King Gnu 2ndアルバム「Sympa」(2019)レビュー
●前作に比べグッと聴きやすくなった
アングラ、マニアックな雰囲気が漂っていた1stアルバムに比べて一気に聴きやすくなった印象があるぞ!作曲を担当している常田氏は今まであまり聴いてこなかったJ-POPを相当勉強したらしく、それで得た知識、スキルがかなり反映された内容になっておる!しかも本来の持ち味も死んではおらず、所謂魂を売った感じにはなっていない辺りは流石のバランス感覚である。若手、しかもセルフプロデュースとは思えんさじ加減で見事と言わざるを得ない!アッパレじゃ!収録曲はどれもクオリティが高く、捨て曲は無い!ジャンルで言うと一応ブラックミュージックをベースとしてはいるが曲調は1つも被っておらんぞ!全曲際立つ個性を維持しつつ付け焼き刃感も無く、最高品質で迫ってくる音に俺はひれ伏した!売り上げも前作に比べかなり増えたらしく、正当な評価がされ始めたっぽいな!ファンとしては嬉しい限りである!
●音数多めのゴージャスなアレンジ
人によってはうるさく感じる可能性もあるぐらい音数が多いぞ!音数の少ない隙間を生かしたアレンジが先端とされている風潮があるが、おもっきしその真逆を行くスタイルである!バンドサウンド、電子音、オーケストラ、コーラスと使える音は全て使うぐらいの勢いで非常にリッチである!前作も少なくは無かったが今作は更にド派手で奥行きのあるサウンドを楽しめるだろう!
●気になった曲、布教したい曲の感想
02 Slumberland
スランバーランドと読む。前作の一曲目、東京ランデブーと似た系統の曲で今作中最もヒップホップ色の強いナンバー。キャッチーさは皆無でひたすら男らしくタフでハードでマッドネスな世界が展開される。所謂歌モノではない曲で基本メロディアスなキングヌーにしては珍しいタイプと言える。音数の多さは今作中トップクラスで混沌とした世界観を表現するのに一役買っている。全体的に迫力あるシンセベースの低音が効いており腹にズンズンくるな。また弦アレンジもかなり凝っていて聞き応えがあるぞ!重厚感が凄い。サビ的なパートではコーラスが凄い事になっており厚みが半端ない。よ~く聴くとフザけたような声も聴こえてきて遊び心があって良いね!あとは2番で聴ける逆再生エフェクトアレンジがカッコいい。使いどころがムズい音だが全く違和感無いな。…と色々書いたがとにかくカッコいい曲。シンパリリース時のプロモーションではTV等でリードトラックとして披露されていたが、アルバム中最もコアでハードな曲をリードトラックに選ぶメンバーは尖り過ぎである(笑)。それにこんな一般受けしないであろう曲調でアルバムのプロモーションをする事は通常許されないぞ!会社側もかなり任せているな。
03 Flash!!!
アグレッシブ且つ疾走感のある高速ポップナンバー。自己啓発的な歌詞とアゲアゲな曲調とのマッチング具合が見事である!曲調は完全にガレージロック系だがアレンジは結構デジタルな味付けで独特の世界観だな。邦ロックシーンには無い音世界と言えるだろう。聴きどころはやはり待ってましたの大サビ!井口氏のボーカルがマジクソカッコいい!たっぷり8小節のクソ古臭いアゲアゲパリピでEDMな間奏の後、一際印象的なシンセベースのフレーズがその後の大サビへの期待値ハードルを上げまくるや否や、そのハードルを余裕で越えてくる超ポップなエモエモセツナ系メロディー+日本語J-POPとの相性抜群の井口氏のボーカルが胸を締め付けるぞ!これはたまらんな!個人的にはYouTubeのコメント欄にあった「封印が解かれるが如く出てくる井口ボーカル」って表現が一番しっくりきたな(笑)。マジでそんな感じだ。アレンジ的には一番目立つシンセ音がEDMで良く聴く音でこれはハッキリ言って安っぽいしダサいぞ!だがそこが良いのだ!この辺りの感覚は特に若い女性には理解し難いだろうな。正直キングヌーがオシャレなだけのバンドだと思っている奴、間違ってるぞ!常田氏も何かの動画で「キングヌーもオシャレバンドみたいに言われるようになり…全然そんな事無いんだけど(笑)」なんて言ってたしな。この曲のちょいダサなノリが良いと思えれば、キングヌーのオシャレサイド意外の面(男らしく汗臭い、ロックな面)も理解出来るだろう!
