【ボツ】パーティー全部俺~目指せてっぺん~【アーカイブ】


01

 VR機器導入と共に少しずつ増え始めていたVRゲーム配信者たちは、ある日、とある大きな進化を遂げた。

 その名も『没入プロトコル』。これはルーティーンよろしくVR機器使用前に起動することによってその動作の補助を行うものであり、これを使用するとこれまでとは比べ物にならない没入感を得られると一躍話題になった。
 とある天才と彼の作ったAIの手によって作られたそれは、人間とAIが手を取り合うことが出来ることの証明として、広く世に知れ渡ることとなった。

 そして、それと共に流行り始めたのが、RPである。
 ロールプレイとは、あたかもその物語の登場人物かのように、なりきって役割を演じることであるのだが。それは、まるでその世界に降り立ったかのような感覚を覚える『没入プロトコル』との相性が抜群に良かったのだ。

 それは彼らの間で『疑似転生』と呼ばれ始め、それを題する配信が多く見られるようになっていく。

 それから数年後。
 あるVRゲーム配信者がその技術の黎明の中で頭角を現した。


 薄暗い部屋、埃の被った床、汚い机周りと言えばゲーム配信者の特徴とも言えるが、彼の場合は少々様子が違う。
 明るい部屋、埃一つ落ちていない床、机周りは綺麗に整頓され___そこは自室ではなく、オフィスのような広い空間だった。そこにはいくつもの仕切りパーテーションで小部屋のような空間が作られている。

 ここ十数年で配信者界隈は盛栄を見せ、それに伴う省空間のための防音設備もまた発展し続けている。特に、座標指定した特定空間に音を集約させる収音技術は、三種の神器の一つである。

 その小さな空間のうち、6つが彼のものだ。通常は1つのところを6つも占有している彼は、誰もが認める人気配信者の1人である。

 そう、彼は企業所属のVRゲーム配信者なのだ。


 その空間の一つ、通称配信部屋にて、彼___十一木トイチギアキラは唸っていた。
 彼は生粋のエンターテイナーであり、楽しいと思えば何でもするし、逆に楽しいと思えないのならばすぐ止める思い切りのいい性格をしている。

 その彼の目の前にはディスプレイが煌々と光っており、そこにはあるニュースサイトの記事が映っていた。

「へぇ……AINPCか。面白いじゃん」

 その記事にはこんなことが書いてあった。
 曰く、プレイデータを学習させてAIキャラクターを作ろう!
 曰く、会話シーンが多い分だけ語彙が増えるよ!
 曰く、資金次第だけど複数作ることも出来るよ!

 そして、読み進めていく中である一文を読んだ瞬間、彼の脳内に電撃が走った。


 これは、俺がやらなきゃ誰がやる?と。


 興奮のあまり、息を荒げて立ち上がる彼が見たものは、それが実装されるというゲームの一覧だった。その中に彼のお気に入りのゲームがあったのだ。

 ただ、それだけでは理由として弱い。では、何故なのか。
 それは、そのゲームでの彼のプレイスタイルにあった。


 企業VASTヴァストMODeMモデムに入社したての頃、配信の右も左も分からなかった彼が真っ先に手をつけたのが、VRゲーム配信業界において歴史に残る、一人五役RPだった。

 声が高く、男声も女声も基準以上に出せた彼は、それを用いて通常は配信のためのアバターである1役だけでなく、そこに加えゲーム内でまるで人格も声も性別も違う5役を演じ始めたのだ。
 それこそ、初期の頃は破綻するだの失踪するだのと杞憂民が騒ぎ立てたものだが、2年続けばその声は少なくなり、5年続けば伝説となり。今やそのゲームの運営チームからも一目置かれる存在へと成り上がっていた。

 まず、芸名であり素のアバターである可愛い系男子な十一木トイチギアキラ。ガワは可愛いが中身は生粋の配信者であることから、古参ファンの間では出来る天才ショタと専らの噂だ。

 そしてここからはゲームのキャラクターとなる。
 特に好んでプレイするトリックスター。彼は見るからにノリが軽いチャラ男だ。ふざけた言動が多いが頭はキレる。やる時はやる男である。
 これが無くては何とするヒーロー。熱血で闘魂。突出して先陣に立ち、皆俺についてこい!が口癖な少年漫画の主人公だ。
 続いてダークナイト。ダークとつくが病み系ではなく、シリアスな背景がありそうな生真面目な女だ。規律を順守する堅物である。
 そしてマギアイドル。女児アニメ主人公の魔法少女よろしく、元気で可愛いみんなのアイドルだ。ヒーローと仲がいいらしい。
 最後にメカニック。機械のこととなると早口が止まらないオタクちゃんだ。普段は無口だが、専門のこととなると天才的である。


 さて、もしもこれらのキャラクターが1画面に1人ではなく、5人集結したならば?お祭り騒ぎどころの話ではない。それこそ隕石の落下のようなとんでもない衝撃と話題でリスナーたちはもみくちゃになるだろう。

 それを直感で理解した彼は、すぐさまほぼ全財産と、VASTMODeMつとめさきから給料を前借し、メン限配信で内容を伏せた状態でカンパを募り、芸名でクラファンし、瞬く間に必要な資金を集めきった。

 そしてその当日に4人分・・・の権利と学習データを読み込ませるためのハイエンドPCを4台、そしてテスト運用のためのサーバー機など、諸々を躊躇なくポチり、来る日のための準備を始めたのだった。



※この物語はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
※副題を付けるなら伝説の始まり。


02

 MERSenateマージネイトは色々なジャンルのごった煮でありつつ、良い意味でカオスという言葉が使われる異例のゲームだ。古代文明の痕跡が発見された火星が舞台であり、プレイヤーたちは古代遺跡から敵対勢力と争いつつ、遺物を回収することを最終目的とする。

 世界観の説明だけで言えば重めに見えるが、実際のゲーム性は程よくカジュアルとなっている。というのも、ゲーム前半が運ゲーなのだ。それを後半、どう活かして戦略を組むかが肝となるゲームである。

 さて、プレイキャラクターは何の能力も持たない一般人だが、近未来的技術により一時的に身体の強化が出来る。いわゆる経験値expは時間経過やコロニーに到達するまでに発生する敵を狩ることで溜めることが出来る。

 一定の経験値に達するとレベルが上がり、それまでの行動から3つの選択肢が表示される。それすなわち、ローグライトである。後の放棄されたコロニーダンジョンに挑むまでに方針を決め、キャラクターを育成するのだ。

 ゲーム開始時、プレイヤーたちはオンラインでランダム選出、もしくはあらかじめパーティーを組んで5人を集め、x6の30人が集まるとゲームが始まる。
 プレイヤーたちは、それぞれ何をしたいのかを最初の段階で音声や文字などで意思表示し、5人で最大効率を発揮できるようにキャラクターを育成していくのだが。

