見出し画像

老舗お茶屋さんの素敵なロゴができました。

今わたしたちが住んでいるまち、山口県阿武町。
農業・漁業が中心で、人口3000人あまりのとても小さな町です。

コンビニは1件もありませんが、神楽舞などの伝統芸能やお祭り、四季折々の雄大な自然が育む豊かな食材など、昔から変わらない豊かな暮らしが今でも残る素朴で美しいまちです。

そんな阿武町には、地元の優しいおばあちゃんが40年も経営する老舗のお茶屋さんがあります。町内の人に愛され、いつも地域のお母さん方の憩いの場となっているかわいらしいお茶屋さんです。

しかしそのおばあちゃんも高齢なため、そろそろお店を閉めてしまおうか、と考えていたところ、なんとお孫さんが「好きなこの場所をなくしたくない」と一念発起して移住・継業するという素敵すぎる展開に。

(instagramより引用)
祖母が40年前に始め、畳もうとしていたお店を孫の私が移住してきて引継ぎました。身体が喜ぶようなお茶や珈琲、お抹茶などを皆さんにお届けしたいなと思っております。古き良きを活かしつつ新しさも取り入れて…楽しくおもしろいお店にしていきたいと思います。どうぞ宜しくお願い致します。

もともとこのお孫さんとは家族ぐるみで仲良くしていただいていたのですが、このお茶屋さんのお孫さんだというのはだいぶ後になってから聞きました笑

そんなご縁もあり、この場所を受け継ぐこと、ロゴを作ってみたいこと、今後はオリジナル商品も作ったりそのパッケージなどのデザインも検討していきたいこと、等々色々お話を聞いているうちに、今回わたしたちが関わらせていただくことになったのでした。


01.ヒアリング|継業の想いを真摯に聞く

そんなこんなで、まずはロゴデザイン検討のヒントを探るべく、継業の想いをじっくり聞いていくことに。
事前にテキストでまとめて送っていたただいた想いをベースに、それをさらに深掘りするためにヒアリングも行いました。

ヒアリング

上記のいただいたメッセージ、+αで実施したヒアリングから、

これまでを大切に引き継ぐことは大前提に、自分なりの色々な楽しみ方や喜びに出会える場所を目指す

という部分が非常に大切な根っこなのではないかと感じました。
これらのキーワードをヒントに、ロゴのデザインを検討していくことにしました。


02.デザインコンセプト立案|キーワードを整理する

ヒアリングから導いたキーワードをもとに、ロゴデザインのコンセプトを次のように整理しました。

コンセプト

■コンセプト
「自分なりの楽しい!」に出会える茶舗

■キーワード
色々な角度の楽しみ方、喜びの兆しが散りばめられた、新しい驚きや発見に満ちた

■目指す姿
これまで八祥園で育まれてきた価値は大切に受け継ぎつつ
これからは幅広いお客様に自分なりの楽しみ方を提案する
喜びの兆しが散りばめられ新しい驚きや発見に満ちた茶舗


ヒアリングでもあった通り、「おもしろいことをしたい!」という想いがとても強く、ドリッパーでお茶をいれてみたり(!)、新しい商品をどんどん取り入れたりと常に色々されていることも知っていたので、とても  ”らしい”  なあというコンセプトに自然と落ち着きました。


03.競合リサーチ|世の中の既存ロゴを分析する

さて、ロゴデザインのコンセプトが見えてきたところで、続いて世の中にある他のお茶屋さんやお茶ブランドのロゴを収集し、今回のロゴの具体的な方向性を探るべく分析しました。

収集したロゴをざっと並べてみると、大きく【楽しさ・遊び心↔︎落ち着いた・安定感】軸と【伝統的・装飾的↔︎モダン・シンプル】軸の2軸に沿った4象限にプロットできそうなことに気づきました。

