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連載『オスカルな女たち』

《 あかちゃんはどこから? 》・・・19

「あ、いや。なんか、暑苦しくてごめん」
「ぅぅん。真実(まこと)は今、しあわせなんだね」
 操(みさお)の出産経験のないことを聞かされた時は、ひょっとして自分の処遇を悲観しているのではないか…と疑った織瀬(おりせ)だったが、現実に養母と同じ〈産婦人科医〉の道を選び日々に充実を感じている目の前の真実には微塵もそんな不幸を感じない。
「そう、なるか。うるさいばぁさんだけどな」
 そんな憎まれ口を叩けるのも、母娘の絆あってのことだ。
「改めて、素晴らしい仕事をしてるんだなって思った」
「それは結果として、だ。この道に進むにはいろいろ葛藤があったけど」
 学生時代は頑なに、母親と同じ道に進むことを拒んだ。それは、血縁関係のない自分が看板家業を継ぐことに遠慮と嫌悪があったからだったが、そんなことに頭を悩ませていることが無意味だと気づいた。
「無い子では泣かれぬ…ってね。自分が親になってはじめてわかる言葉だよ。自分がどれほど大事に育てられて来たかってことがね。本人には絶対聞かせたくない言葉だけど…」
「ふふ…そういうところだよね」
 真実の不器用さに微笑む。
「うるさいよ…」

いつもお読みいただきありがとうございます とにかく今は、やり遂げることを目標にしています ご意見、ご感想などいただけましたら幸いです