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「この感情は誰かに思わされているんじゃないか」症候群

「この感情は誰かに思わされているんじゃないか」と大体思っている。「これは自分で考えたんだ」と思っていたい。踊らされるのが嫌だ。踊らされていたとしても、せめて「自ら踊ってますけど」みたいな態度を取りたい。マウント取りたい。いや、全然取らなくていいから取られたくない。取られるなら綺麗に取られたい。

高校の部活のとき「なんで、赤いコーンとコーンの間は全力ダッシュしないといけないんだろう」って思いながら走っていた。そう、走っていた。納得していないクセに走らない選択肢を選ぶ気は全くなかった。自分の脚は自分のもので、だから走っているのは自分で、なのに走らされている気分でいる。ずっと「勝利に向かう自分に酔いたい」と斜に構えていた。中学までは本気で走っていたような、上手く自分に酔えていたような。できれば心から「走りたい!!」と思いながら走りたかった。

書いているのが恥ずかしいくらいイタイ。でもそれが思春期のいいところ。


話が逸れた。
「この感情は誰かに思わされているんじゃないか」と心がざわつくのは、自分の心の動きに鈍感になっているからではないかと思っている。やっぱり楽しいので、YouTubeとかNetflixとかテレビとか、仕事終わりに家に帰ったときも、休みで家に1人でいるときも、とりあえず観なくてもずっとつけている。最近は発信の機会を増やしたせいか、以前よりもSNSが気になることが多くなり、気がつけばタイムラインを見ているため、自然と見ている時間も長くなった。

悪く言いたいわけではなく、ぼくが最近触れているコンテンツはファーストフード的というか、「噛めば噛むほどおいしい」というよりは「口に入れた瞬間おいしい」系のものが多い。欲望を煽ったり一旦触れたら離れられなくなるような中毒性があったりするようなもの。こういう刺激が強いものばかりに触れていると、次第に感覚が鈍感になってきて、心や身の回りの小さな変化に気づかなくなってしまう。

変化に気づくのは、そこに関心があるから。関心は"好き嫌い"の種で、好き嫌いは人それぞれ。好き嫌い、特に嫌いという感情にはなかなか嘘はつけない。嫌いを鏡にして好きがわかっていく部分もある。
関心の後に好き嫌いがあり、好きであったり嫌いであったり、そうであればあるほど関心が強くなる。だからこそ小さい変化でも気づくようになるし、わかりづらくてもわかりたいと考えるようになる。

しかし、そういう好き嫌いをすっ飛ばして関心を持ってしまうのは、変化が大きいもの、刺激が強いもの。最近触れているファーストフード系のもののほとんどがわかりやすく刺激が強くて、自分の好き嫌いに関係なくそのことばかり考えてしまう。内発的な好き嫌いからスタートして考えているのではなくて、外発的な刺激に反応するのを繰り返していると、「この感情は誰かに思わされているんじゃないか」と感じるようになる。というか実際に思わされている。

「自分の言葉で話して」と言われることが、いつしかある種の呪いになっている。自分としては考えたことを話したつもりでも「なんかどこかで聞いたことあるような感じで本心が見えない、自分の言葉で話して」という趣旨のことを言われた経験が何度かある。今はほんの少しずつ改善していて、確かに振り返るとネットで見た正論っぽいものを繋ぎ合わせて見栄を張っていたと思う。今もその節はあるので、借りるにしてもどこで見た言葉か出典を明らかにすること、その上で借りてきた言葉に少しでも自分の解釈をつけて話すことを意識している。口で言うのはそれこそ簡単だけど。

ぼくは、自分自身が考えたことを自分自身の言葉で話す人でありたいと思っている。逆にそうじゃないと「これは誰の人生だったんだろう」って死ぬとき後悔する気がする(これって思わされてますか?)。体感したことを火種として、楽しい、悲しい、好き、嫌い。湧き出てくる感情に従ってそれを反芻し、身体と心が結びつく言葉を選ぶ。

・家の近くに紫陽花が咲いていて、雨が続く日を少しうれしく思えたこと。
・ハンドドリップでアイスコーヒーを入れるのがおそらく上達していて、我ながら美味しいなと思っているけど誰にもこの感覚を共有できていなくてモヤモヤしていること。
・最近筋トレして胸筋がついてきて、なんとなく胸を寄せるみたいにしてから弾くように手を話すと、鎖骨の下辺りの筋に想像以上に衝撃がくると発見したこと(女性で胸が大きいほど物凄い衝撃で痛いんだろうなと思った。運動とかすごく大変なんだって初めて気づいた)。
・錦鯉はずっと観ていても飽きないこと。
・家の畳の色が一枚だけ茶色くなっていると、半年経って初めて気づいて少し驚いたこと。

日常のほんの些細な、他人からすれば限りなくどうでもよく、自分もすぐ忘れてしまうような小さなこと。ぼくはそれを感じている。心が動いている。この感覚は自分のものだと思える。

観たいバラエティの録画も次が気になるNetflixもあるけど、少し我慢して孤独な時間を作ろう。心の動きをちゃんと感じられるように。

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