5年間、仕事で旅してます〜ツアー企画者の旅行記〜
外国人向けの旅行会社で仕事してます。担当はツアープランの企画。全国各地の観光地を巡って、どんなところが魅力かを体験して、旅程にまとめてます。
すこし旅行業界的にいうと、着地型観光コンテンツ、ウォーキングツアーに当たります。
最初はアルバイトとして手伝っていました。その後社員となってからも、いろんな業務をしてますが、ツアーの企画はずっとやってます。2018年からなので、5年が過ぎ、6年目に突入。
これまでの振り返りをしたいなと、まとめたのがこの記事です。仕事として旅することの面白さと大変さをどうぞご覧ください。
7000字くらいのかなり長文です笑
2018年 ~驚きと発見~
一言でいえば、体当たり。そんな時期でした。なにもかもが初めてで、新鮮で、発見の連続でした。
きっかけとしては、友人が関わっている観光系ベンチャーのお手伝いでした。副業やってみたかったし、ツアーの企画って面白そうだなと。けっこう軽い気持ちから関わりました。
兵庫県のツアー企画を任されました。流れとしてはこんなかんじです。この記事の中では、基本的に「3. 現地調査に行く」の話をしてます。
地域の観光情報を調べて、ツアーのアイデアを出す
アイデアの中から、商品化するものを決定
現地調査に行く
調査内容をもとに旅程をまとめる
オンラインツアーサイトで販売
調査手法は今では多少変わりましたが、おおまかな流れは同じです。他社とのコラボや自治体案件になれば、各プロセスで打合せを設けて、方向性を確認し、合意形成を取っています。
兵庫(神戸・姫路)
会社の人たちと話して、神戸と姫路でツアーを作ることになりました。出身が和歌山なので、土地勘はありませんでした。
神戸には来たのは中高生のときの遠足、家族との小旅行程度でした。イメージとしては高速道から見える工業地帯と、中華街や異人館しかなかったです。
2週間かけて神戸を巡りました。神戸の観光って、いろんな角度から楽しめるんです。北野や旧居留地のおしゃれな街並みだけじゃなくて。
山(六甲山)と海(明石)、温泉(有馬)もあって盛りだくさん。毎日朝から晩まで歩きまわってましたね。だいたい20,000歩、15キロくらい。
地元の人からすれば当たり前なんですけど、神戸って器の大きい街だなという印象を受けました。自分の中の神戸の地図が更新されていくことに、心が躍ったことを今でもよく覚えています。
苦労したのが写真撮影。ツアーサイトの載せるためのもの。これがなかなか難しい。「いい写真が必要」というのがわかっていたけど、何が正解なのか、正直わかりませんでした。なので、とにかく自分が良いと思ったもの撮りまくる。
しかし、自分にとってのエモさ偏っていましたね。自己満足。ポイントとしては、訪日旅行者がツアーの情報を見たときに、どんな観光スポットなのか、その場所ではどんな体験できるか。そういうことを意識する必要があったのですが、当時はまだ感覚的に理解できていませんでした。
ちなみに、この記事の写真はほとんど自分で撮ったものです。
この時の現地調査で、特に印象に残っているのは灘五郷の酒蔵巡り。日本酒の美味しさに目覚めてしまった。
それまでは「大吟醸が上手い」くらいの知識でなんとなく飲んでました。これ以降は蔵ごとの違い、地域ごとの違い、銘柄の違いを意識するようになりました。
2019年 ~想いと感性~
アルバイト時代の仕事が評価され、(実は紆余曲折もありましたが)ツアー企画担当として社員になりました。2019年の途中から入社。とにかく走り抜けた年でした。
当時会社としては、ツアーの売上を増やす、協力してくださるガイドを増やす、連携先の会社を増やすなど、たくさんのミッションがありました。その中で、私が携わったのはツアーを全国各地に増やすというもの。
2019年時点では、兵庫の場合は神戸と姫路が選ばれたように、軸となるエリアと観光スポットを事前に会議で決めていましたが、最終的なツアールート、テーマ性、訪問スポットは企画者に一任されていました。
