか!?これは凄い!そして1stの良さはこの2曲にあると言っても過言では無い。と俺は思うんだけど、どうなんだろうか?

●気になった曲、布教したい曲の感想

01 Tokyo Rendez-Vous
本っ当に勝手なイメージでキングヌーってサチモスみたいなオシャレ系なのかなーとイメージしてたからこの一曲目は結構意外だったな!音数多めでかなりゴチャついてて流行とは逆行している。そして冒頭からいきなり巻き舌!オラついた常田氏の歌唱ががなってない時のミッシェルガンエレファントのチバみたいで男らしくてロックでカッコいい。曲的には自分が親しんできたJ-POPにはあんま聴いた事無い感じでキングヌーっぽい感じとしか言えん。でもやっぱゴリラズとかに雰囲気が似てるとは言えるのかな?結構ヒップホップ色強めな曲調なんだけどラップでは全く無いな。韻など踏む気すら無い内容重視の歌詞でそこも独特だな。ボーカルはかなり重ねられて加工されてるが元の声質がしっかり分かる加工のされ方で気に入った。別にいじるのは構わないが原型無いレベルのは正直誰でも良いだろと思ってしまうタイプなので、常田氏井口氏のツインボーカルの声質の違いを前面に押し出したこの方向性は良いね!ハモリでなくオクターブで重ねまくるも手法も結構珍しいような気がする。アレンジ的には骨太な90sブラックミュージックな感じでヘヴィなグルーヴ&ビートではあるが結構デジタルな要素も多く、そこも意外だった。何となくもっとバンドバンドした音だと思っていた。唯一ギターだけ結構な歪みっぷりでロックで尖った雰囲気は醸してるぞ。後半とか結構ミュインミュイン言ってるしな。あとシンセ音とかは敢えて安っぽいのを使ってるらしいな。曲のテーマとかと何か関係あんのかもね?

02 McDonald Romance
3分にも満たない短い曲だがクオリティは高いぞ!ピアノのリフから構築されたサンプリング的作曲法で作られただけあって、この曲はジャジーな雰囲気もあり、ちょっとオシャレ要素あるな。リズムもかなりハネさせていてブラックミュージック感、ファンキーさもある。メロディーは切ない系なんだけど、コテコテのベタな感じでは無いのが良いんだよな~。コテコテで無いという事はつまり地味で盛り上がらない事を意味しているんだが(笑)、そこが良いというかね。もっと感情的にブチ上げメロディーにする事も可能だけど、しないというか。そこが逆にエモいというかね、そういう感じ。言語化が難しいな。とりあえずこの曲は渋くてエモいのよ。歌詞も含めて。常田氏曰く「人気無い曲」との事で、まぁ予想通りだな。J-POPシーンでは盛り上がらない=良くないみたいな価値観あるからなぁ・・・。でもこういう曲を作れるところがヒゲダン等の他の売れてるバンドとの違いだと思うし、こういうちょいチルい感じの渋エモ路線は得意だろうし、もっと量産して欲しいところだが・・・。今のキングヌーを見ているとこういうのは求められて無さそうで、しばらく聴けそうにないのは残念である。皆もっとこういうの求めろや!求めれば作ってくれるぞ!

03 あなたは蜃気楼
2曲目のMcDonald Romanceとは打って変わってブチ上げメロディーの曲で盛り上がる系だが、予想通りオシャレさは失われるな(笑)。特にサビは結構ダサいと思うぞ!まぁ常田氏レベルなら分かってやってるだろうし、ダサかろうがなんだろうが良いもんは良いけどね!サビも超分かりやすく、マジで2曲目とは正反対な感じだな。井口氏と常田氏の掛け合い的なメロディーが超ポップで口ずさみたくなる。あーなたーはーしーんきーろーお〜〜〜!うむ、実に覚えやすい。長めのCメロでは結構雰囲気が変化し、他の分かり易いとこと比べるとちょっと難しく壮大な感じで、キングヌーっぽさで言えばこの部分が一番「ぽい」な。このアルバム中最も歌謡曲、J-POP色の強いナンバーでカラオケ向き。