 当然、運ゲーとなれば、目指した役割に足る能力を得られないこともある。その度に方針を転換し、誰が誰を補うサポート誰かが理想を崩して補うリビルド、などの合理的な思考が必要となってくる。

 この部分を大いに楽しむのが彼、十一木トイチギアキラのプレイスタイルである。


「きたきた!初めてのテストプレイだ!」

 事が始まってから1週間。待ちに待った日がやってきた。
 配信タイトルは『【MERSenation】パーティー全部僕』だ。こういう時はシンプルな方が刺さる。それに、俺の名声ならすぐにリスナーは集まるし、大きく動いて来たから皆注目してくれるはずだ。

 稼働しているパソコンは5台・・。うち一つに有線で繋がれたVR機器を装着する。無線はそれこそ家一つを配信環境に出来環境構築しないと不安定になるから、こういうゲームで有線接続は基本中の基本だ。
 機器を持つ手が震えるのを見て、俺は自分の緊張を感じ取る。それはそうだ。今俺は人生を掛けてるんだから。だけど___

「それはそれとして、楽しむことが一番だ」

 俺はそうやってやってきた。いままでも、これからも。
 胸の内は程々に曝け出して、十一木晃アバターを皆の心に構築して住まわせて、好き放題させてきた。それをこれからも続けるだけだ。
 いつものように機材を準備して、いつものようにアプリを起動する。何も考えなくても、一連の流れを記憶した自分がやってくれる。

「よし、いっちょやったるか!」

 そう、いつものようにそう自身に声かけをして、俺は寝台に寝転がった。


「やあみんな!楽しんでる~?」

 その世界で覚醒した僕が最初にすることは、その挨拶からだ。
 普通は覚醒後に配信準備をして配信を開始するものだけど、僕は僕である時は常に配信している。元は事故を防ぐためだったけれど、今は別の理由もある。

 楽しんでるー!! 楽しんでるぞ!
 十一木きゅんおはよー!! ってことは!?
 5人プレイ楽しみ過ぎる!! よっお金持ち!

 こうして、自分の配信を待ってくれている皆を1秒でも待たせたくないからだ。コメントがすごい勢いで流れていくけど、僕にだけ聞こえるように設定している自動読み上げが優先度はあれど、ランダムにコメントを拾っていく。
 それがある程度落ち着いた頃を見計らって返事を返す。

「はーい。ありがとね。それとお金持ちじゃないからね?もう使っちゃったから無いよ」

 あ、そっか ウン千万の機材マジやべぇ
 ポチる時手が震えませんでした? 俺なら漏らす

 そんなコメントが流れて行き、僕は思わず苦笑した。あれだけ多かったコメントが一気に少なくなったからだ。それもしょうがない。額が額だから、リスナーたちも触れあぐねているんだろう。
 でも大丈夫。

「機材を直接見せることはできないけど、その結果を今、呼び出すよ」

 おおーっ!だの、キタキタァ!だので埋まるコメントを見つつ、僕は手元のコンソールを操作する。ちなみに、今いる場所はゲーム開始前のロビーだ。舞台が近未来だから、SFみたいな超巨大宇宙船の中にいる、という設定になっている。MMOゲームにありがちな広場みたいな空間だ。
 オンラインにするとパーティー募集なんかができるんだけど、今は必要無いからオフラインにしている。

 そのため、いつもよりかなり静かだ。まるで違う場所にすら思える。
 その空気感を少しでも早く変えたくて、僕は最初の1人目を別のアプリを経由して呼び出した。

「む、ここは…?」

 他プレイヤーが入ってくるのと同様の光の柱を表示させて出現したのは、長身で体格の良い細マッチョな男性だ。顔は見慣れたイケメンで、まるでどこかの主人公みたいな特徴的なツンツン頭をしている。
 目の色は黒、髪の毛は赤色で、全身から背景が揺らぐエフェクトが出ている。外見通りの熱血漢だ。

 その人物は感動のあまり言葉が出ない僕を見つめると、膝を折り、視線を合わせて言葉を掛けてきた。


「君は誰だい?俺はヒーロー。困った人がいれば駆けつける、皆の味方さ」


 その言葉を聞いた瞬間、盛り上がるコメントとは裏腹に、僕の背筋に冷や汗が流れた。


※この物語はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
※副題をつけるなら、あっ……。


03

 やっちゃった……と思ったものの、後の祭りで、僕は頬が引きつらないように気をつけながら挨拶を返す。その間もどうカバーするかで、僕の脳内会議は紛糾していた。


「やぁ、ヒーロー。僕は、ええと、トリックスターの知り合いさ」


 そもそも、十一木晃ぼくはヒーローと会う予定は無かった。
 僕はこのゲームマージネイトのプレイキャラクターであるトリックスターとしてこのヒーローに会う予定だったんだ。

 それなのに、いつもと違うことをしていたから、それを飛ばして次の段階に進んでしまった。つまり、単純にポカミスをやらかしたってことだ。


「とりっくすたぁ?何と言うか、独特な名前だな。その人は君の……お友達かな?」
「まぁ、そんなもんかな?ちょっと呼んで来るからここで待っててよ」
「あ、あぁ」


 一部の古参ファンが段取りの悪さに疑問を覚えてるみたいだけど、それ以上の大量のコメントで押し流されてるから、このまま上手く進めれば問題ない、と思う。
 それにしても最初に呼んだのがヒーローで良かった。彼なら言い方は悪いけど、ごり押しで誤魔化せるから。ダークナイトではこうは行かなかっただろう。

 早足になりたい気持ちを抑えて物陰に回り、同じミスをしないように、他の建物の裏に他3人を出して、待機状態にしておいた。これで、僕のジェスチャーをトリガーにして皆動き出すはずだ。
 念のための確認を終えた僕は、メニューを操作してトリックスターの身体へと換わる。

 トリックスターはアルカイックスマイルの白塗り仮面が印象的な、ひょろ長くて胡散臭い男性だ。体は痩せているが、動きは滑らかで抜け目ない。物語に時々顔を出してくる頭脳派で、後半で裏切るっぽい雰囲気をしている。
 毛量の多い長くて青い髪と、仮面で隠れているが金の瞳をしている。軽い口調で話し、パーティーを盛り上げるムードメーカーだ。


「よぉ、お前が新しいパーティーメンバーのヒーローか。俺はトリックスター、よろしくな!」
「おう。こっちこそよろしくな!……ん?もう一人はどうした?」
「あぁ、あいつなら用事があるってんで、ここを離れたぜ」
「そうか。後で世話になったと言っておいてくれ」


 一人芝居は慣れたものだけど、後ろめたいことがあると背中がかゆくなってくるものなんだな……気を取り直して、ヒーローに了解の返事を返して、指を特定の順番で動かす、と。
 物陰から全身フルアーマーが重装特有の鎧の音を立てて歩いて来た。声はくぐもっているが、低くて芯のある女声じょせいだ。それにトリックスターを食いつかせる。