リサーチプロット

このうち、右上第一象限の「楽しさ・遊び心」×「モダン・シンプル」の方向性が最も今回のコンセプトに合うのではないかと仮説を立て、具体的なデザイン提案についてはこちらの方向性を参考に検討を進めていきました。

デザイン方向性


04.コンセプトに基づく具体的デザイン|複数の切り口で提案

これまでの分析をベースに、ようやくここから具体的なデザイン提案に入っていきます。一番頭を使うところです。
具体的なデザインについては、なるべく「アイデアの切り口」が異なる提案を複数出すように心がけています。

■文字部分について
これから新しいことを取り入れていく姿勢を表現するために、まずは文字部分を「モダン・シンプル」なものにリニューアルすることを提案しました。

文字部分

■ポイント
・幅広いお客さんに来て欲しいため、シンプルで可読性の高いゴシック体をベースとすることでより親しみやすい印象を与える
・「色々な角度での楽しみ方」にちなみ、角度がきちんと出るように直線の組み合わせのみで構成
・文字同士の間隔をきちんと取ることで、「自分なりの楽しみ方」ができるという余白や広がりを感じさせる

以下の複数案について、文字部分はこのデザインで統一しています。


■マーク部分について

アイデアの切り口で大きく3つ、A案「八並べ案」、B案「屋根案」、C案「茶柱案」を検討し、さらにA案とB案は2つバリエーションが出来たので合計5つ提案しています。
またそれぞれロゴだけではイメージがしにくいので、商品パッケージやグッズデザインや空間に落とし込んだイメージ画像まで作成しました。


■A-1案|八並べ案①

画像6

それぞれ形が異なる「八」を8つ(たくさん)角度を変えて並べることで、「自分なりの色々な角度での楽しみ方」を表現。
また輪が2重に重なっているとも読み取れ、中心にあるおばあちゃんから受け継がれた想いがさらに大きく外へ広がっていきます。
円形に並んだ姿は「茶葉が少しずつ開いていく様子」にも見え、散りばめられた喜びの兆しが花開くようにという願いも込めています。

A-1イメージ

ロゴを検討する際は「文字」から発想することが多いので、一番最初に浮かんだデザインがこちらでした。
「八を8個並べる」というダジャレのような着想ですが、よくよく見ていると色々な意味をそこに見出すことができ、円形にすることでアイコンとしても使いやすいと感じました。
この時点では手書きの素朴なデザインですが、こちらをベースに最終案に発展していきます。


■A-2案|八並べ案②

画像8

それぞれ形が異なる「八」を8つ(たくさん)角度を変えて並べることで、「自分なりの色々な角度での楽しみ方」というコンセプトを体現。
ずっと見ていると「吉兆」を意味する「四つ葉のクローバー」のようにも見え、喜びが散りばめられている様子を表現しています。
「ハハハ」という笑い声が並ぶような姿に、これまでもこれからも変わらずたくさんの楽しい!が生まれてほしいという願いを込めました。

A-2イメージ

「八を8個並べる」という切り口は同じですが、その並べ方を変えると「四つ葉のクローバー」のようにも見える提案です。いくつもパターン化して並べることでパッケージへの展開もできそうなデザインです。


■B-1案|屋根案①

画像10

「この場所が好きだったから残したい」という想いから、八祥園の変わらずそこにあり続ける外観をそのままロゴにイメージしました。
屋根は八の字に見え、二階建てに連なる様子は、おばあちゃんから代々引き継いだ様子を表します。
また、八の末広がりは縁起の良さとしてこれからの良い兆しを示しています。

B-1イメージ

変わらずそこにあるものを受け継ぐ、という建物そのものへの愛着を「屋根に見立てた2つの八」で表現した提案です。


■B-2案|屋根案②

画像12

「この場所が好きだったから残したい」という想いから、八祥園の変わらずそこにあり続ける外観をそのままロゴにイメージしました。
屋根は八の字に見え、二階建てに連なる様子は、おばあちゃんから代々引き継いだ様子を表します。
また、八の末広がりは縁起の良さとしてこれからの良い兆しを示しています。

