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シンデレラコンプレックス

第3話 『可憐なだけでは乙女は生き残れない』1


大人になったらみんな、子どもの頃に夢みたプリンセスのように、キレイで素敵な女性になれるものだと信じて疑わなかった。
でも実際に憧れを抱いていたのは、その暮らしでも身分でも容姿でもなく「キレイなドレスが着れる」ということに尽きるのだと思う。
ドレスを着る文化でもないのに・・・・

とはいえ、有名なお姫様たちの勝負服ドレスは1着だ。そう考えると、結婚式で身に纏うドレスがそれにあたるのだろうか。

「女の子はお姫様に憧れるけど、男の子は王子さまになりたいとは言わないよね?」
小さなダイニングテーブルに資料を広げ、その実作業はさっぱりと進んでいないレポートは、ずっと白紙のままだ。

「だって、おまえのいう王子さまって膨らんだ袖に白タイツだろ?」
呆れた様子で答えるのは腹違いの弟歩多可ほたか

「白タイツのなにがダメ?」
「おまえはいいのか?」
「でも、子どもは『社長になりたい』という」
「話そらした」
「あんたも言ってたよね? 無邪気な頃は」
「まぁ。王子さまよりは現実的だろ」

だが、家系的に「闘争心をむき出しにしてはいけない」身の上である…と、のちに思い知るのだ。
しかし今はそれを追求するときではない。

「王子さま、いつもぽっと出でいい思いしてるようにしか見えないから」
「そんな風に考えるのおまえだけ」

「じゃぁ丸い袖と白タイツがNGなの? スーツの方がスマートだと」
スーツ…と想像して、頭の中に『:actor』の店長の顔が思い浮かんだ。

(なんであいつが…!)

「明らかにスマートだろ。いつもスーツ男がいいって言ってるやん」
「そんなことない! 今はスーツの時代じゃないわ」
「でもタイツでもない」

「あ~!」

机に突っ伏する。
頭を抱えて見せるのはポーズだけではなかった。

「喚くなよ。近所迷惑だろ」
「タイツばかりが王子じゃないわよ!」

「あぁ。たまにライオンだったりカエルだったりするじゃん」

「はい、正解!」
突然振り返り、指をさす。

「はぁ?」
さっぱりわからないといった様子で眉をしかめる歩多可。

「今回は美女と野獣です」
得意げに微笑む由菜歩。

「へぇ…」
「へぇ…。じゃ、ないのよ~」
「だって王子が野獣ってだけで他は変わりないんだろ?」
「王子がかわいくなかったら、美しい姫がいても憧れることもないければ、恋に落ちようとは思わないでしょーよ」
「まぁ、な」

「でも、ハッピーエンドに変わりはないのよね~」
腕組みをして見せる。

「じゃぁ恋は芽生えるわけだ」
「せめてオオカミだったらよかった」
「なにが問題?」
「前回人魚姫で身分違いを主張したら、異種婚姻譚を突き付けられた」
「いしゅこん…なに?」
「人間と異種族の結婚のこと」

きょとーんである。

「もう! お姫様はいつもきれいで、王子さまは呑気に馬に乗ってるだけでよかったのにっ!」
「むちゃくちゃいうなぁ」

「そもそも、白馬に乗った王子さまなんていないのよ。もっと気楽にお姫様語ってられると思ったのに。お姫様、多すぎる」

「とりあえず、風呂でも入って考えれば?」



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