"トップ3まで" 目標設定で未来は変わる。
大企業から中小企業までこの20年で600社近くサポートしてきましたが、どれが1番というのはなく、1つ1つのクライアント、1つ1つの業務が常にベストの思い出です。
仕事柄、企業の新製品技術の深い部分からマーケティング、新商品戦略検討の現場にいるわけですが、それぞれのプロセスのあり方、考え方などの特徴は企業によって種々多様です。全てが勉強になり、その知識や経験が今の自分を支えています。その役割において学べた事の1つで、自分にとって明確に学びを与えてくれた"BIG IMPACT"は「目標の作り方による結果の傾向」です。今日は簡単にその事についてお話してみたいと思います。
今日のお題は「トップ3まで」です。これは何かと言いますと、企業が新商品や新サービスを検討する際に設定する市場シェアについて意味しています。新商品検討会議などでは担当者が必ず目標シェアと目標売上を発表します。
・今回の新商品ではXX業界のトップ3シェアを目指します。
・今回の新商品ではXX億円の年間売上、3年後にXXX億円の売上を目指します。
ごく普通の発表内容なのですが、僕が見てきた中で感じるのはトップ3シェアを目指したサービスは生き残り、トップ5シェアを目指したサービスは5年生存率が低いという事です。これは私の経験からなので、もちろん個人差はありますので絶対値だと思わないでくださいね。
例えばある部品製造メーカーのA社。A社はそれまでは様々な業界向けの部品を製造・発売しており特定の部品に関しては業界でもトップ5レベルにいる企業です。Apple社のiPodが世の中に出てきたときに、ipod連動の製品を発売する事にしました。しかし世の中には既に先行者がいて、大手メーカーがiPod対応製品を続々と発売し、売上を積み重ねていました。そこに独自の技術を網羅した製品でiPodと連動させようとしたというのがA社の狙いです。その際、商品企画担当者が掲げた目標は「マーケットシェア5位以内」という目標で、プレスリリースでも発表されていました。5位といっても当時の日本のマーケットを考えれば相当な売上規模になるのは間違いありませんし、先行している大手企業の存在を考えれば5位というのは悪い目標ではないと僕も当時思いました。しかし、結果は5位どころか3年で生産終了という事態に発展してしまいました。その3年間、民間リサーチ会社が調査した売れ筋ランキングには1度もトップ10入りすることはありませんでした。
次に取り上げるのはB社。B社は日用品業界の中堅企業です。彼らが目指した姿は僕なりの言葉で言えば"消費者から数センチに存在する企業"で、日用品という日々使われる商品に人格を持たせて消費者目線を常に意識し続けている企業でした。そんな企業がある時、電子機器の部品を商品化しました。非常にニッチなジャンルで、しかも新参者です。しかし彼らが掲げたのは「この商品の業界トップ3を目指す」という目標でした。結果は今でも販売されているロングセラー商品となり、業界のトップ3としての知名度は確保できています。
この2つは非常にわかりやすい、シンボリックな結果だったこともあって取り上げていますが、決してこの2つが特別ではありません。目標設定でトップ5を掲げたサービスは短命傾向で、トップ3を目指したサービスは現実的に長寿傾向にあるのは、僕自身の経験企業においては事実でした。
ではなぜこのような境目が起きるのでしょうか。単純計算で僕がサポートしてきた新商品数はこの20年で大小合わせれば国内外で3,000モデルは超えていると思いますが、その中でも西暦2000年から2010年あたりまで担当してきた製品の「成功」「不成功」を自分なりに分析をしてみると、やはり「不成功」となった事例において目立っていると感じるのは同業界におけるライバルに負けているケースよりも違うケースの方が多いのです。では何が原因かというと、"次世代"との競争による勝敗ラインがトップ3までだったのだと考えています。アナログからデジタルに移行したサービスや商品にその傾向が顕著です。
ある業界はこの20年で大きく構造が変わりました。以前はアナログ製品全盛だったものが、今ではデジタル製品全盛の時代です。アナログ製品時代に求められていた利用者の技術力も、デジタル製品の時代によってボタン2〜3個で差が詰まるという状況が発生しました。そうなると重要なのはハードよりもソフト開発力になります。マーケットにおけるプレーヤーの顔ぶれがガラッと変わってしまうわけですね。そうなると投資額と投資スピードが鍵になってくるわけですが、アナログ製品時代のトップ3メーカーはトップ3としてある程度の売上と利益を市場で確保できていたのでデジタルに向けた投資が容易ですし、トップ3としてのブランド力を落とせないのでデジタルへの投資は当たり前のように行われていきます。
