どうしようもない個の弱さを抱えて
新学期の忙しさに揉まれながら一歳年を取り、気がついたら4月も終わりだ。腰を据えて文章を書く時間がないわけでもないのだが、仕事でアクティヴに動く分、日々は受動的になる。読書や映画や試合観戦の数を重ねていると、自分が「現地」で何事かをしたような気になるが、思い直すと僕の日常は他者の創造に立ち会うだけであり、受け身の時間が増えていく。
『オッペンハイマー』はすでに多くの批評家に語り尽くされている。原子爆弾を生み出した科学者の物語は、クリストファー・ノーラン特有の作品構造、あるいは