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シンデレラコンプレックス

第3話 『可憐なだけでは乙女は生き残れない』2


「そういうわけで。しばらく来ないと思う」
いつもと様子が違うのは、普段由菜歩ゆなほがもたれかかっているカウンターに、長身の歩多可ほたかが肘をついているということ。

「なんだかユナって、いつもレポート書いてるイメージ。授業はどうなってるの?」
神妙な面持ちで答えるのは、メンズショップ『:acter』で働く由菜歩の友人、藤井ナナ江だ。

「文化人類学だか人間社会学? 忘れたけど。月1のペースで自分のテーマについて関連材料を考察していくらしいんだけど」
「うわぁ難しそう。あたし、大学行かなくて正解」

「オレもさ~っぱり」
両手をあげておどけて見せる。

「自分だって学生じゃない」
「オレ、理系だし」

「ふふ…」

ここにきて、初めてナナ江の笑顔を見た気がした。

「ほっとした?」
「なにが?」
「あんまり、ユナに来てほしくないんじゃないかと思って」
「そんなんじゃないけど…」
「でも、気になってんだろ」
「…意地悪ね」

「だからオレがいうって言ったのに」
「それじゃ申し訳ないじゃない。わたしのことなのに…ユナにはちゃんと自分から話したかったの」

「肝心なこと伏せたままで?」
「だって、なんだか格好悪いじゃない。ユナに嫉妬してるなんて。そんなことで『こないで』とも言えないし、いなきゃいないでさみしいし」

「結果は同じだろ。結局、気にしてるじゃないか」
「そうだけど。それを言ったら自分だって…わたしと店長がつき合ってること、歩多可くんは最初から『知ってた』って、なんでユナに言わなかったの?」

「あいつ、こういうの疎いから」
「そう、かな」

「あぁ、それに。それを話すと、オレがナナ江ちゃんにとっくに玉砕してた…なんてことも話さなきゃならない」
「そう…だけど。それって、そんなに恥ずかしいこと?」

「そりゃ…オレにとってはね。あいつはオレのこと『なんでもわかってる』つもりでいた方がいいんだ」
「ふ~ん。よく解らないけど」

「ナナ江ちゃんだって、兄貴がいるんだからなんとなくわかるだろ?」
「だって、あなたたちとは状況が違うじゃない」

「まぁね。…おっと、王子さまのお出ましだ。帰るわ」
「うん。わざわざありがとう」

「どういたしまして」
後ろ手を振りながら店を出る歩多可。

「今日はお姉さんじゃないんだね」
すれ違いざま、店長に声を掛けられる。

「残念でした…」
なにげなく応えたつもりだったが、

「いないとなると、さみしいもんだな」
社交辞令のつもりだろうが、歩多可には引っかかるものがあった。
厭味のひとつも言ってやりたいが、なにも言わずにその場を去る。

(大人のよゆーってやつですか…)
弟としては姉のしあわせを願わないわけではないし、男としては好きな相手のしあわせもまた然りなわけで…と、複雑な思いが交差していた。


「弟くんとも仲がいいんだね、ナナ江ちゃん、、、は」
「妬けますか?」
「別に」
「妬いて、ほしいです」
「え?」
「わたしのことで、うろたえたり…してほしい」
「そう見えないか?」
「ぜんぜん」
「おかしいなぁ」



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