「む、妙に静かだと思ったが、ここにいるのはお前たちだけか?」
「おっ!男二人でムサいと思ってたんだ!女の子が来て良かったぜ!」
「……なんだこいつは。……しかし他にはいない、か」
「ま、まぁまぁ。仲良くしようぜ?な?」


 今はまだ仲裁役が来ていないため、ヒーローが割を食うことになるけど、しかたない。トリックスターと……長いな。トリックと彼女の相性は悪い想定だったからこれで問題無い。
 後々、互いに有能さを魅せつけて関係が改善されていく、予定だから。


「俺はトリックスター。んで、こいつがヒーロー」
「……私はダークナイトだ」
「兜取って中のお顔を見せてくれよ~」
「断固拒否する」


 ダークナイトは全身フルアーマーで長身な女性だ。その様相のために中身は分からない。好感度を稼いだ後に態度が軟化すると、中を見せてくれる、かもしれない。女性陣の中では低い声だが、聞き取りにくくはない。
 設定はあれど、その多くを明らかにしていないミステリアスなキャラクターだ。リスナーは裏に重い背景がありそう、と勘繰っているが果たして。

 ちぇっ、と口では言いつつ、内心では安心する。最初に少しトラブルが起きたもののリカバリは出来ている。AINPC達にも目立った不具合は見られない。コメントの方も新キャラ登場の度に盛り上がって怒涛の流れが起きてるし、同接数も増える一方だ。
 そして、ここで真打登場。皆のアイドルと一緒にそのオマケも。


「ああーっ!!いたよメニちゃん!人がいた!」
「ほ、ほんとだ。……あ、あの、そで引っ張らないで」
「うおおお!女の子だっ!それも二人!」
「………チッ」


 途端に一際沸くコメントと、絶え間ない読み上げ。流石にうるさいので一時的に切り、トリックに迎え入れさせる。
 本日のヒロインとサブヒロインだ。……ダークはまだちょっと早いかな。

 ヒロインはマジカルアイドルだ。華奢な体格に対して明らかに大きい魔女が被るような紫のつば広な三角帽子を被り、今はローブで隠れているが、いかにも魔法少女でアイドルなファンシーな服装をしている。
 金髪ストレートに碧眼だが、戦闘になるとなぜか髪型がツインテールに、瞳には星が散り、ローブが消失する。そういう活発な不思議ちゃんだ。 

 一方サブヒロインのメカニックは、平均的な身長の女性で、要所を強化されたゴツいオーバーオールを着ているが、胸部装甲には目を瞠るものがある。いつもスチームパンクなゴーグルをつけており、滅多に外さない。
 茶髪ボブに今は隠れているが空色の瞳をしている。普段は慎重で消極的だが、趣味の事となると早口で喋り出す、典型的なオタクちゃんだ。


「ボクはマジカルアイドルだよ!この子はメニちゃん!君たちは?」
「俺はトリックスターで、このかわい子ちゃんは」
「黙れ」
「ダークナイトちゃんだ。んで、これがヒーロー」
「おい。急に雑になってないか?」
「トスくんとダナちゃんとヒロくんね!!」
「ひっ、ヒロくん…っ!」


 マジックアイドル…長いな。アイドルのお陰で急に場が騒がしくなった。そして、ヒーローのあだ名がツボに入ったメカニックがお腹を抱えて笑いを堪えている。なお、彼女は笑い上戸だ。笑いのツボが浅くて、笑い出すと止まらない。
 それを微妙な表情で眺めるヒーローが哀愁を誘っていた。


※この物語はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
※副題をつけるなら、5人集結。


04

 5人の顔合わせが終わったところで、トリックスターでもあり、この状況の企画主でもある僕が今回の趣旨を説明に入る。

 これはリスナーに向けてもだけど、AINPCの4人に情報共有をするためでもある。すでに、彼らには事前情報としてある企業の大役に呼び出された、という設定を入れてある。
 つまり、今からブリーフィングといったところだ。

 念のため、このゲームを知らない人に説明しておくと、このゲームは、旧時代の宇宙進出を競う国家間、あるいは企業間の経済競争を題材としていて、それと同様に、火星に発見されたという古代遺跡を巡って遺物や当時の文明を読み解く手掛かりを獲得するために、他のチームを出し抜くという背景が存在している。

 つまり、そのミッションに向かう個々人のプレイヤーたちはそれぞれ何らかの企業に所属しており、その恩恵を受けているわけだ。
 僕がRPしていた5人もそれぞれが異なる企業に所属しており、それぞれの恩恵を受けている。これは各キャラクターに個性をつけたかったから、あえて別の企業にしたわけだけど。

 それじゃあチームを組めない、というか設定上敵対しているために、空中分解必至だったので、その事情を彼らに説明するためのカバーストーリーが必要になってきたわけだ。それがここからの話になる。

 コメントも空気を読んで静かになった。……たまにつばを飲む音が聞こえたり、ざわざわしたりしてるけど。


「皆知っての通り、この競い合いは既に古代遺跡が見つかって3年が経過している。…ちょっと長すぎないか?3年だぞ3年。だってのに、まだ決着がつかないと来てる」
「上の事情は知らないが、確かに3年は長いな」


 トリックスターに存分に身振り手振りをさせながら、そんな風に説明する。実際、ゲームとしてはチーム間での戦闘が主な要素の一つとしてあるため、3年というのは実質、サービス開始から経過した年数になる。つまり、3年続いているゲームだという話だ。
 その背景として、各企業のパーティーが勝ったり負けたりしているという事実__裏を返せば程よいゲームバランス__があるという話で。

それを逆手に取って、あるカバーストーリーを考えてみた。その3年の裏側に黒幕がいる、という話だ。

 
「これを不自然に思った俺は、実は1年前から秘密裏に調査してたんだ。それによって明らかになったことが3つある。良い知らせと悪い知らせと、最悪な知らせ。どれから聞きたい?」
「まずはその信憑性を問いたいところだが、まぁいい。言ってみろ」
「ノリ悪いゾ☆と言いたいけど、話が進まないから順番に行くよ」


 実際、ダークが無言でロンソを抜刀したので、僕は冷や汗を流すキョドるエモートをしつつ、人差し指を立てる。


「一つ目は悪い知らせからだ。この3年、少なくとも2年間の企業間競争は仕組まれたものだ。つまり、俺たちは決着がつくことの無い争いを強いられていた、ということになる」
「なんだと!?八百長だってのか!?」
「いいや。それぞれのトライ1プレイごとの結末が決まってたわけじゃない。だが、どこかが勝ちすぎないように調整されていたのは間違いない」


