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連載『あの頃を思い出す』

   10. あの頃を思い出す・・・12

「あの頃、ずっと聞きたくて聞けなかった。経場(けいば)くんに『わたしのこと、好きなの?』って。だから、ハルヒにはちょっと強引すぎるくらいに自分の気持ちを押しつけて、その都度反応を確かめた。今考えたらただのうざい女だよね」
 尚季(ひさき)はソファに置かれたままの自分のバッグを引き寄せ、中を探った。
「これ…」
 小さな小箱を取り出すと、朋李(ともり)の前に差し出した。
「なにこれ、指輪?」
 それはいつかハルヒの弟が「荷物の処分をした」と言って持ってきたものだった。
「この前、秋くんがね」
「あき? え? 双子の!?」
 目を見開く朋李。
「そう。その双子の秋晴(あきせ)が、ハルヒの『形見分け』だって言っておいてったの」
「なんで今さら? また、子どもたち…」
 朋李も尚季の妊娠当時、執拗にやってくる辻家の人間に対面している。ハルヒの両親の理不尽な要求や不当な言いがかりにも果敢に対応してきたのだ。
「大丈夫。彼、結婚するんだって」
「結婚?」
「それでようやっとご両親も、前に進むことにしたみたい。ハルヒの荷物の整理をしたらしくて、」
 そう言って尚季は小箱を開けて見せた。
「え、なにこれ。ちっちゃ…」
 箱の中には小さな石のついたリングがふたつ並んでいた。
「わたしたちの誕生石のベビーリングだよ…」
「ベビーリング、どうりで」
 てっきり婚約指輪だとばかり思っていた朋李にはすぐに結びつかなかった。
「うん。ハルヒのエメラルドとわたしのルビー。よく見ると、緑と赤がクリスマスみたいでしょ?」
「そうね。でもなんでベビーリング?」
「偶然だけどさ、子どもたちの誕生日はクリスマスだから…」
「え、双子だって知ってたってこと?」
「そうじゃないでしょ。妊娠してることだって知らなかったんだから」
「あぁそうか。でも…へぇ、なんか皮肉っていうか、小憎らしいわね」
 ふたりはしばらく黙ってふたつのリングの入った小箱を眺めていた。
「わたし、ハルヒにプロポーズしたじゃない? でも、きちんとした返事はもらってなかったの。ハルヒは『いつか、結婚しよう』って言っただけ…」
 その言葉に対する答えがこのふたつのリングだったのだ。
「だから?」
「だから、自分たちに結婚は『まだ早い』って思って…それで、ベビーリングにしたんじゃないのかな」
「ステディリングってこと? ややこしい」
「ハルヒなりに考えてくれたんだよ。わたしたちはまだ『未熟だから』いつかのための約束のリングだよ」
「プロミスリング…」

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