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落下の解剖学:ミステリー好きが観た感想(ネタバレなし/あり)


ネタバレなし

できる限りネタバレなしで書いて行きます。

まずミステリーなのかという点。
公式HPの広告文にもあるように、事故か自殺か殺人か、真相がわからない事件を法廷で追求していくという形式です。広義のミステリーではあると思います。

ただ、フェアに手がかりが示されているような本格ミステリーではないですし、うなるようなトリックとかどんでん返しとかは存在しません。ミステリー好きがそういうのを期待して観に行くと肩透かしにあいます。(自分も少し感じました。)

この映画で視聴者が得られる情報は、映画内の裁判員や傍聴席の人より少し多い程度であり、法廷を追体験しているのに近いように感じます。その中で登場人物の心情を追って、最後の証言に至る過程を楽しむものだと思いました。
どのようにしてその証言に至ったのかという広義のハウダニット的なものになるかもしれません。ここら辺はとても好みでした。

もしこれから観る人がいれば、上記参考してみてください。
以下ネタバレありに移行します。

ネタバレあり

物語構成などに関して

裁判で検討される証拠品などはいくつかありました。血痕、殺人だとしたら凶器不明、動機は夫婦不仲か、前日の激しい喧嘩・暴力、自殺だとしたら動機は妻に比べてうまくいかない自分の人生、自殺未遂らしき嘔吐のエピソード。もっとあったかもしれません。
基本的には、殺人と自殺で心証としてはイーブンな状況で法廷が進んでいく構造だったのだと思います。

結局、最後まで自殺なのか殺人なのか(あるいは事故なのか)は明かされず、明確な描写はありませんでした。リドルストーリーのようにどっちともとれるという印象でした。

しかし、真相不明が物語の重点ではないと感じます。実際どっちだったのかというのは、あまり重要に感じません。
視聴中は母親が殺ったのかどうかが気になり、かなりそちらに意識がいっていましたが、追うべきなのは息子の心情だったのだなと感じます。

弱視の息子が最後の<父は自殺だったのだと思う>という証言に行きつくまでに、証言台や傍聴席で何を聞いて、何を思い出し、どう葛藤して、どう選択したのかを考えさせる映画でした。

最終的に母親は無罪の判決でしたが、これもそこまで重要には感じませんでした。最後の証言をそうもっていくなら、母親は無罪になるよねという印象でした。

息子の証言の解釈

息子は殺人or自殺の真相は知らないはずです。

その上で、母親が父親を殺したと思っていて、それをかばうために最後の証言をしたという解釈もできるかもしれません。ただ、そうだとすると最後の証言が巧みすぎる気がします。この解釈はあまりしっくりきません。

犬にアスピリンを飲ませる実験までやっています。父親の自殺未遂エピソードの裏付けまで自らやって、父親は自殺だと感じるようになり、将来的な自殺が示唆されるような言葉を思い出した。という方が解釈としてはしっくりくる気がします。

総括

ミステリー好きであるため、トリックとかどんでん返しを少し期待して観てしまい、終わった瞬間は少し肩透かしを食らいました。
しかし、視聴後にストーリーを思い出しながら息子の心情を追っていると、最後の息子の証言に集約するような構成の巧みさを感じて、非常に満足感がありました。

あと、演者の演技も皆さんよかったですね。
特にというか、アスピリン飲んだ犬は演技だとしたら調教がすばらしい。

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