カレー

連載『オスカルな女たち』

《 ココだけの話 》・・・1

「うちの駐車場の奥のおうち…。

あの若夫婦、産婦人科の隣に住んでいながら、いつまでも子どもができないなー…って思っていたら。なんと…、1階と2階で別々に寝ているみたいなんです!」
患者が途切れた合間に、唐突にそんな話を切り出した。

「なに? 楓ちゃん、のぞき?」
回転椅子をベッド側に向け、枕元のタオルを外す看護師の楓の後ろ姿に呆れ顔で問い掛ける真実(まこと)。

「揉め事は勘弁してよ~」

「違いますよ~。昨日夜勤の見回りの時、たまたま見えちゃったんです、窓」

「たまたまだろうとなんだろうと、それはプライバシーだから…」
「やだぁ。…誰にも言いませんよ~っ」
体を起こし、真実を振り返る笑顔の楓。

「今しゃべってる」
人差し指を振り、上目遣いに軽く睨んでみせる。
「…真実先生はいいじゃないですか~」
ケラケラと悪びれもなく、使い終えたタオルを奥に運んで行く。

「気をつけなよ。言いがかりつけられたら大変…」
「は~い」

とはいうものの、舌の根も乾かないうちに、

「たいてい寝室は2階だと思うじゃないですか。
でも、1階のブラインドの隙間からも明かりが漏れていてですね、布団をこう、ばさ~、って掛けなおしてる影が…」

話を辞めるどころか新しいタオルを掛け布団にたとえ、診察台にかけてみせる。

見えちゃったのね・・・。呆れ顔の真実。

「…でも、1階が寝室なのかもしれないじゃん」

「いいえ。…わたしも最初はそう思ってたんですけど、上の電気が消えた直後に下の布団がばさ~っと」
「はいはい…」

でも電気を消しただけで、1階に下りたのかもしれない…

そう、言おうとする真実の言葉を遮り、
「上は上で、以前枕を叩いてる姿を見てるんです」
と、意気揚々と話す楓はまるで探偵気取りの子供のようだ。

(ずいぶんな観察日誌じゃないか…)
同じくらい熱心に日報も上げてほしいものだ…と、言ってやりたい言葉を飲み込む真実だった。

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