シンデレラコンプレックス
第3話 『可憐なだけでは乙女は生き残れない』5
「ひとは見た目が9割」という言葉がある。
だが逆に「見た目で判断してはいけない」とも言われる。
そもそも人でもない姿に変えられた野獣の、どこに真意を見極めることができるのか。
とはいえ「第一印象」というものはその後のつきあいをも左右する。もちろん好みも加味されるだろうが、見た目のインパクトというものはなかなか脳裏に焼き付けられるものだ。
まずは服装、そして顔、声と、目に入る情報だけが頼り。
「ひとは見かけによらない」といいながら「性格は顔に出る」という相反する言葉がつきまとうのだ。
野獣はもとは王子であるから、服装はおそらく小綺麗であっただろう。次に目に入るのは恐ろしい顔だが、その目の輝きは「死んだ魚の目」ではないだろうし、話し方にしても心根がキレイであればハキハキと自信に満ちていたのかもしれない。
そこで次に大事なのは「外見に惑わされず本質を見抜け」ということになる。
ベルは野獣の見た目ではなく心に触れた。
そして野獣の瞳の輝きに、やさしさを見出したのかもしれない。
(わたしは…?)
そんな風に寄り添った見方ができているだろうか。
『ねぇユナ。言い難いんだけど、しばらく…お店にこないでくれるかな?』
『え…?』
『ぁ…えっと。大学も忙しいだろうし…』
その時ナナ江ちゃんは、明らかにマネージャーを窺っている気がした。
『ぁ、あぁ。入り浸ってたら身上が悪い…か』
なにかがおかしい…と、それだけは肌で感じた。だが「なにが?」というところには至っていない。これが女の勘というやつだろうか。
『ごめんね。マネージャーも頻繁に出入りするし、少しの間だけ距離を置いてくれるかな』
『ぅうん。こっちこそごめんね、なんか気を遣わせて』
それは、店内に「大人の女性がいる」ということだけではないような気がした。
『ホントにごめんね』
彼女は最後まで、申し訳なさそうにしていた。でも、
(なんだかナナ江ちゃん、イライラしてた!?)
「ねぇ歩多ぁ。ナナ江ちゃんのお店に、品物取りに行ってくれないかな~。もうそろそろ届いてるはずなんだー」
あの日以来、なにもやる気が起きない。
「別にいいけど。そんなに忙しいの?」
「ぜんぜん」
「じゃぁ…」
「あたし!」
一瞬自分の出した声に驚いて、歩多可を見た。
「ナナ江ちゃんに嫌われたかも」
情けない声。
「そもそも好かれていたのかも疑わしい」
いつも自分の方から一方的に、まとわりついていたようにも思う。
「なんで急にそんなこと…?」
「歩多可の言うとおりだった」
「オレなんか言ったっけ」
「迷惑してるって言った」
「そう言われたの?」
「直接的じゃないけどねぇ。でも、そういうことなんだと思う」
「ふ~ん。でも自分で頼んだんだろ?」
「そうだけど。あんたのでもあるから」
「オレの?」
「とにかく! 行ってきてよ。なんだか美人な店員さんもいるから、見てくれば?」
「なんだよ、それ」
それは「偵察」という意味にもとれるのだ。
思いのほか落ち込んでる様子に、それ以上歩多可はなにも言わなかった。
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