 しん、と5人が静まり返る一方で、コメントでは、それはそう、だの、せやな、だのと肯定されていた。5人には衝撃かもしれないけど、リアル事情としては、バランス調整というものがあるためだ。
 ヒーローは腕を組み、ダークは兜の顎に篭手の指部分を当て、アイドルは何とも言えない表情で斜め上を睨み、メカニックは頭を抱えてブツブツと何かを呟いている。そうやって記憶を掘り起こしているように見える。

 とはいえ、いつまでもそれを放置している訳にも行かないので、僕は話を進めることにする。


「その次、最悪な知らせだ。裏で糸を引く黒幕、5大企業ではない第6の派閥は、少なくとも5大企業の幹部たちが関わっている」
「5大企業じゃないのに、5大企業の幹部、が……?」
「この男の言うことを鵜呑みにするのならば、5大企業が裏で結託し、甘い汁を吸っていた、と、そういうことだろう」
「あ、そういうことか!あったまいー!」


 ややこしい話に混乱したアイドルが、要点をまとめてくれたダークに拍手を送り、照れくさかったのか、大した事では無い、と咳払いする彼女に、シリアスだった場は一転、ほんわかとした雰囲気に包まれた。

 5人はそれぞれ、ゲーム世界の地球にある5大企業に所属している。
 ヒーローは電化製品のおよそ全てを手掛けるVoltMugsヴォルトマグスに、ダークナイトは民間において類を見ない傭兵派遣企業であるFourDraghフォアドラガに、マジカルアイドルは世界を股に掛けるサブカルの大手企業MishCatミッシュキャットに、メカニックは全世界共通のトップシェアを誇る一大工業のTylaNorgタイラノーグに。

 ゲーム上ではフレーバー程度の要素だが、サブ目標という形でプレイに関わってくる。小遣い稼ぎ程度の認識だ。それを今回は積極的に突いていく。

 間もなく場の状況に耐え切れなくなったダークが、早く続きを話せ、と僕にアイコンタクトと言う名の睨みを送ってきたので、それに乗じて話を進める。


「つまり、俺たち木っ端にはどうしようもないって話だ。だから最悪って前置きをした。……そもそも俺たちは所属企業に栄光を約束されてここに立ってるはずだ。だが、実際はどうだ?これは裏切りじゃあないのか?」


 リアル事情から言えば、それを言ってしまうとゲームが成り立たないから暗黙の了解としてスルーされていた部分を敢えてほじくり返す。
 ヒーローを始めとする彼らは頷きと沈黙を返した。声を上げて反対しない、ということは少なからずそう思っているのだろう。……ダークだけはこの話を信じているか、定かじゃないが、それは今重要じゃない。

 なるほどそう来たか、とのコメントの読み上げが聞こえた。


※長くなったので切ります。
※この物語はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
※副題をつけるなら、ルール説明~前編~。


05

 前2つは黒幕がいて、それを直接どうこうするのは難しいという話をしたけど、次はそれに対抗する話をする。


「そして3つ目。良い知らせだ。俺はここに第七の企業、Sevesセヴェスを設立し、今日ここに集めたあんたらを勧誘する」
「俺と共にあの腰抜け共を蹴落とさないか?俺たちが頂点に立った暁には、指差して嘲笑ってやろうじゃないか!」
「一緒に天辺を取ろうぜェ?」


 ここぞ、と僕はトリックスターで身振り手振りと話術で場を盛り上げ、その場にいる全員をチームに招待した。
 第七の企業、Sevesセヴェスは知り合いのModderに発注して作ってもらったオリジナルModで追加する新要素だ。知り合いを集めてテストプレイはしたものの、今後出るだろう不具合は出来立ての企業として口八丁で誤魔化し、裏でまた修正してもらえばいい。

 これが僕の描いた絵だ。
 3年という時間を企業の裏切りとし、彼らの所属を新たな企業に移してチームを結成し、このチームで1位を目指す。

 それが出来るかはここからに掛かっているけど、果たして。
 トリックスターは自信たっぷりに、内心の僕は祈るような気持ちで十数秒が経過し、まず声を上げたのはヒーローだった。


「正直突拍子もない話で、何が何だかって感じだが。最初の話は分からんでも無かった。思い返せばここまで勝負がつかねぇのは妙な話だ。だからってわけでもないが」

 そう言って彼は僕の方に一歩踏み出した。

「黒幕が悪い奴らってんなら、それをブッ倒すのが俺の仕事だ。その話、乗った。これからよろしくな」
「おう、頼りにしてるぜ」


 まず、一人。想定でも最初に立つのは彼だと思っていた。何より正義感の強い彼がこの話を無視するとは思えなかったからだ。これは、先にあったダークの甘い汁発言も根拠になっていると思う。ナイスアシストだ。
 続いて立ち上がったのは、やっぱりマジカルアイドルだった。


「話はよく分からなかったけど、悪い奴らを倒すんならボクにお任せだよ!よろしくぅ!」
「あ、あぁ。別に直接ブッ倒すわけじゃないんだけど、よろしく」


 これも想定通り。文字通りの、元気と勢いと正義感の塊だから。
 それはマジカルアイドルをRPしてきた僕が一番よく分かっている。分かっているけど、実際に相対すると、なんというか、コメントに困るな。

 実際これはコメントも、あーあ、とか、騙されてるよマジカルちゃん!とか、散々な言われようだ。
 続いても、想定通りのメカニック。


「あ、あの……もし、先ほどのお話が本当なら___ちょっと、いえ、かなり許せない、ので」


 ズアッ、と、ほんの一瞬だが彼女から膨れ上がる怒気を感じ、その場にいる全員が思わず彼女に視線を向けた。ダークなどはまた剣の柄に手を置いている。

 それはそうだろう。彼女はこの3年の間で、何度も敵チームに彼女作の機械こどもたちを壊されて憤っているのだ。彼女が自分の製作物に掛ける情熱は、いっそ偏執的ですらある。

 これまで彼女はこれを必要な犠牲だ、と割り切ってきたが、3年も続かなければ、その数は抑えられていたはずだった。それが仕組まれたものだとしたら、それがかもしれない、であっても、到底許せないことなのだろう。


「協力、します。よろしくお願いします」
「あいよ。よろしくゥ」


 とはいえ、中身を知っている僕はいち早く我に返り、彼女に返答することができた。……さて、問題は残る一人だ。

 最後の1人、ダークナイトは僕らを一人一人見つめた後で、一つため息を吐くと口を開いた。


「はっきり言えば、証拠が無い。これに尽きる。だが、それはそれとして、私も今の状況には不満を抱いていた。1度や2度勝っただけで満足するわけではないだろう?どうやってコケにするつもりだ」


 正直、そう来るとは思っていた。彼女はこの中で一番懐疑的だ。この理由では納得しない、とも思っていた。だからこそ、ダメ押しとして、僕は今回の勝利条件の一つを提示する。


「まぁ、基準は後々考えるとしても、連続10回勝てば中指立てられるんじゃないか?」
「ほう、言ったな?それを約束するならチームに入ってやってもいい」
「……ってことだが、皆いいか?」