B-2イメージ

こちらや屋根案を少し骨太にした案。


■C案|茶柱案

画像14

「吉兆」を意味する茶柱が、湯呑みの中で浮かんでいる様子。
茶柱を2つ異なる角度で並べ、「色々な角度での楽しみ方」ができる茶舗であることを表現。
茶葉は八祥園の頭文字「八」にも見えるように三角形にして散りばめています。

Cイメージ

「喜びの兆し」「お茶」といったら、もう茶柱だろう!という安易な発想ですが、お店の名前にちなんだ八角形の湯のみなど細かなディティールに意味を込めていったのでなかなか可愛いデザインができました。


05.基本方針決定|さらなるブラッシュアップ

これらの5つの案を提案した結果、基本的な考え方としてA-1案が選ばれることになりました。お気に召すものがひとつでもあって嬉しい限りです。ホッ。

方針決定

ただ、文字部分も含めてデザインを一新してしまったせいか、

「これまでの感じをもう少し残しつつ、新しいデザインと合わせていきたい」

というご意見をいただきました。

リニューアルという目先に新しさに囚われてしまい、「おばあちゃんから受け継いだ部分」という大切な部分が表現されていないという点について猛烈に反省。

そこでA-1案の基本的なデザインコンセプトは踏襲しつつ、これまで八祥園で育まれてきた価値を大切に受け継ぐという姿勢をより強調するため、悩んだ末にたどり着いたのが「文字部分は昔のまま継承する」ほうがよいのでは?ということでした。

■A-1-2案「文字継承案」

画像17

文字部分を昔のままとした案です。
おばあちゃんのこれまでを大切に受け継ぎ、新しいことも始めていく姿勢を組み合わせませます。

まずはシンプルに、A-1案の文字部分を昔のものに置き換えてみました。
しかしこのデザインでは、文字のインパクトに対してマークの存在感がなんとなく弱く、「昔と今を合わせる」という点では少しチグハグな印象が出てしまいます。
文字間隔の調整や、文字とマークのサイズバランスを変えたりいくつか検討したのですが、このままではまだどこか足りないという気がします。


■D-1案「マーク文字継承案」

画像18

こちらは基本方針のデザイン意図はそのままに、マーク部分をこれまでの文字の「八」で再構成した案です。
力強いこれまでの文字にも負けない強さに加え、花のような女性らしい美しさと、伝統ある老舗感が強調される印象が生まれました。

そこでさらに思いついたのが、マーク部分の「八」を、昔の文字の「八」に置き換えてマークを作り変える案でした。

早速こちらを見せたところ、「これいいですね!」ということで即決でした。
やはりいいデザインが生まれると、ビビッとくる瞬間がありますね。


06.カラー検討|ロゴに色で意味づけをしていく

ようやくロゴの形がほぼほぼ決定したところで、続いてそこに色をつけていくことをこちらから提案しました。

今回は、お店のメインの商品であるお茶の色、コーヒーの色の2色を使用して意味を付加していきます。

伝統色

まずは日本や世界の伝統色をベースに、いくつかの色を検討します。
ただ、調べてみてわかったのですが、日本の伝統色に「お茶」の緑系の色がひとつもなく(利休が好んだとされる利休色も茶系の色でした)、この時点では「葉っぱの色」である若葉色を選択しています。


塗り方

こちらはロゴに色を使用した例。
マークの塗り分け方は3パターンあると考え、いったんすべてのパターンを作成しています。

白抜き

白抜きの場合も作成。


カラーイメージ

展開例も作成し直しています。


07.詳細カラー調整|最終の色味の決定

ここで、色に関するオーダーが来ました。

色合いを変えたパターンをちょっとお願いしたいのですが、グリーンをもう少し濃い緑、珈琲の色のところは、コーヒーチェリーの色あいにしてみて欲しいのですが、いけますかね?
ちなみにコーヒーチェリーはワインレッドみたいな渋い色です!

