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死刑制度の賛否を問う授業にて

photo by kkortmulder (pixabay)

高校の頃、倫理の授業でディスカッションを実施した。お題は「死刑制度の賛否」で、賛成と反対それぞれ自分で意思表明し、二手に分かれて議論をする形式の授業だった。

前日までに賛否とその理由を書いた紙を先生に提出した。当日を迎えたが、先生も想定していなかったことが起きた。

賛成29、反対0、その他1という賛成が圧倒的だった。これではディベートにならないね、ということで、結局意見の棚卸だけすることになった。

賛成派の言い分としては、自分の家族が巻き込まれたと仮定したときの感情移入した意見が多かった。

「―もし家族が殺されたとしたら、犯人を許せる気がしない」
「―死刑になるほどの犯罪者を世に放つこと自体がリスク」

どの意見ももっともだな、と納得させられる一方で、私は違和感を感じていた。

ひとしきり賛成意見を聞いたあと、先生が「その他」の意見として私を指名した。

私は今まで聴いていた賛成意見に対して、どれも納得がいくことだし、自分もそう思うかもしれないという前置きをした。

そのうえで、じゃあ死んで終わり、はいご破算です。痛み分けです。と言われてちゃんと納得できるのか、という話し始め方をして、賛成派に疑問を投げかけた。

念のため注釈として言っておくが、これは罪を犯した相手をどうしたいのか、という被害者側のエゴで刑を決めていいという話では全くない。全員が賛成意見で理由が感情的だというなら、賛成派が耳を傾けやすいように、相手の感情に寄り添った提案をしようとしたまでだ。

死を持って償う以外に、生きてしっかりと罪に向き合う、という観点もあるのではないかと提案する。

当然、人一人を何年も生かすには大きなお金が必要だ。だがもし償ってほしいという思いがあるのであれば、死して終わりでは不十分だ。そもそも罪に対する罰として、果たして死がゴールとして正しいのか疑問が残る。償うとは、自らが犯した過ちと向き合い、反省することだ。死を持って精算できると言い切れるのだろうか。

その一方で、死刑という手段を取ることで何年も収監する費用を削減できたり、社会復帰後の再犯をそもそも実行不能にするなどの効用もある。また、憎い相手が死に、この世からいなくなることで踏ん切りをつけられる遺族もいるかもしれない。

死刑制度には、クラスの外、つまり世の中でも賛否は分かれていることは知っていた。では何故賛否分かれているのか、賛成意見だけでは分からなかっただろう。各意見に対する支持者の数と質が拮抗してこそ、議論は活性化する。私は当初の予定では「少ないほうの味方になって議論しよう」と思ってその他にしたが、まさかこんなことになるとは思っていなかった。

ひとしきり話終えると、教室は静まり返っていた。納得がいかない、といった面々だが、死刑を100%肯定もしていないし、100%否定もしていない私の論調には反論しにくかったのだろう。自分でもズルいとは思うが、世の中は曖昧なグラデーションの中で模索しながら、ぶれながら蠢いていることを直感的に感じていた。そんな私からのちょっとしたアンチテーゼだった。

これを機に、私は元々クラスから浮いていたが拍車がかかったように思える。分かりやすいイジメなどはなかった。それでもどこか腫れもの扱いではあった。なんだか馴染めない。幼稚園の頃から高校の今までずっともやもやしていたが、このディベート(?)をきっかけに、自分の考え方が周囲とずれていることが分かった。それは、浮くはずだ。それが分かっただけでも、自分にとっては収穫があった。

だが良いこともあった。ディベートは1月に行われた。翌月のバレンタインデーの日、クラスの一人の女の子に廊下に呼び出され、チョコレートをプレゼントしてもらった。

当時、私には不可解だった。そこまで親密だったわけでもない。まして、クラスの厄介者の私にわざわざ施しをするなんて。

今思うと、あの子には私の言葉が届いたんだなあ。
私にチョコをあげるところを誰かに見られて、いじめられたりしなかっただろうか。少し、気がかりだった。

あれから云十年。
今、私の言葉は誰かに届いているのだろうか。
なんだか馴染めない、その気持ちはずっとある。
ふとした瞬間、寂しさを隠しきれずに顔に出ていると、妻にも言われることがある。

強く根付いた「どこにも居場所なんてないんじゃないか」という寂しさが、
「誰かに声を届けたい」という気持ちを強くしているような気がしている。


正道ではなく邪道。素直ではなく愚直。まっすぐすぎて型に嵌れない。そんな不器用な私でも、なんとか生きている。そのギリギリの線上で。

僕はいつも怖かった
また独りになることを恐れて
思いが強くなる程
寂しくなるのは何故

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