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エルメスに憧れる美大生

「次の課題のテーマは、自分の好きな物、場所、何でもいい、とにかく今の自分が好きだと思えるものを選んで、皆んなにプレゼンテーションしてもらうから」
そう言って教授は教室を颯爽と出て行った。

田舎から上京してまだ半年、課題に追われながらも友達と遊びに行ったり、バイトをしたりと毎日楽しく過ごしていた。
美大生になってからというもの、目にするもの、耳にするもの全てが新鮮だった。そんな時に「好きな物?好きな場所?」何そのフワッとしたテーマは・・・。そう、課題といえば、絵を描いたり、造形、レポートなど、美大らしいものばかりだった。そのつもりでいたので全く問題はなかった。それなのに・・・好きな?
「私はいったい何が好きなんだろう」電車の中で散々考えたが思い浮かばない。あと、プレゼンテーションって何?どうすればいいの?
翌日から、友達と話しながら何にするか探し始めた。まずは街に出てリサーチ。物が溢れているデパートや、自然が溢れている新宿御苑。いったい何が好きなのか探しを始めて直ぐに出会ったのが「エルメス」だった。
美大に進学したのはディスプレイデザイナーになるためだったので、その線で探していた時に目に留まったのだ。海外のファッション雑誌を眺めていた時、初めて見る高級ブランドの小さなショーウインドーの記事。
商品というよりも世界観をショーウインドーにしているというのが正しい表現かもしれない。その潔いほどシンプルなのに引き込まれるような色使いに心を奪われた。
直ぐに書店へ行きどんなブランドなのか調べることに。今ならネットで調べたらあっという間にレポートの材料が揃うが、当時は図書館や、書店へ向かうのだ。
雑誌を何冊か買って早速ページをめくる。洋服、バッグ、時計、食器、文房具、トランプまである!金額にもビックリしたが、そんなものまで扱っているのかと思うような物がたくさん…1番興味深い内容だったのは、革の種類や色が豊富で、目的によってどの革が適切かを何人ものデザイナーや職人らしき人達が、テーブルを囲ってミーティングしている、そんな写真付き記事を見て、その革を触ってみたいという衝動を抑えるのに苦労した。なにせ、高価な商品だから、触るだけなんて許されないって思ったから。

もし、あの時一歩踏み込んで、課題のために見せてもらうとか、触らせてもらうとかできたならもっといいレポートが提出できただろう。当時の私にはその勇気がなかった。

プレゼンボードはエルメスで埋め尽くされた。一番好きな物は、そのフォルムが素敵なケリーバッグにした。いつか必ず手に入れたい…絶対に。
そんな思いを抱きながらプレゼンテーションをしたのでした。
ちなみに友達は、「アメ車」「アメフト」だった。これまた私の頭には思い浮かばないワードだった。勉強になりました。

手帳カバーvisionとの出会い

美大を卒業して社会人になり、ボーナスも多少貰えたので貯金しなきゃって思いながらも、海外旅行に行ったり、家具を買ったりしているうちに20代が終わってしまった! そのころはエルメスの「エ」も思い浮かばないほど馬車馬のように仕事をした。30代になり、自分のペースで仕事ができるようになり、心にゆとりができた頃出会ったのが、エルメスの手帳だった。革の手触りが良くて、用もないのに手帳に触っていた。やはり良い。手帳レフィルは、フランス仕様だったのでとにかく使いにくいかった。なので、1年使ってタンスの肥やしになってしまいました。それから数年して、やっぱりあの手帳カバーを使いたいと思い、市販のレフィルを改造して使っていた。やはり日本の暦に慣れているので純正レフィルよりはマシ。だけど、どうにも納得できなかったのは、カバーの雰囲気と改造レフィルが釣り合わない。

手帳カバーにピッタリ収まる、オリジナルのレフィルを製作して販売したらどうかと会社に相談してみた。私のように考えている人は結構いるんじゃないの?って思っていたのだが、難色を示された。「やってみないとわからない」これは私の信条。だから自分の貯金でまずは試作品を作ってみよう!!

そして、販売することになり現在に至るのです。

手帳レフィルzipvision

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諦めないことは時として邪魔になる。しかし、諦めたらそこで終わり。やって無駄になることは一つもないはずと思っている。何か得るもの(納得)があるはず。そう思いながらチャレンジすることが大切。ずっとそうやってきたのだ。

課題のテーマに選んだエルメス
そのエルメスの手帳カバーvisionが大好きで、使い続けるためにレフィルを作ってみようと動き出した。

深い縁を感じる・・・

あれから数十年😅やっと…ケリーを買うことができた。長かった。
これでもう何かを欲するのはやめよう・・・。そう思いながら購入したのを憶えている。
毎日使うものではないが、使うときは何だかんだ気分が上がる。実際使うと不便さを感じる点も無いことはない。が、触り心地の良い革が全てを無いことにしてくれる。

これは有名な写真ですが、この時グレース・ケリーは妊娠中で、そのふっくらしたお腹を隠すため?!にこのようなバッグの持ち方になったのではないか、と言われています。そのバッグがエルメスのケリーバッグでした。ここからエルメスは現在に至るまで、同じデザインで作り続けているのです。


長くなってしまいましたが、この辺で終わります。
読んでいただきありがとうございました。


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