ヴァン2

連載『オスカルな女たち』

《 ありのまま 》・・・4

 つかさはとにかく「沈黙に飲まれたくない」と思った。
「ねぇ、圭ちゃん…。前にもこんなことあったね」
 ひと気のないネオン街を目指して歩いていく圭慈に手をひかれながら、無言の背中に呼び掛ける。
「あの頃のあたしたちって、さ…」
 でもなにを話すつもりで口を開いたのか、言葉に迷っていると、
「つかさはさ…!」
 圭慈はそう力強い言葉でさえぎり、振り返らずに足を止めた。
「つかさは昔話ばっかりだな」
 ちょっと驚くくらいのきつい口調が返ってきた。
「ぇ…。っと…」
(なんか、地雷踏んだ…かな)
「今の俺は見えないか?」
 自然に手の力が抜け、今まであたたかかった手首に風が吹いた。
「そんなことない。ただ」
「いやいいんだ。帰ろう」
(あ…もしかして、やる気そいじゃった…?)
「あたしって、かわいくないよね。やっぱり、こういうところが」
 黙っていればいいものを…と、我ながら空気が読めないと自分を叱責するつかさ。だが。
「違うんだ」
「え…」
「違うんだ、つかさ。俺は・・・・」
 先ほどまでの力強さとは違って、振り返った圭慈は、まるで泣いている子どものような目をしていた。
「けい、ちゃん…」

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たゆ・たうひと
いつもお読みいただきありがとうございます とにかく今は、やり遂げることを目標にしています ご意見、ご感想などいただけましたら幸いです