 とはいえ、ここにいる3人が納得すれば、だ。
 ヒーローはやってやろうじゃねぇか、とやる気満々で、他2人は僕に任せるつもりらしく、頷くだけで何も言わなかった。
 実際、無謀とも言える挑戦だが、僕はこのチームのポテンシャルを信じたい。というわけで。


「それじゃあ、第七企業の初チーム結成だ!よろしく頼むぜ、皆!」
「おう!」「おー!」「……はい」「……」


 そうやって、ようやく僕らは、スタート地点に立ったのだった。


※この物語はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
※副題をつけるなら、ルール説明~中編~。


06

 チームを結成したなら、その後は、それを踏まえてテストプレイだ。
 そのため、僕はあらかじめ用意しておいたテロップを配信画面で表示する。細かいルールも最初から決めておかないと、混乱が起きるからだ。

 実際の流れとしては、配信開始→カスタムのサーバーを立てる→AINPCたちをロビーに呼び、待機→リスナーにパスワードを公開→1ゲーム目開始、となる。

 週2の6時間配信を3ヶ月行い、計72時間のプレイで10連続1位を取れば僕の勝ちだ。1プレイ当たり20~30分程のため、配信1回で最低10プレイできる仕様とした。
 僕が負けたら、罰ゲームとしてこのゲーム以外のリクエストの多かったゲームのプレイと、苦手なホラゲーのプレイをすることになる。それが何が何でもイヤ、というほどじゃないけど、負けるのはイヤだから、闘志は十分だ。

 改めて勝利までの流れを説明すると、5人パーティー6つの計30人がフィールドを経由してダンジョンへと向かい、その内部でボスを討伐するか、コアを破壊することで勝利となる。
 序盤はフィールドでPvEのファームをしてレベルを上げ、能力値を整えてから、PvPvEのダンジョンで遭遇戦をしつつ、ボスかコアを目指すこととなる。なお、ボスの場合は貢献度、コアの場合は累計ダメージが高いプレイヤーのいるパーティーの勝利だ。

 ゲームは妨害あり、告知なし、謎解きなし。
 それぞれ、PvEの段階からの妨害の有無、フィールド名・ダンジョン型の告知の有無、鍵付き扉の内、謎解きで開くタイプの扉無し、を指している。といっても、妨害あり以外は始まれば分かる事だろう。

 同時並行でMODを公開したら、恐ろしい勢いでDLカウンターが回っていく。ジワジワと実感が湧いてきて、思わず体が震えた。今回はいわゆるサブスク勢の僕を応援してくれているメンバー参加だけになるけど、今後一般リスナーも増えたら、と思うと今からワクワクしてきた。

 ゲームメニューからカスタムの管理画面を出し、パスワード公開の準備をする。そしてとうとう、後はパスワード公開のチャットを飛ばすだけとなり……。


「それじゃあ、始めるぜ?準備はいいか?」


 そう言って、リスナーとAINPCたちを焚きつける。
 そして、口々に上がる声と読み上げ音声を聞き、僕はチャットを送信した。


 そして、間髪入れずにパーティー枠が埋まり、即座にゲームが開始された。MODを上手く入れられなかったのか、2人ほどが脱落し、プレイヤー総数が28/28になっているが、しかたない。幸い、4人パーティーが2つのようで、3人パーティーという負け確は生まれずに済んだ。

 少々きついかもしれないが、そこはやってもらうしかない。それを含めてのテストプレイだからだ。

 ロード画面が終わると、僕たちは荒野へと放り出された。
 となると……僕は周辺を見回して、北と南東に敵mobの発生を確認して確信する。


「大体南西、ダンジョンよりは遠くってところかな」
「おっ、そうか。それじゃあ急ぐか?」
「そうだね。Coreかもしれないし、気持ち急ごうか」


 僕はヒーローとそう会話して、皆と北側の敵mobの方へと向かう。

 最初にプレイヤー達が放り出される場所はフィールドと呼ばれている。草原、沼地、山岳、と種類は様々で、場所ごとに特徴がある。荒野は見通しが良く、敵湧きが多いフィールドだ。
 そして、敵湧きの位置はフィールドごとに決まっているため、こうやって現在地を把握することができる。これは、ある程度長くこのゲームをやっていれば、覚えようと思えば覚えられるスキルだ。

 特に荒野は障害物が枯れ木と岩ぐらいしかないから分かりやすい。これだときっと他のパーティーも、ある程度現在地を把握して戦略を立ててくるだろう。

 とはいえ、まだCoreと決まったわけじゃない。もう少し接敵すれば、Coreかどうかが分かるだろうから、それまでは保留だ。となると。


「方針はバランス型。いつも通りやってくれ。いざとなれば俺とアイドルに経験値調整で合わせてくれれば技能交換エクスチェンジが出来るから、Coreと分かればそれで頼む」
「なるほど。了解した」


 自然と僕が司令塔、いわゆるIGLの立場になったけど、ダークナイトも僕の説明を一理あると思ったのか、従ってくれそうで助かった。このままふざけなければ信用はしてもらえそうだ。
 少なくとも僕は競争マッチ中にそういうことはしないつもりだから、このまま行けば不安要素は無くなるだろう。


「接敵!クレイイモムシキャタピラーデカいラージモスキートだ!俺とメカニックが蚊!他はイモムシを頼む!」


 敵の集団を視認した僕は、南南東の集団を一瞥して距離があることを確認すると、各員の割り当てを言い放つ。素早さの追いつく僕と、遠距離手段のあるメカニックが厄介な蚊の担当だ。
 基本的に、雑魚敵は強くはないが弱くもない。油断してると持ってかれるから、特徴に合わせて効率的に狩るのがベストだ。


「おっしゃあ!ブッ飛べ!」「急所を、曝け出せッ!」
「いっくよー!お腹にドーン!」

「おっと危ない、カウンター!」
「狙い打つ!」


 前衛ヒロダナがイモムシをひっくり返し、後衛アイドルが杖による魔法攻撃を柔らかい腹に当てる一方で、僕は蚊をナイフで突いて引き寄せ、カウンター狙い。メカニックはハンドガンで蚊の羽と腹狙いだ。
 なお、武器とエフェクトの違いはあるものの、威力は一律同じだ。けれども、育成方針によって立ち回りは変わってくるから、最初にこうやって決めておくことがセオリーとなっている。

 通常攻撃は弱いものの、敵も序盤でそれほど強くない。何度か繰り返すと、雑魚敵は地面でピクリとも動かなくなった。ということで。


「イモムシ討伐完了だ!」「レベル上昇処理に入る」
「レベル上がったよー!」「私も」「俺もだ」


 敵を倒せばレベルが上がる。
 レベルが上がると、3つの候補が目の前に現れる。いわゆるローグライト方式で、3つから1つを選ぶスタイルだ。

 僕は基礎能力上昇のSPD素早さ+10、MaxSTスタミナ+10、DEX器用さ+10からSPD+10を選び、その強制ウィンドウを消した。ちなみに、ウィンドウが開いている間は視界は悪いが動くことができ、攻撃は出来ないが無敵状態だ。

