あちらのお客様から
ここ数日、私は酷く落ち込んでいた。
色々な出来事が重なって、これまで選択してきた道を疑って、自分に自信が持てなくなっていた。
眠りが浅いのか目覚めの悪い夢ばかりみる。まだ朝なのにもうクタクタで何も手につかない。
仕方がないので家族を送り出した後、風通しの良い部屋に簡易ベッドを設置して、時間が許す限り横になる。
子どもが帰ってくる30分前、スマートフォンのアラームが鳴った。
蛍光灯の紐が秋風に揺れている。半分だけ開いた目のまま眺めていると、ゆっくり覚醒し始めた意識が喉の渇きを察知する。幾分マシになった身体を起こしてキッチンに向かった。
冷蔵庫に覚えのないミルクティーのボトルがあった。
「覚えがない」ではなく寝ぼけていたから「忘れていた」だけで、今朝子どもを送って帰宅する途中、なんとなく立ち寄ったコンビニで買ったものだった。
しかも無糖タイプ。寝起きに甘ったるいものは飲みなくなかったし、かといって麦茶は軽すぎるなぁと思っていたので、本当に今の私に丁度良い飲み物だった。すぐにお気に入りのグラスを棚から取り出す。
脳内では、おしゃれなバーカウンターに座る私。
ダンディなマスターが「あちらのお客様から」と、お決まりの台詞と共に氷たっぷりのミルクティーを提供してくれる。
マスターの視線を辿ると、カウンターの端で4時間前の私が微笑みながら手を振っている。
過去の私の選択。今の私に繋がる選択。
一気に飲み干して、ふぅと声に出しながら息を吐く。
なんだ、ちゃんとできているじゃん。
ほんの少しだけ自信を取り戻せた気がした。
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