今後の方針として気負わない程度のSDGsを意識して行こうと思ってるので、焙煎した後のコーヒー豆の色よりか、コーヒー豆を取る前のコーヒーチェリーの色の方がしっくりくるかなと。
昔はコーヒー豆とった後のコーヒーチェリーは廃棄処分されてたんですが、最近は肥料にしたり、加工して食用にしたりもされてるので、自分も環境と身体に優しい物を取り扱っていきたいって言う思いからあえてコーヒー豆の色じゃなくて、コーヒーチェリー色を使ってみたいなと思って。

お茶やコーヒーはもちろん、「環境と体に優しい」お菓子の取り扱いなども始めていることを知っていたので、なるほど!と深く納得しました。
しっかりとした想いを持っていらっしゃるので、このように一緒にデザインを進めていけることが何よりも嬉しいのです。


早速コーヒー色→コーヒーチェリーの色、お茶→もっと濃い緑に修正していきます。

色変更

色のイメージを、参考画像をもとにすり合わせ。


色パターン

色味をさらに細かくすり合わせるために、どの色がしっくりくるかいくつか抽出。

白抜き色パターン

より色がわかりやすいよう、白抜きのパターンも作成。


塗り方全パターン

それぞれの色をロゴに当てはめた場合の全パターンを作成。
左上に行くほど明るくフレッシュな印象、右下にいくほど落ち着いた伝統的な印象を与えます。


08.ロゴデザイン決定|データ入稿とコンセプト資料納品

そうして最終的に採用されたロゴデザインがこちらになります。

完成形

コンセプトは、「自分なりの楽しい!」に出会える茶舗。

これまで八祥園で育まれてきた価値は大切に受け継ぎつつ
これからは幅広いお客様に自分なりの楽しみ方を提案する
喜びの兆しが散りばめられ新しい驚きや発見に満ちた茶舗
これまで大切に育まれてきた価値を象徴する「八」の文字。
それを8つ(たくさん)角度を変えて並べることで、「自分なりの色々な角度での楽しみ方」を表現。
また輪が2重に重なっているとも読み取れ、中心にあるおばあちゃんから受け継がれた想いがさらに大きく外へ広がっていきます。
円形に並んだ姿は「茶葉が少しずつ開いていく様子」にも見え、散りばめられた喜びの兆しが花開くようにという願いも込めています。

最終色

色には、メインの商品であるコーヒーと茶葉のカラーを採用。
そこに、気負わない程度のSDGsを意識し、環境と身体に優しい物を取り扱っていきたいという思いを反映。
たとえばコーヒーの色ひとつとっても、昔はコーヒー豆をとった後には廃棄処分されていたが、最近は肥料にしたり加工して食用にするなど有効活用されている「コーヒーチェリー」に目を向け、あえてコーヒー豆の色ではなくコーヒーチェリーの色を選択。


最後に様々なロゴパターンのillustratorアウトラインデータを作成し、ロゴ展開イメージをつけて「ロゴデザインコンセプト資料」として一式をまとめて納品しています。

最終イメージ


09.これからの展開が楽しみです

実際に作成したロゴを使用して、早速オリジナルドリップコーヒーバッグのパッケージに貼り付けてみたり。

画像30

阿武町で始まったマルシェ「森里海の市」での販売の様子

これからも色々な展開がありそうで、このお茶屋さんが受け継がれたことで新しい風がこの町に吹きそうです。

こうやって、普段お世話になっている方に恩返しがしたくてはじめたデザインのお仕事。
わたしたちにとっても非常に思い入れのあるデザインが生まれました。

八祥園さん、ありがとうございました◎


よろしければサポートいただけると嬉しいです。いただいたサポートは、大切な人のために大切に使わせていただきます。