最終的なツアー掲載の判断をする責任者はいましたが、この時期はすべて自社での企画ということもあり、企画者の想いや感性をかなり尊重してもらえました。
その反面、訪日旅行者にとって魅力的かどうかについては、なんとも言えないツアーもありました。今振り返ればそう言えるのですが、当時はなにが正解かもわからない中で、「これが良い!」とベストを尽くしたものではあります。
愛知・岐阜・三重
そんな中で東海地方へと足を運びました。2週間、ゲストハウスを転々としながら、ツアーにできそうな街はとにかくすべて訪れました。
白川郷、伊勢神宮のような有名な場所はもちろん、一般的にはそれほど観光地としては認知されていない場所にも行きました。
観光案内所で地図やパンフレットをもらっては開き、地元の人からその土地ならではの話を聞き、ひたすら歩き回っては観光スポットがないかを探す。そんなことを繰り返していました。
この旅のなかで特に印象に残っているのが三重県亀山市の関宿。東海道の宿場町。こんなノスタルジックな町並みが今でも残っているのかと、いたく感動したのを覚えています。
昔の人たちも同じ道を歩いていたというロマンを外国の方にもぜひ知ってもらいたいんですよね。
現在のツアー企画でも、宿場町や街道に関するツアーが作れないかという機会は虎視眈々と狙っています!
あとは、岐阜県の関ヶ原にも思い入れがあります。あまり社内では理解されなかったのですが笑、古戦場を巡ってみたいニーズは絶対にあると思ったので、作らせてもらいました。
コロナの関係で催行はできなかったのですが、実際に予約も入った実績もあります!(アピールっ)
壱岐島
これは番外編です。壱岐は福岡出張の際に、日帰りで立ち寄りました。普段はツアーを作れるかを検討してから行きます。
ですが、この時は「作れるかどうかはわからないがとにかく見てきて欲しい」という上層部の依頼を受けて、向かいました。
結論としては、会社の仕組み上はこの時点ではできないという判断。そこに至るまでは、「なんとか作れないものか」と頭をフル回転させていました。
坂道が険しい、バスの本数が少ない、観光スポット同士に一定の距離がある。そういう要素は会社の形態にはマッチしづらいなと思いました。
その一方で、古代からの歴史、離島ならではの独特の空気感はとても素敵だなあと。
この仕事の最大の魅力は、自分の「世界」が広がること。プライベートの旅行先では、起こることのない出会いがあリます。
壱岐島への旅では地域の名産である麦焼酎の蔵を訪れました。これがきっかけで焼酎の魅力に目覚めました。
2020年 ~転換点~
インバウンド、コロナで大打撃。会社としてツアーが催行できない分、新しい事業に挑戦しようという機運が生まれました。
公募案件に応募するようになりました。この年から自治体、観光協会、DMOなどの観光組織との連携を強化しました。
いろんな地域と共同でツアーを作ることになり、それまで経験と勘、職人技で行ってきた企画の段階を見える化、言語化をすることが求められました。
作業プロセスの標準化したり、調査で得た知見をスプレッドシートやパワーポイントでまとめる機会も増えました。
自分にとって良いと感じることも大切にしつつ、普遍的に良いもの何か、想定するターゲットは何を求めているのかと、この時期から深く考えるようになりました。
長崎市
長崎には1週間いました。この時は入社したばかりの方に調査のコツなどを伝えながら市内を巡りました。
それまでは1人で旅することがほとんどでしたが、この頃から、同僚のサポートとしたり、取引先の方に同行していただいたりと、誰かと一緒に調査する機会も出てきました。
長崎で感じたのは、文化の特異性。貿易拠点の出島、中国とオランダの文化が入り混じった和華蘭文化、グラバー園に代表される近代の和洋折衷の文化など、とにかく文化が豊か。