 ただ、基本的に開いていて良い事は無いので、さっさと選んで閉じるのが一番いい。時間がもったいないから、あらかじめどういう方針で育てるのかを決めておくのがいい。


「よし、次は東だ。先行して索敵する」
「頼んだ」


 そうやって、最初の戦闘を無事に終わらせた僕らは次へと向かった。


※この物語はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
※副題をつけるなら、ルール説明(まだ終わらないってマ?)。


07

 あれから少し進みスキルが揃い始めた頃、僕らは分岐点に立っていた。というのも、そろそろ予測をはっきりさせないと、中途半端な構成となってしまうからだ。

 現状、僕らはバランス型でスキル構成をしている。とはいえ、元はソロで野良パに加入するプレイスタイルだから、一人最低二役出来る余地を残してある。

 僕、トリックスターは索敵と遊撃、ダークナイトは自己回復壁と火力、ヒーローは壁役と火力、アイドルは回復と火力、メカニックは索敵と火力、というように。けれども、どちらかを取らなければパーティーの強みを生かせないから、中盤までにその役割を発揮できるように育てる必要があるんだ。


 ただ、もう既にこれまでの状況から、目指すところは決まっていた。
 何度もプレイしていると、その時の環境や状況から、ある程度最終目的が予想できるようになってくる。その経験則から言えば。

 フィールドが比較的簡単な部類である荒野であること、荒野は雑魚が集団で湧くのだが、その数が通常より少ないこと、遠くにうっすらと見え始めたダンジョンの入り口が、仰々しい大きな門であることから、8割方、最終目的は『ダンジョンコアの破壊』だ。

 ……配信的には最初は『ダンジョンボス討伐』であってほしかったけど、CoreコアはCoreで各キャラの見せ場が大いにある。
 それに、いや、まだそれはいいか。

 とにかく、まずはその説得からだ。

 周辺に雑魚敵の影が見えないことを確認した僕は、真っ先にヒーローに話しかけた。会話始めは確実に答えが返ってくる相手が好ましい。


「ヒーロー、最終目的はおそらくダンジョンコアの破壊だ」
「ん?そうなのか?」
「ああ、法則性があるのさ。ここからでも薄っすらダンジョンが見えるだろ?あのでっかい入口は神殿型の特徴だ」
「嘘を吐くな。あの入口でもボス討伐だったことがあったが?」


 すると、反論が釣れる。これを説得する。


「それ以外にもあんだよ。荒野は比較的簡単なフィールドだ。フィールドが簡単だとCoreになりやすい」
「へぇ~、そうなんだ!」
「占いに付き合っているヒマはない」
「それに、見る限り普段より雑魚の数が少ない。この場合、Coreが有力だ。メカニックなら分かるんじゃないか?」


 とはいっても、素直に納得するはずが無いから、僕以外の意見も入れる。この場合は、索敵もやることがあるメカニックを巻き込む、んだけど。そのメカニックは急に話を振られてしどろもどろだ。……そうだった、この子はそういう性格だったっけ。
 僕が中の人だった頃は、何だかんだ上手いこと答えを返せたけど。この子は動揺が収まってもモジモジしたままで、僕が再度問いかけると頷くだけだった。これはパスをミスったかも。

 案の定、ダークナイトは懐疑的な表情のままだ。うーん、AINPCだとこういうデメリットもあるのか。ちゃんと僕が性格を把握しておかないと、後々とんでもないミスをしでかしてしまいそうだ。

 今もフィールドを進んでいるとはいえ、索敵しながら話すのは効率的じゃない。僕は一度、索敵に集中することにした。


 そして、とうとう他のパーティーに遭遇する。
 状況はフィールド中盤。どのパーティーも最終目標は中心のダンジョン中央部のため、いつかは遭遇することとなる。

 そのパーティーは、僕たちを視認すると素早く離脱していった。
 それを目撃するなり、ダークナイトが僕を糾弾する。


「おい貴様。索敵はどうした?」
「他パーティーは妨害してこない。それは最終目的がCoreだからさ。Bossなら妨害してきただろうけど、来なかったろ?」
「……チッ」


 僕は敢えて索敵から他パーティーを漏らした。それはこの結果が欲しかったからだ。若干ギスっていた内情は、14から、ダーク14に成り代わる。情報元は2つに増えた。ダーク以外のキャラもバカじゃない。
 他のパーティーが間違えている可能性もあるけど、僕たちは他パーティーをライバル視する程度には信じている。それが答えだった。


「方針をCoreに切り替える。各員、火力特化構成だ。ダークはそのままでもいいんじゃない?元々そういうスキル構成だし」
「……」


 彼女は答えない。でも、反論もしなかった。

 ダークナイトのプレイスタイルはHPを消費して大火力を叩き出す闇の騎士だ。Bossの場合は回復を受けつつ、余剰HPでボスを削る必要が出てくるが、Coreの場合は自己回復スキルを取り、被弾や自傷しつつHP調整して特大火力を叩き出す必要がある。

 Coreの勝利条件は個人のコアに対する累計ダメージだ。累計ダメージランキング1位のプレイヤーがいるパーティーの勝利となる。つまり、パーティー戦というよりかは個人戦なんだ。
 特にバフ、デバフという概念が無いこのゲームでは、如何にしてフィールド上でスキル構成を完成させるかが問われてくる。

 そして何より、運ゲーだ。レベルアップにより出てくる3つの選択肢は条件はあれどランダムに決定される。すなわち、必要なスキルは早期に・・・取っておく必要がある。


 だから、僕は後ろの方で、ダークがアイドルと内緒話をしているのを見て見ぬふりをした。
 自己回復スキルの等級はレアだ。たまに出現するけど、残り時間でそれが出るとは限らない。その保険を掛けに行ったんだろう。それは別にいい。最終的に僕らのチームが勝てばいいんだから。

 ダメージソース性能で言えば、純魔法構成のマジックアイドルよりも、HP消費火力構成のダークナイトの方が優秀だ。その分HP管理は難しいものの、それを成功させたときの成果は著しいものがある。

 成功すれば儲けもの、失敗すれば従わせることができるだろう。どっちにしても、僕が1位になるつもりなんだから。

 野良のCore戦ではいつも他パーティーの妨害に回ってたけど、今回その役割をメカニックに任せて暴れ回ろうと思う。……これも運ゲーだけど、どっちでも映えるから、やる価値はある、と思う。

 フィールドが荒野だった時点でCore決め打ちしていたんだから。
 決まれば今後やりやすくなる。決まらなければリーダーはヒーローに譲って暗躍する。どっちにしろ、僕に不利益はない。


