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連載『あの頃を思い出す』

  1. 『ま』の悪い恋人たち・・・7


「そう言えばこの前…」
 2杯目のコーヒーを入れようと立ち上がる朋李(ともり)は、尚季(ひさき)のカップを差し出しながら振り返る。
「一緒にいけなくて悪かったわね、大変だったでしょ」
 腰を下ろす尚季に目を合わせる。
「なにがよ」
「お墓参り」
 言いながらお湯を注ぐ朋李。
「あぁ。だって…」
 言われて一瞬息を呑む。
 いつものことながら死別した彼の話題となると気落ちしてしまう。立ち直っていないわけではないが、ふれられたくないことも正直な気持ちだった。
「検診だったんだし、もうあの坂登るのキツイんじゃない、そのお腹」
 一段と目立ち始めたお腹を目で指す尚季。
「まあね。だけどさ」
 コーヒーカップひとつ持って座るのにも動作が鈍くなっている。見ているこっちが掛け声を掛けたくなるくらいだ。
「それに、もういいよつきあってくれなくても。もう5年だし、トモちゃんは結婚して新しい生活してるんだからさ」
 尚季の意外な言葉に目を丸くする朋李。
「なにいってんのよ」
 コーヒーを差し出す。
「ノリくんにだって悪いし」
 言いたいことはそんなことじゃなかった。尚季自身、この先の動向をどうしたものか考えていただけに、説明のしようがない。
「あら、ノリは気にしないわよ。今更。それに、あたしとしてはさ、毎年のことだから落ち着かないって言うか」
 朋李の中でさえ当たり前になってしまっていることを、尚季自身が今さらどう変えようとしてもそれは難しいのかもしれない。
「なによ『お見合いみたい』なんてけなしてたくせに」
 テーブルの上の菓子をつまむ。
「だって本当だもん。誰に見せるわけじゃないのにあーんなおしゃれして」
「あら、失礼ね。見てるわよ、ハルヒは。いつだってあたしたちのこと見守ってくれてるもの」
「お空から? 良く言うわ」
「女ってそういうものでしょ、いつだって。綺麗でいたいもの」
「瀬谷くんのせい?」
「また。どうしてそういつもそこに持っていきたがるのよ」
「だって、暇なんだもの」
「どうせその程度でしょ。それに、もう行くのよそうかと思って」
 静かにコーヒーを口に運ぶ。尚季にはこのコーヒーのように苦い思い出ばかりの過去。
「なんでよ?」
「なんとなく」
 とは言うものの、尚季の表情を見ればこの5年間そばにいた朋李にとって気持ちがわからないわけではなかった。
「でも、そうか」
 一瞬の沈黙の後、いい訳のように口を開く。

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