04 Vinyl
今作中最も人気の高い曲。J-POPナイズされていない、ちょっとマニアックな白日みたいな曲調であっちがヌルいと感じた人はこっちがオススメだぞ。ボンヤリ聴いてると90年代に流行ったR&B系統の曲と同じに聴こえるかもしれんが、実は全然違う!ハネまくるビートに完全に乗っかる、ハマる、この高速3連符でグルーヴさせまくるメロディーが非常にナウいんだな!ここが古い曲との違いだと思うぞ。あと普通にスクラッチ音もガンガン入るが、あんまヒップホップ全開には聴こえない絶妙なバランスだ。アレンジ的にはイントロのハネまくるビートと独特のギターリフがたまらん!ここだけループさせてラップバトルしたくなるぐらい良いぞ!しかし本当にこのリフは独特だな。グロッケン?みたいな高い音も一緒に鳴ってるのも不思議な雰囲気に一役買ってるな。こういうのはジャズっぽいというのだろうか?映画音楽、ゲーム音楽あたりだと普通にありそうだが・・・俺はほぼJ-POPしか聴かないのでよー分からん。洋楽の何かなのかな?全体の構成も最高で、間奏入る前がやたら盛り上がり、これ以上は盛り上がらんかな?と思いきやその後のCメロが更に盛り上がるという隙を生じぬ二段構えな構成で実に素晴らしいぞ!これをキラーチューンと呼ばずして何と呼ぶ!正直これを聴いてピンとこなかったら、キングヌーの良さは分からん感覚の人だと思う。それぐらいキングヌーって感じの曲。

05 破裂
三拍子のクラシック系バラード。弦アレンジが超本格的でやっぱスキル、というかしっかり知識があるな。こういう系のアレンジはロックバンドだと流行ったシングルが収録されたアルバムに別バージョンで収録されてるイメージだな(笑)。普通は外部のプロデューサーがやる領域だと思うが、自分らでやってのけるのが凄い。大体編曲まで自分でやるタイプのミュージシャンでもクレジット見ると「弦アレンジ」誰々とかって別の人やってたりするもんな。それぐらい専門知識が必要なんだろう。それはともかく破裂。良いね~。ボンヤリ聴いてるとクソ地味な曲なんだけど、所々ドゥワァーッて盛り上がりまくる!強弱マジでエグいよ!特にやはりストリングがJ-POP的なストリングスでなく普通にクラシック系というか、映画音楽とかでもありそうな感じで重厚感と高級感があって素晴らしいね!ボーカルも素晴らしく、特に井口氏は作詞したわけじゃないのにマジで何か深~い意味があるように感じさせる歌唱なのよ!滅茶苦茶意味を汲み取ってるか、常田氏に説明されまくってるかのどっちかだな(笑)。いや~凄い!ちなみにこの曲、個人的には何故か雪景色が浮かぶんよな~。何でだろうか。

06 ロウラヴ
これも地味~な曲なんだけど、良いものは良い!今作中一番ギターが目立っている曲で、作曲時もギターリフから構築していったみたいな話を何かで読んだような。リフもそうだが、メロディーも独特だな!サビも盛り上がりそうで盛り上がらんし、アンニュイというか、切ないというか、寂しいというか、表現し難い不思議な感情にさせられ、それが最高なんだが・・・やっぱこう「明るい!」とか「暗い!」「切ない!」とか分かりやす過ぎるぐらい出ないとマニア以外には響かないらしく、あんま人気無いっぽいのは残念である。他には演奏、アレンジも素晴らしく所々ジャズ的な雰囲気も出してくる!凝りまくってるのか、即興的な感じなのか分からんがとにかくかなり予測不能だぞ!なぜこうなる!?不思議だ。ライブだと良い意味でワケ分からん音源よりシンプルに聴こえるがその分アグレッシブさ、ロック度は増しており、ライブバージョンで再録して欲しいぐらいカッコ良いぞ。

07 NIGHT POOL

半分インストのような2分ほどの短い曲。デジタル全開にも関わらず流行の音源は使われておらず、且つ安っぽさは皆無で打ち込みスキルの高さも見せつけてくれるぞ!酩酊感、サイケ感の強いナンバーで頭悪い言い方するとめっちゃ藝大っぽい(笑)。これもその辺の若手邦ロックバンドには作れないシロモノで格の違いを見せつけてくれるな。個人的な好みで言うとNIGHT POOL、McDonald Romanceなどのちょいチル系をもっと作って欲しいんだが・・・無理だろうな。サビ大合唱も良いんだけど、こっち系も量産してほしいぜ。

08 サマーレイン・ダイバー
ゴスペルっぽい昇天感のある本格的なクラシック系バラード。これぞバラードって感じの重厚感、高級感のある曲調で最高だな!召されそう。これはキングヌーにしかやれん曲だろう。恐らく知識がいるよこれは(笑)。オーケストラのビッグサウンドとバンドサウンドが違和感なくマッチしていて全く無理矢理感無いのも凄い。完全に融合しとる。ボーカルは普通にハモっているのが逆に珍しい気が。これはこれで良いね。そしてラストは滅茶苦茶盛り上がっていかにも最後ー!って感じの壮大なフィナーレでブワァーッとなってッジャーーン!と終わる(笑)。素晴らしい!感動した!ラストを飾るに相応しい曲だが、ライブでやるとすると何曲目でやるか配置に悩みそうだな。

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