連載『オスカルな女たち』
《 治りにくい傷 》・・・4
「キスしたい…」
織瀬(おりせ)がマティーニを飲み干す様子を、ずっと見ていたらしい真田が唐突にそんなことを言い出した。
(…え?)
「…って、言ったらどうします?」
「いきなりなに?」
焦って周囲に目を走らせる。誰かに聞かれたら…とは思ったが、思いのほかこちらは静かで、周りからはいない者扱いされているようだった。
(どうするって…)
無意識に口元に指が行ってしまうのを制し、顎の下にとどめる織瀬。
照れることなく時折すごいことを言う。だが、近頃の真田はそれ以上に遠慮がない。
「意地悪ね…」
この場合、常識的に「ダメ」と、答えるのが適当なのだろう。だが相手は、そんな答えを待っているわけではない。まして下手な口説き文句のつもりでもないだろう。
「それは…。『どうして?』って聞くかしら…? そしてその答えによっては、あなたを軽蔑するわね」
スッと、空になったカクテルグラスを差し出し、真田の目を見ずにそう答えた。
「好きだから…じゃ、だめですか?」
言いながらそっと、織瀬の左手の甲に自分の掌を重ねるようにしてグラスを受け取る。
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