老いを教わる
旦那のばあちゃんが、体調を崩して病院に運ばれた。
私が嫁いだ頃、ばあちゃんの視力は光を感じる程度でほとんど見えていなかった。すり足で近づいて、私の手を握って、腕を擦って、肩を叩いて、私のことを一つ一つ確かめてから「よろしくお願いします」と言ってくれたのが嬉しかった。ばあちゃんは旦那と同じくらい私のことを可愛がってくれた。
大人の事情で父方、そして母方、両方の祖母と疎遠になっていたので、孫らしい体験を大人になって初めてさせてもらった。
ばあちゃんは盆と正月が来るのをいつも楽しみにしていた。親族みんな集まって、家が賑やかになるのが嬉しいと話していた。
新型コロナが流行り始めた年、盆も正月も同居家族だけで済ませた。
「来年は子どもたちの声が聞きたいね」
寂しそうにばあちゃんは言った。
去年の冬、ばあちゃんの足腰が急激に弱り始めた。布団で寝起きするのは難しくなり、仏間に介護用ベッドを導入した。もう親戚全員が座れるスペースはなかった。
今年の盆も同居家族だけで済ませた。
ばあちゃんは寝ていることが増えて、送り盆の日もずっと介護用ベッドで寝たままだった。
先月、真夜中に救急車を呼んだ。奇跡的な回復力を見せて、数日で退院となった。
今回はどうなるかわからない。
もしかすると、もう家に帰ってこないかもしれない。
私は今、人が老いていく姿を間近で感じている。
老いとはどのようなものかを教わっている。
私は何を返せただろう。
もう一度、あの賑やかな声を聞かせてあげたい。