いろんな地域で訪れる中で、日本で全体で共通する歴史や文化の流れを感覚的に理解できるようになりました。
その一方で、教科書には載っていない地域の物語をいかに深掘りするかが大切だなと。どういうふうにツアーを作れば、より良いものができるのかと、チームでよく議論したのもこの時期でした。
事前に仮説を立て、現地調査で検証するという流れも、この時期に確立しました。毎日15キロ歩き、500枚写真を撮ることで、見えてきた型でした笑
あと、長崎でよく考えたのは、観光として配慮が必要な部分をどのように伝えるか。具体的には原爆、キリスト教の禁教、軍艦島をはじめとした炭鉱での労働環境など。
結論としては、お客さんの興味に合わせて伝え方を変えることが重要だなと。
あまり歴史の負の側面を触れたくない人もいるだろうし、逆にその土地の物語にしっかり向き合いたい人もいるだろうし。
うーん難しいなあと、いろんな場面を想像しながら、ツアー情報のライティングをしていました。
瀬戸内(岡山・愛媛・徳島)
長崎では地域の独自性について話したので、次は地域の共通性ついて触れます。瀬戸内海を面した地域でツアーを企画しました。
本州側の兵庫、岡山、広島、山口。四国側の徳島、香川、愛媛とかなり西日本の広範なエリアを旅しました。
共通点はなんといっても海、美しい島々。海が中心にあり、島同士の距離感もそれほど遠くない。船が往来しやすく、橋で繋がっているものもある。
島に対して隔絶されたイメージを持っていた私にとっては、瀬戸内の島々は衝撃でした。例えば、しまなみ海道は県単位で見れば、広島県と愛媛県に分かれていますが、地図上で見れば隣合っています。
そして、旅行者は県境など気にせず旅します。ごくごく当たり前のことですが、行政単位でツアー企画しようとすると、そういった文化的繋がりを忘れてしまいそうになります。
自分だけでは見落としてしまう観点があるかもしれないと、ツアーアイデアの壁打ちをしてもらうことも意識するようになりました。
あと、これは瀬戸内に限らない視点ですが、街の成り立ちに着目すると、一定のパターンが存在することに気づきました。
温泉街、城下町、宿場町、商店街など、街ごとの個性はありつつも、ツアーに組み込むスポットに法則性がありました。
例えば、城下町ではこんなツアーが作れます。城をみて、庭園をみて、古い町屋をみて、郷土料理を食べる。そして、地域を代表する酒蔵、茶店、和菓子店があれば、そういうところにも立ち寄る。
パターンや法則性に想像が働くようになり、調査は効率的になりました。ただ、企画者としてはなぜこの土地なのか、なぜこの店を選ぶのか、この土地は他の地域と何が違うのかを説明することが求められました。良さそうで選ぶのではなく、根拠が必要でした。
何を持ってそのツアーをユニークなものにするかという問いは、まだ自分の中でも答えはないです。日本全国でツアーをつくる中で見つけたいですね。
2021年 ~試練の日々~
「想いと感性」から「転換」することが求められた2020年。その傾向は2021年も変わりませんでした。引き続きアフターコロナに向けた、ツアー企画をしていました。
ありがたいことに企画するツアーの数が増え続けました。そこに加えて企画に限らず、ツアーガイドをしたり、パワーポイントで資料作成をしたり、一部のプロジェクトでは進捗管理を任せられたりと役割の幅が広がったのがこの年でした。
ただ、慣れない仕事で業務量が増えて、キャパオーバーをしてしまい、いろんな人に迷惑をかけることになった1年でもありました。いろんな方からアドバイスを受けながら、試行錯誤を繰り返す日々でした。
神戸
神戸は観光組織と連携しながら、新しい魅力を探求したり、これまでにない視点での企画をしました。具体的には自転車ツアー、ジャズ文化を楽しむナイトツアー、新開地や新長田といったローカルなエリアの散策など新しい可能性に挑戦しました。
個人的に思い入れがあるのが、村上春樹の聖地を巡るツアー。かなりターゲットは絞られますが、ファンには絶対刺さる自信があります。