 でも、それはそれとして、僕は配信者だから。
 成功を目指すさ。


※この物語はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
※副題をつけるなら、反発。


08

 戦況は中盤へ。
 僕たちは極太の蛇のようでいて蛸の触手のようでもある謎生物が巻き付いた様相の巨大な門をくぐり、ダンジョンへと入っていく。

 このダンジョンは遠くからも見えていたけど、神殿型だ。
 神殿型の特徴は巨大な通路と細い路地からなる、特徴が無い故に迷いやすい構造にある。中央から十字に巨大な通路が走っているわけではなく、完全にランダム生成のために行き止まりが多いため、バラバラに分かれて探索すると効率的に周れる。

 一方で、巨大な通路には障害物や遮蔽物が無いため、他プレイヤーに見つかりやすいというリスクも孕んでいる。むしろ、この時点でバランス型、即ち、対Boss想定で進んできたパーティーにかち合うと、やられるのは個人で動いているこちらだ。

 だからこそ、速やかなクリアリングと、素早さに任せたマッピング、そして細かな報告が必要、というわけだ。


「目標は中央。雑魚無視、敵無視、P回避。行き止まりの報告を忘れるな!辿り着きしだい合流!散」


 ダンジョンは基本的に遭遇戦になる。
 PvPが解禁され、敵パーティーにダメージが通るようになるため、敵プレイヤーに遭遇した場合、その対応を迫られることとなる。
 また、PvEも無くなったわけじゃない。巨大な通路では雑魚湧きもある。

 けれども、僕たちはすでに最終目標をCoreに絞って、ダンジョンに入る前にスキルをほぼほぼ完成させてきた。つまり、それらは遅延であり、回避すべき対象だ。だから僕は雑魚と敵プレイヤーは無視、パーティーがいた場合でも回避を選んだ。

 これがスキル未完成の場合は、一番ダメージが出せるプレイヤーを除いて他は妨害にまわすのが定石だ。そのプレイヤーは雑魚を狩りつつ、Coreを目指すこととなる。


「さて、と。どうなることやら…っと」


 僕はパーティー内でも最速ということもあり、左回りで道を潰していくこととなる。2番目の速度のメカニックは逆回りで他は各々分散していく感じだ。
 このゲームのダンジョンの迷路は迷路のセオリーを踏襲していることが多い。つまり、遠回りの道が正解であることが多いんだ。

 だから、速い僕らが虱潰しを行い、他が運任せ、という確実性の高い方法を取っている。


「NW行き止まり。次の路地に入る」
『『了解』』『分かった』『はぁい!』


 念のためパーティー内のみに一時的に見えるマーカーで位置を示し、即座に次の路地へと入る。
 まずは、通路に入る前に周辺を見渡し、その後ピークで腰位置当たりから頭を出す。これは遠距離攻撃で頭を抜かれないようにする対策だ。そして、目で見て敵プレイヤーがいないことを確認したら、通路ごとにそれを繰り返していく。

 ダンジョン内は毎ゲーム未マッピングの状態から始まり、プレイヤーの視認した範囲が画面上のミニマップに表示されていく。また、マッピングした部分は他プレイヤーと接触しないと共有されない。

 そのため、細かな報告をして探索を被らせないことが求められるわけだ。
 なお、これに伴って僕は事前にリスナーに断り、読み上げをオフにしている。混戦するとワケが分からなくなるからだ。


『こちらNE。敵プレイヤーに遭遇。互いに戦闘回避』
『SE行き止まり』
『N行き止まり』


 そして、それをミニマップではなく脳内地図に書き込み、的確な指示を送ることも大事になってくる。特に当てずっぽうで進んでいる3人の動かし方が重要だ。

 僕の方も油断なく探索しつつ全体を見るのはもう慣れたけど、それでも中々に大変だ。どちらも疎かにしないように、バランスを保ちつつ視線を走らせ連絡を取っていく。


「アイドル、そこはもう探索済みだから別に行ってくれ」
『はーい!』
「ヒーロー、そこから下側に未探索が多い。行けるなら頼む」
『おう!行けるぜ!』
「ダーク、逆方向に進んでくれ」
『了解した』


 そうすることで、徐々に行き止まりの分布が明らかになり、大体どの道が正解ルートなのかが分かって来る。そうやって、僕と、それからメカニックがそれぞれ、おそらく正解と思われるルートへとたどり着いた。

 ここから先は敵プレイヤーと遭遇する可能性が高い。だからこそ、すでに他3人には招集をかけ、僕の方に2人、メカニックの方に1人を呼んだ。これはリーダー権限とかじゃなく、単にスキル構成上、僕の方が打たれ弱いからだ。だから、回復役としてアイドル、そして彼女が必要なダークが僕の方へと向かっている。

 それを待たずに、速度調整をしながら僕は先行して通路へと進入する。いずれにせよ、索敵は必要だからだ。
 ただ、今回の索敵は威力偵察ではなく、先に僕が敵を見つける索敵である必要がある。だから、必然的に探索速度は遅くなり、彼女たちが追いついてくる、というわけだ。


「マジカルアイドル合流したよ!」
「ダークナイト合流」
「よろしく。まだ行き止まりじゃない。ジワジワ進もう」


 パーティーチャットだから、声を小さくする必要はないものの、普段より声のボリュームを落としたアイドルと、それにつられて声が小さくなった無自覚ダークに和みつつ、僕は彼女たちを先導する。

 程なくして、メカニックの方も合流し、進んでいるようだった。が。


『先に3人!他パーティーと交戦中!』
『背後に敵影無し。どうする?やるか?』
「いや……身を隠せそうな通路があるか?」


 メカニックの上ずった声とヒーローの落ち着きのある声で報告があった。僕は少し迷った後で、その周辺を見てもらう。漁夫ることも考えたが、2パーティーしかいないのであれば、更に後ろからド突かれる可能性もある。
 それなら、一時退避して様子見した方が良いと判断した。


『細い路地が一つある』
「そこに隠れて、戦闘が終わりそうな時に、もう一度後続がいないか見て突撃。リーダーはヒーロー。メカニックはヒーローに従ってくれ」
『わっ、分かりました!』


 その場面だと、焦らないことが何より大事だ。ヒーローはその辺り、よく分かってるな。メカニックは…性格上仕方ないけど、プレイヤースキルはヒーローより高いから、いざという時に指示があれば上手く動けるはずだ。

 となると、僕らの方はハズレかな。と、思っていると。


「コアだ!」
「えっ?それマ?」
「先に行くぞっ」
「あっ!?ダーク待て!……くっ」


 僕らの進む先に武骨でいかにも頑丈そうな機械群に接続された、巨大な紫色のクリスタルに攻撃を仕掛けている敵プレイヤーたちが見え。

 逸って突撃しようとしたダークを、巨大な槍状の閃光が貫いた。


※この物語はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
※副題をつけるなら、ダンジョン攻略。


09

 その兆しが読めなかったわけじゃない。
 ただ、僕が本当の意味でAINPCという存在を理解出来ていなかった。ただ『中身が僕ではない』というだけで、状況がこんなにも変化するとは思ってなかったんだ。


