いつか高木美保になりたい


 不躾ながら第一希望としては高木美保さんの隣席を。いつか自分がテレビに出るような存在になったとして取り組んでみたい役職といえばやはり、「芸能人歌がうまい王座決定戦」あるいは「モノマネ歌合戦」的なテレビ番組の審査員である。無論、審査がしたいわけではない。しっとりと歌い上げる芸能人を前に、そのAメロのワンフレーズを聴いて「オオ〜」と歌の上手さ・モノマネの技巧に感嘆するあのリアクションを取ってみたいのである。やれやれ駆け出しタレントのお手並拝見、一発屋の歌なんか誰も興味ないよとそんな態度でイントロを過ごし、その歌声に一瞬で掌を返して「オオ〜」のリアクション!ヘッドフォンをグッと押さえて心を揺さぶる歌に集中。サビの頃にはそのグルーヴに酔いしれて目を閉じてしまうだろう。アレがどうしてもやりたい。

 昔、好きな芸人が歌うま番組で優勝したことがあった。そのしばらく後にその芸人の生配信番組を見ていたら「歌手じゃない人の歌唱力競う番組って意味わかんないしつまんない。まあ私は優勝しましたけどね、高木美保さんが泣いてくれたんで。」(ニュアンス)みたいなことを言っていてウケて笑顔になった。高木さんはよくそういう番組で審査員をやっていて、いつも誰かの歌に感動しまくっていた。それから私の中のさまざまな決定戦の優勝を握る審査員は高木美保さんになってしまって「ここで高木美保が泣くかだけが勝敗を決めるのだろう…」という錯覚を何度も起こしてきた。高木美保さんはたしかにあのとき決勝戦の歌を聴いて泣いていて、コメントを求められたときも感極まっていた。それ、やりたい。歌を聴き終えても余韻で何も言えなくなって泣いているようなやつ、やりたすぎる。

 とはいえ、私にはまだまだ歌うま審査員を務めることができない。なぜか、それはあの席に座るだけの審美眼とそれを世間に認められる説得力等の不足ももちろんあるのだが、そんな現実的なことはさておいて。いま自分が芸能人歌うま番組の審査員に大抜擢されたとしたら、必ず、出場者たちではなく審査員のリアクションをガン見して夢中になってしまうからだ。もし高木美保さんがいたら、高木美保さんを窃視し続けてその仕事ぶりに涙を流してしまうかもしれない。叶美香さんと同列に並ぶには、まだ訓練が足りない。いつか審査員のリアクションではなく挑戦者の歌に集中できる自信がついた頃、絶対に審査員をやりたい。オオ〜。

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