ケーキ

連載『オスカルな女たち』

《 治りにくい傷 》・・・12

「今日は、希空(のあ)ちゃんは?」
「連れてくるつもりだったんだけどね、ばぁばにとられちゃった…」
 少し長めの前髪をかき上げ、舌を出す。ノースリーブから延びる長い腕は、筋肉質で無駄がなく引き締まっている。
「あはは。相変わらずなんだ」
 3年前、出産直後の萌絵を見舞った時も、萌絵の母親は孫をしっかりと抱いて放さなかったことを思い出した。
「大きくなっただろうね…」
「もうすっかりおませさん」
 そう言ってスマートフォンの待ち受けを見せる萌絵。薄毛のくるくるとウェーブのかかったくせ毛をツインテールにした愛くるしい幼児が、三輪車にまたがり振り返る姿が映し出される。
「きゃ~かわいい💛」
「でしょ~」
「ママ似だねぇ…」
「将来が楽しみよ」
 萌絵は既婚ではない。世間的に許されない相手と人知れず愛を育んだ末、大げさなほどに周りに騒いだのちに子どもを授かり出産した。3年たった今でも、話題に事欠く週刊誌には時折取り上げられる、いわゆる私生児だ。相手は公表されていないものの、候補者の名前は未だ数名、少し前に騒がせた不倫騒動。
「おりりんは? 相変わらず…?」
 子どもは「作らないのではなく、作れない」…とは、親友の萌絵にはもうずっと以前から相談していたことではあったが、
「もう、無理だと思う…」
 先日の結婚記念日の惨劇を、目的のビュッフェランチのホテルまで、道中ぽつぽつと話して聞かせる織瀬。

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