しかし問題はトップ3に入れていなかった4番手、5番手のプレーヤー達です。彼らの場合はトップ3に比べて売上・利益が少ないため、投資にかける予算も大きくはなりません。そしてデジタルの世界に入る事で、ソフト開発力を持つ別業界の、それも潤沢な資金を持つ大手企業との戦いになります。そう考えると新しいデジタルの時代で戦う事を決意する=消耗戦が始まるという事になります。また、そこまでしてやる必要はあるのか?という議論が役員会で当然ながら出てきます。なかなか一致団結が難しいポジションなのですよね。トップ5の4位、5位あたりの企業は。しかも、その辺の位置にいる企業はだいたい株式公開をしているレベルの企業になりますので、経営層は株主の評価も気をつけなければいけません。デジタル化への対応に遅れれば当然ながら株主から突き上げをくらいますし、対応に失敗して結果が出せなくても同様です。それもあって4番手、5番手はなかなか経営チーム内で完全なコンセンサスが取れない状態で宙ぶらりんな状態でデジタルの世界への参入を決めてしまいます。当然ながら予算レベルも上位3社と異なりますので、トップ3入りは至難の技だと最初からわかっています。その結果、「トップ5入りを目指す」という妥協点が出てくるわけです。トップ5と書けば聞こえば良いですが、実質は4位か5位を目指すという意味ですね。しかも元々のアナログの業界でトップ5を維持できていたから新しいデジタルの市場でもトップ5くらいは狙えるだろうという甘い目算がどうしても出てきてしまいます。それは当然ながら「参入」を前提に自分たちが「トップ5」であるという前提の下での甘い計算をしているという事にも起因しています。
しかし上述した通り、新しいマーケットには新しいライバルが待っています。それも新しいマーケットは基本的には他のマーケットと融合して誕生してきますので、新しいライバルがいて当然です。その他マーケットのトップ3達と、トップ5争いをする事になるわけですね。ここまで書けばもうご理解いただけると思いますが、出身マーケットにおいてトップ5の中の4番手、5番手というのは、新しいマーケットでは7番手〜10番手の席に座る可能性が大きいわけです。マーケットが大きければさらに他マーケットの参入もありえますので、10番手以降もありえます。これがトップ3戦略と、トップ5戦略の差だと思っていますし、現実的な経験として結果的にはこうなってきたという個人的意見です。
この意見で考えれば、例えばこれからの自動車業界でも同じことが起きようとしています。エンジン自動車の世界市場であれば日本のトヨタ、フランスのルノー&日産、アメリカのGM、そしてベンツ、BMW、ヒュンダイなどが世界のシェアを分け合っています。しかし、電気自動車との融合が進んでくるとテスラなどのアメリカの大手企業、電気自動車が進んでいる中国企業などがノミネートされてくる他、自動運転技術を通じてGoogleなどのIT企業まで参入してくる可能性があります。どれもが莫大な資金力を持つ企業群です。時価総額だけを考えてもかなり混戦が予想されます。
その状況において将来的に電気自動車が世界のスタンダードになった場合、各地域でトップ4以下のシェアを持つエンジン自動車メーカーはどうなっていくのでしょうか。恐らく資金力の問題もあって間違いなく単体ではやっていけなくなると思います。既に日本でもトヨタがマツダやスズキなどと一緒に開発を行なうなど提携が進んでいますが、このように世界各国の各地域マーケットにおいても、大手と中堅メーカーのパートナーシップは今後益々加速していくことでしょう。それが協業なのか共業なのかはメーカー次第ではありますが、いずれにしても自動車業界においても各地域におけるTOP4以下のメーカーは将来に向けた動きについて非常に大切な判断を求められている時期がまさに今です。
今回はあくまで個人の意見なので、意見の内容に個人差はあると思います。読み物として楽しんでいただけたらと思います。
それでは今日はこの辺で。お越しいただきありがとうございました。
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