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「保護を与えるのではなく、機会を与える」必要なきっかけを届けていきたい。

現代の日本社会には、すでにさまざまな制度や組織による支援活動があるにもかかわらず、その隙間からこぼれ落ちてしまう方たちが少なからずいます。そもそも自分が置かれている環境しか知らないため生活を変えようという意思を持てなかったり、支援制度の存在を知る手段がなく自分の望む生活を諦めてしまっていたり。彼らの中には他者の存在なしには社会に参加する機会さえ得られない方もいます。
私たちはこうした社会の死角に生きている方たちと日々接しながら、きっかけを提供する活動を続けてきました。この状況を変えるために何ができるのか?できれば皆さまと一緒に考えていきたいと思い、今後noteでこうした方たちの存在についてお知らせしていきたいと思います。


一人ひとりに対応するために

まず、私たち自身についてご説明しておきたいと思います。私たちはギルドグループとして関東一円で労働集約型の事業を展開しています。さまざまな方を雇用していく中で、ごく一部ですが貧困者など生きづらさを感じる方たちが存在することを知りました。彼らの話を聞いているうちに、生活全般に関する相談や支援の場の必要性を感じはじめたのです。そこで2006年から枠を設けない支援活動「ギルドケア」をスタート。即日入居できる寮の用意、医療・税金の相談や食事会などの場づくり、既存の行政制度につなぐ活動など、自分らしい生活の実現に向け、一人ひとりの状況に応じたさまざまな支援を提供しています。

いわゆる社会福祉協議会やNPO団体の活動と重なる領域だと思います。私たちもこれらの団体と連携をしていますが、支援する方の枠を設けない点、活動費用は自社の事業活動に拠っている点が異なります。また、「営利」と「継続」を追う民間企業でありながらも、「社会問題の解決」も同時に実現したいと願っています。既存の組織やビジネスの枠組みだけではない原理で動くからこそ、「ギルドケア」では一人ひとりの課題に寄り添った支援ができているのかもしれません。

千差万別の課題に、非効率に取り組む

私たちが支援する方たちは文字通り千差万別な課題をお持ちです。そのため、モデルやパターンに落とし込んで効率よく対応することはできません。一人ひとりに時間を割き、話を聞き、必要だと思われる支援を考え、探し、交渉してつないでいく必要があります。実際に私たちがどのような活動をしているのかイメージをつかんでいただくために、ここでいくつかエピソードをご紹介したいと思います。

「助けてほしい」求人情報から入ったSOS

求職者を募集する求人広告の窓口に、ある日一本のメールが届きました。「助けてほしい。あるきっかけから公園のベンチで寝る生活を送っている。食べるものもない、交通費もないので迎えに来てもらえないか」というもの。いたずらの可能性もありましたが、切実さを感じたため、事務所から2時間かけて現地まで迎えにいきました。無事メールの送信者に出会え、食事を提供したところ、涙ながらに感謝を伝えてくれました。話を聞いてみると、職を失ってから路上で生活するようになり、どうしていいかわからなくなっていたとのこと。すぐに入寮・入社の手続きを取り、働くことで自分らしい生活を取り戻していきました。その後、自社制度を活用し警備員の資格を取得するまでとなりました。

独自の特性を持った方の生き方探し

行政から紹介を受けて入社した方がいました。興味や関心が次々と移ろう傾向があり、忘れ物も多い、通勤の途中で寄り道をしてしまう、業務中も一か所に留まれない、という状態でした。さまざまな工夫や支援をしてきましたが、弊社の業務は続けられないという判断になりました。しかし本人には身寄りもなく、現状頼れる制度もありませんでした。そこで本人の特性に沿う仕事がないか、受けられるサポートがないか、行政とも相談しながら自活できる道を探す支援をしました。

入れ歯をつくるという背中の押し方

従業員として働いていたあるスタッフ。すでに多くの歯が抜け咀嚼できないため、食事も流動食中心。本人も周囲の視線を気にしてマスクを外せない状態でした。「入れ歯があれば」と本人ともよく話していたのですが、歯医者を予約するその一歩がなかなか踏み出せずにいました。それなら、と私たちで歯医者に連絡して入れ歯づくりの手配を代行。入れ歯を入れてからはマスクも外して会話ができるようになり、「から揚げがおいしい!」と食事も楽しめるようになりました。わかっているけど動き出せない、そんな状態を変えるためのきっかけを提供させてもらいました。

いくつかのエピソードをご紹介しましたが、これは私たちが関わってきた方のうちほんの一部です。客観的に自分の状況を捉えられない、その状況を打破する手立ても見つけられない、自分一人ではどうすることもできず途方に暮れる方々に、これまで1000人以上お会いしてきました。20年近く支援活動を続け一人ひとりの状況や課題に向き合っていく中で、支援対象者それぞれが抱える背景への理解も深まり、段々と提供できる手立ても増えてきたように思います。

社会の中で生きづらさを感じる一人ひとりに、必要なきっかけを届けたい

活動を始めたころは協力先も限られ手探りで動いていましたが、今では多くの行政機関やNPO団体との関係が生まれ、定期的に相談を受ける立場になりました。毎月20件以上は生活困窮者の支援に関する相談が寄せられますが、一つ大切にしてきた考え方があります。それが、「保護を与えるのではなく、機会を与える」ということ。私たちが提供できることはあくまでもきっかけでしかありません。目の前の現実を変えるきっかけ。仕事を得て社会に参加するきっかけ。人生の選択権を自分の手に取り戻すきっかけ。

すでに存在している制度や枠組みの中にすべての人が適合できるのなら何も問題ありません。しかし、制度として枠が設けられている以上、どうしても適合しない人も生まれてきます。社会の中では「社会的弱者」と位置づけられているかもしれませんが、彼らは大なり小なり働きたいという意欲を持っています。また、望んでいる生活もさまざまで、必要最低限の衣食住が揃っていれば満足な人もいれば、ゲームや食事など好きなことにお金を使いたい人も、会社など組織内でのステップアップを望んでいる人もいます。彼らの人生は彼らのものですから、その意志は尊重されなければいけません。

私たちにできることは、彼らの気持ちを大切にし、こちら側の理想を押し付けることなく、望んだ生活を実現するきっかけがつかめない彼らに寄り添うこと、そして実現に向けて一緒に考えていくことだと考えています。そのために、ギルドケアでは一人ひとりと向き合い、型にはまらない支援を続けてきたいと考えています。

この問題に対して、私たちもまだはっきりとした方針が立てられているわけではありません。それでも彼らが「社会的弱者」と一括りにされ語られてしまう現状に、何かしらの手を打っていきたい。まずはnoteでの発信を通じて皆さんと話し合いながら、もっとできることがないのかを探っていきたいと思います。


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