04 Sorrows
切れ味抜群のギターカッティングで幕を開ける、疾走感のあるロックナンバー。今作中最もシンプル且つロックな曲。常田氏曰く「邦ロックシーンとの接続を目指した曲」との事で確かにそんな曲調である。ロックフェス映えしそう。キングヌーにしては珍しい曲調でラノベ原作のバトル系深夜アニメのOP的な雰囲気を持っている、と言うと分かるだろうか(笑)。Aメロでも使い回されているイントロのギターリフのメロディーはかなり独特で印象的且つキャッチーだが安っぽさは無い。サビは普通にカッコいいと思いきやワウワウしたギターのアレンジが一筋縄ではいかないあたり、その辺のバンドとは違うぜという意思を感じるな(笑)。Cメロは曲調がガラリと変わり、エコー強めのスケールのデカい世界基準の壮大なアリーナロック的雰囲気に変貌する。珍しく英語詞の常田氏ボーカルパートも雰囲気にあっていて最高だな!その後の井口氏のロングシャウトと強烈に歪む時代錯誤な汗臭い超ロックなギターソロは鳥肌モノ!フェス等で初めて聴いたとしても確実に盛り上がるぞ!あとこの曲は意外と一番一般受けするかもな?ファン以外の人に聴かせて投票させたら1位になりそう。
06 Hitman
ポップで切ないミディアムバラード。キラキラしたイントロのシンセ音が90年代っぽい。メロディーはR&B系だがしっかりJ-POPナイズされており、ワビサビが効いた泣ける良いメロディーだ!サビよりAメロの方がフックある気がする。そして長めのCメロの後の間奏で聴けるギターソロ!これはハッキリ言って最高だ!まず音量がデカイ(笑)バランス合ってんのか?と思うぐらいの主張の強さと歪みまくる音色でギュインギュインでクソカッコいいぞ!ボーカルはスタイルが他の曲と少し異なり、洋楽っぽい鼻にかかった発声法をしているのが、面白い。J-POPな歌い方しか出来ないと思っていただけに、こっち系も出来るのか!と驚いた。
07 Don't Stop the Clocks
直球アコースティック系バラード。弦楽器と指パッチンのみのシンプルなアレンジ。ここまでシンプルな曲はキングヌーには他に無い。当然ボーカルが主役の曲。繊細な井口氏のボーカルスキルにひたすら酔いしれよう!特にファルセットが上手すぎる!男性ソロ歌手並みのスキルでバンドのボーカル担当とは思えんぞ。
08 It's a small world
R&B系ミディアムナンバー。ブラックミュージックをベースとしたJ-POPというバンドのコンセプトに一番忠実な曲だな。基本捻った曲、ジャンルクロスオーバーしまくった曲が多いキングヌーだがこれは割とストレートで、聴いてて何のジャンルか分からんと気持ち悪いという困った人にも(笑)安心である。全体的にはベーシックなR&B的雰囲気だがメロディーはキングヌーのいつもの癖が出ていて面白いな。聴きどころはBメロ。コード一つ且つたった2小節だが良いアクセントになっている。また他の曲に比べると地味ながら、サビの鋭い弦のアレンジも緊張感あって良いんだよな~。
10 Prayer X
ブラックミュージック色強めのミディアムナンバー。ビートを強調したアレンジでノリノリだが雰囲気やメロディーはかなり暗め。普通こんな曲調ならもっと渋くまとめてバラードにしそうなものだが、結構ダンサブルでファンキーだな。この辺は彼らの代表曲である白日にも通じるバランスかもしれん。歌い出しの繊細さはキングヌーの曲の中でもトップクラスで何とも言えない物悲しさ、哀愁が漂っているな。そしてこの曲に限らずだが弦アレンジがクソ素晴らしい!何となく綺麗な感じにするためのストリングスではなく、不安、焦燥、緊張感を演出する使い方で一般的なJ-POPの弦の使い方とは一線を画する。
11 Bedtown
ノリノリで超ファンキーでグルーヴィーなアップテンポナンバー。全パート打楽器かってぐらい跳びはねまくるぞ!落ち着いたブラックミュージックかアッパーなロック曲が多い今作中では唯一「アッパーなブラックミュージック」と言えるだろうか。コッチ系もっと増やして欲しい。恐らく意識はしてなさそうだがニュージャックスイングのスタイルに近いアプローチで、J-POP業界で言えば野猿やブラックビスケッツ、SMAPやSPEEDなど90年代の企画モノやアイドル等で良くあった雰囲気だな!全体的にダンサブルでスムーズだがサビ前の転調っぽく聴こえるコードがたった2小説ながら滅茶苦茶効いてるぞ。こういう細かい技がプロと素人の差だな。歌詞の詰め込み具合は間違いなくナウい(笑)。そんなに詰めんでもってぐらい詰まっとる。口が回らん。そしてボーカルだけでなく、この曲は間違いなく今作中最高難度の演奏だな。この全パートパーカッシブで黒人な超絶グルーヴ、ライブで何割ほど再現出来んのか見物だが(笑)それだけに一番バンドっぽいというか、体温のあるアンサンブルを楽しめるぞ!個人的には今作中で一番好きな曲だが、世間的にはあんま人気無いっぽくて残念である。
12 The hole
静かなピアノのイントロから始まるJ-POP系大作バラード。常田氏がJ-POPを勉強した経験が一番反映された曲ではなかろうか?宇多田ヒカルやミスチルの曲に通じるような激しく哀愁の漂うメロディーでザ・J-POPって感じだな。ひたすら暗く、エモい。勿論J-POP風作曲だけして終わっている曲ではなく、キングヌー独自のアレンジがかなり加えられている。弦のアレンジはいつになく気合いが入っており、その辺のJ-POPのようなとりあえず入れたような感じはない。メロディーは基本は定番J-POPなメロディーだが、所々で井口氏が得意とするファルセットを生かすような流れになる箇所が独自性を感じたな。またCメロ等では近年流行りの強力な超重低音ベースがヴ~っと鳴ったり、やはり一筋縄ではいかん!