村上氏が実際に通っていた学校の近辺や小説やエッセイに登場する景色などを盛り込みました。
このツアーを提案した時は、取引先の方々も誰も訪問するスポットに馴染みがありませんでした。地域の人よりも自分の方が詳しいという、不思議な状況が起きました。
人吉(熊本)
熊本県人吉市。2020年に大きな水害があり、そこからの復興施策の一環で観光という側面から関わることになりました。1週間滞在しました。まだまだ水害の影響を感じさせる場所も多かったです。
休業中、仮店舗での営業、移転しての再開を目指していたり。実際、各地で水害当時の様子などを伺うこともありました。暮らしを再開していく過程を感じました。
人吉は九州の小京都と呼ばれる城下町で、伝統工芸をはじめの地域ならではの文化もあり、球磨川沿いの自然、各地で温泉がわいているなど、いろんな魅力がありました。
人吉には表現しきれない惹かれる部分がありました。じんわりと「また行きたいな」と気持ちにさせる何かがあるんですよね。それって確実にほかの地域にはない「何か」なんですよ。
泉州(大阪)
泉州と呼ばれる堺、岸和田などの大阪の中南部にも行きました。関西国際空港があるエリアです。泉州は和歌山出身の私にとっては子どもの頃から家族で日帰りで遊びに来る場所だったので、これまでの企画とはやや異なるものでした。
個人的な思い出や懐かしさみたいものと、ツアー企画者としての客観的な感覚を区別する必要がありました。
将来的に和歌山のツアーを作るときには、もっと思い入れが強くなるので、そういう難しさも出てくるんでしょうね。
2022年 ~飛躍~
2022年は自分でいうのはあれなんですが、飛躍の1年でした。それまでの試行錯誤の経験が面的に繋がっていくかんじがありました。
タイミングの重なりや、他の事業などの兼ね合いもあって、ほぼすべての現地調査を任されました。
下半期は毎月のように旅に出ました。札幌から鹿児島まで、それぞれ1週間ほど滞在しました。
1週間ずつ同じ期間滞在していたので、地形的な特徴、都市のつくり、人の雰囲気、食文化など地域性の違いをより感じましたね。
ツアーづくりという意味でも大事なんですけど、人生を通じても今後の核となる体験でした。
札幌
もう5年目になっていたので、どういうふうにツアーをつくるかは勘どころをつかんでいました。
それぞれの観光スポットの魅力も体験しつつ、ツアープランの軸となるテーマ性にふさわしい「地域の風土」についてもより深く考えるようになりました。
北海道であれば、アイヌの文化、明治以降の開拓の歴史、本州とは違う自然の雄大さ、整然とされた都市計画などをツアーでも体感してもらうようなライティングを心がけました。
大津
大津ではサイクリングに力を入れました。琵琶湖を一周するビワイチのミニチュア版や、東海道の街道沿いを自転車で巡るものを企画しました。
琵琶湖が注目されがちですけど、京都から奈良に次いで文化財が多いという大津の歴史深い一面や、京都から電車で10分くらいでアクセスできる利便性もあります。そんなに混雑もしていないので、かなり穴場と思っています。
ほかにも尾道でしまなみ海道をサイクリングをしたり(どこに行ってもサイクリングしがち)、熊本の天草や鹿児島を訪れました。以前にも2020年に長崎に行くなど九州に何かとご縁があります。
地域の独自性や土地柄というものを行く先々で感じます。毎回新しい発見があり、それを深めていくことでツアーの質を高められるので、これからも仕事で旅することを楽しみにしています。
いやあ、長くなりました。お付き合いありがとうございました。これが私のインバウンド向けのツアー企画の歴史です。
指導的な役割も求められることも出てきたので、今回の記事を書きました。
また、別の視点での仕事について書きたいですね。それではまた。
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