「カバーするっ!回復頼む!」
「分かった!…っ!」


 背後から息を呑む声がした。僕の目の前に現れたのが、重量級のプレイヤーだったからだ。だけど。

 一瞬前の記憶を思い出し、僕は口の端を吊り上げる。
 これは驕りじゃない。確信を伴った自信だ。

 だから、僕は目の前のプレイヤーの大ぶりな攻撃をスキル補正無しで回避して、その後ろの物陰に一つだけ取っておいた目晦まし、閃光弾フラッシュを撃ち込み、着弾点に背を向けて回避。

 一瞬だけ見えた人影の背後に目算で回り、ノールックで首を刈り取ろうとしたけど、空振りした。……魅せようとして失敗したけどしょうがない。僕は、後ろにハンドスプリングして距離を取る。

 これで、アイドルとダークのタッグ、それから僕で、敵パーティー2人を挟んだ形となった。


『3v2挟撃!ダークは囮!先にチビだ!アイドルはダークの回復!』
『…了解した』


 反抗は勘弁してくれよ、と思っていると、一瞬のためらいは見えたものの頷いてくれた。

 デカブツがダークに大ぶりの攻撃を仕掛け、彼女はそれを弾くも、体を大きく揺らす。それは一見、ダークがデカブツに翻弄されているようにも見えるけど、あれは囮役を引き受けた彼女の巧さだ。

 生真面目な性格だから、自分のミスを自分で濯ごうとしているんだろう。お陰で僕は自由に動くことが出来る。


 僕の目の前で僕の攻撃を必死に避けるのは、デカブツを無限の壁にしようとしていたチビだ。大方回復役で、あれの背後から延々と回復しようとしてたんだろうけど、そうはいかない。

 体格が小さいように見えるものの当たり判定の大きさは同じだ。だから、大袈裟に回避しているように見えても、実際は判定ギリギリを掠めている。中身は上級者っぽいけど、キャラ性能の相性が最悪だ。

 片やアサシンビルド、片や純ヒーラービルド。万が一にもヒーラーの勝利は無いだろう。実際、間もなく勝敗はついた。
 クリティカルで胸部を一突き。僕の勝ちだ。


『3v1挟撃!デカブツを処理!アイドルは回復!』
『その言葉を待っていたッ!』


 瞬間。ダークナイト、怒りの反撃にて、デカブツは沈んだ。
 ダークナイトの十八番、血の惨撃tragedy of bloodだ。戦闘開始から失ったHPと、現在のHP量を参照して高倍率の火力を叩き出す血塗れの一撃だ。もっとも、このゲームに流血表現は無いんだけども。

 どうやら、僕がヒーラーを追い詰める間にアイドルと相談してHP調整していたらしく、攻撃許可が出た途端にっちゃったらしい。

 慌てて横に回ったけど、時すでに遅し。
 丁度デカブツがご退場エフェクトするところだった。…これはAINPCにもカメラ回させないとダメかもしれない。出来るのかな?そんなこと。


「ふふん、どうだ?やってやったぞ!」
「あ、あぁ。仕返しおめでとう…?」
「うむ。……いや、コアに向かうぞ」


 鬱憤を解消したダークはちょっとテンションが上がっていたけれど、すぐに元の調子に戻って作戦続行を促してきた。…いや、いいんだけどね?
 ちらりとアイドルに視線を向けると、ウィンクとサムズアップをしてきたので、サムズアップを返しておいた。


 なお、先ほどの相手は重騎士ヘビーナイト回復術士ヒーラーだった。これは外見がそう、という話ではなく、スキル構成の話で。

 他は弓使いアーチャー魔術士マジシャン盗賊シーフのおそらくRP勢だ。だから、対Boss想定のバランス型を意図的に選び、一発逆転に掛けたんだろう。神殿型でも低確率でBossになる方に掛けたんだ。
 だけど、そうはならなかったからDPS戦では役に立たない壁役と回復役を伏兵として妨害役に割り振った。それなら見せ場もあるからだ。

 けれども、作戦は見破られてあえなく撃破。逆に見せ場にされてしまったが、多少の時間稼ぎにはなった、と。そんなところだろう。


 ある意味前哨戦でスキル回しを温めた僕らは、そのままダンジョンコアへとクリアリングしつつ向かう。
 ヒーローとメカニックはまだ遠い。合流にはもう少しかかるだろう。
 
 それからは特に何もなく、僕らは無事にダンジョンコアへと到達し、先駆け一発、コアへとスキルを叩き込んでいく。

 僕が放ったのはコンボ開始のスキルでもある刃の戦端edge of blade。何の効果も持たず、連続使用は出来ないがDPSが優秀なスキルの一つだ。
 ここからクリティカル狙いの連撃が僕の目的。コアは明確な弱点が無い。だから手数で回数出そうという腹だ。

 一方、他プレイヤーの方へ向かったダークが放ったのは大いなる血界the red world。範囲内の敵味方含む対象のHPを削るスキルだ。
 彼女が火力を出すためにはHPを減らすことが必要だ。そのため、わざと周囲のヘイトを買って攻撃させる・・・ことも目的の一つとなる。その特性上、周囲から狙われることになるけど問題ない。

 彼女には優秀なヒーラーが付いているんだから。


「ぐっ!よりにもよってダクたんっ!」
「回復砲台どこだ!?」
「……げぇっ!?HFだ!!やられた!」


 血界によって対策せざるを得なくなった3人の敵プレイヤーは、普段配信でしか見られない戦闘を間近で見られて感動する反面、その状況の不味さに悲鳴を上げた。

 そのヒーラーは、ダンジョンコアの下部にある機械とコードの群れの中に身を潜めていて、足元で味方を判別し、回復スキルを放っている。
 そこは一種の安全地帯となっていて、這うことでしか中に入ることが出来ない。精々が、辛うじて頭を出すことでスキルを撃つことが出来るぐらいだ。

 けれども、モーションのあるスキルはほとんどがキャンセルされる。這っている、という状態で撃てるスキルは少ない。けれども、杖をスキルで得て、その杖を媒体にスキルを撃ち出すスキル構成、回復術士ヒーラーならこのデメリットを負わない。

 そこは通称、回復要塞H(eal)F(ortress)。ここに逃げ込まれると手が付けられないためだ。たまに出す頭に集中していると、アタッカーに攻撃されジリ貧になる。敵にしてみれば最悪の場所であった。


※この物語はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
※副題をつけるなら、ダンジョンコア戦、突入!


10

※引き続きコア戦。
 ここでスキル関連の説明不足過ぎに気付き頓挫。

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