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シンデレラコンプレックス

第4話 『乙女が歌えば小鳥もさえずる』2


白雪姫が城を追われ、森に逃げ込んだのは幼齢7歳。それから3度、継母である女王に命を狙われるのだが、どのくらいの期間だったのかは定かではない。そして最後、毒りんごで命を落としたとみなされ、ガラスの棺に寝かされていた期間も曖昧だが、しかしそのあと偶然通りかかった王子に見初められ、息を吹き返して結婚をすることを鑑みれば、1、2年の出来事ではなかったと想像しなければならない。

「7歳の娘に嫉妬するお妃大人ってどう思う?」
朝の食卓には似つかわしくない会話だが、いつものことだから仕方がない。

「これ、全部食っていい?」
「どうぞ」

「それだけかわいかったんだろ? なんてったって白雪姫だから」
昨夜のりんごジャムを塗ったトーストを頬張りながら、それでも面倒がらずに答える歩多可ほたか

「そこはかわいい、、、、じゃないのよ。なにせ『世界で一番美しい』わけだから」
「そうか。それじゃぁミスコンにでも出れるほどの美人なんだな」
「ミスコン?」
「海外じゃよくある話だろ。子ども自分から着飾って競うやつが」

「あぁなるほど」
海外…といわれ、そう言えば日本のお姫様についてはまったく考えていなかったと改めて思う。

おかしなものだ。同じお姫様なのに、子どもは「十二単」を着たお姫様に憧れることはない。あくまでもドレス姿の少女を「お姫さま」というのだ。それは女の子に限ったことではないが、なぜだろう。

(いや。余計なことを考えると、またレポートが増えてしまう…)
今、目の前のことに集中しよう。

「じゃぁ次。雪のように白い肌…は、解るとして。血のように赤い頬ってどう思う? ただの田舎者って感じしない?」
それはただの「赤ほっぺ」と言わないだろうか。もしくは雪のように白い肌だけでは病弱に見えるからなのだろうか。

「モノの例えだろ?」
「だって、血よ? 若干どす黒い感じさえする」
「相変わらず変なとこばっか気にするな」
「育ちのせいかしら」
「こじらすなよ。問題はそこじゃないだろ」

ふたりで話をしていると、どこか自分たちの身の上と重ねてしまう。

「毎回思うのは、王子さまに見初められて結婚するわけだけど、姫に選択権はないのかってこと。それとも王子に不細工はいないのかしら」
「もうそこはさ、運命で片付けようぜ。キリがないから。とりあえず出会うべくして出会うわけだから」

「な~んかもっともらしい意見。今までで一番説得力あるかも」
恋人同士なら、惚れ直すところだ。

「オレ、先に出るわ」
そう言って食器を持って立ち上がる。

「あぁうん。あたし、今日バイトね」
背中越しに答え、携帯に目を落とす。

「なぁ」
「なに」
「ナナ江ちゃんのこと、心配じゃないの?」
「だって来るなって言われたのに、どうするのよ」
「拗ねてる場合じゃねぇだろ」
「拗ねてない」

「とにかく、友だちとしてどうかと思うぜ」
捨て台詞のようにして玄関を後にした。

「だって。なんだかわかんないんだもん!」
いつもなら相談できる歩多可に、本音をぶつけられないジレンマ。




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