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生物学上「なぜ不倫が多いのか」

引き続き「赤の女王」からの知見。著者マット・リドレー子爵も念を押している通り、くれぐれも以下内容は「生物学上の仮説」。「倫理」の問題とは切り離して紹介します。

◼️結婚制度
「不倫かどうか」は「結婚しているかしていないか」が境目ですが、人間の結婚制度は生物学上


「人口の多い社会の大半は”表向き”一夫一妻制だが、部族社会の4分の3近くは一夫多妻制」

というのがリドレーのいう現時点の仮説。ちなみに一妻多夫制度がみられるのはチベットのみで、ほとんどは上記パターンだそう。

一夫一妻制の場合、夫が子育てに協力してくれるので、ハトやアホウドリ、人間など、子育ての負荷が大きい生き物に多い。

ただし人間のように、ある特定の夫に余剰生産物が集中すれば、夫がより多くの妻と子供を養えるので一夫多妻制も多くの事例あり。特に単純農業社会や牧畜社会は多くが一夫多妻制。

ちなみにホモ・サピエンス全史上巻(ノヴァル・ユア・ハラリ著)では原始社会(狩猟採集社会)が多夫多妻だったとしていますが、ジャレド・ダイアモンドの「昨日までの世界(上巻306頁)」によれば、狩猟採集社会の多くの事例では父親がいない子供は、同じ部族の他の男が面倒みる習慣がない(=余裕なく意欲もない)ので、殆どが殺されるらしい。やはり一夫一妻制が主だったのでしょう。

◼️不倫に関する生物学上の見解
表向き一夫一妻制の「表向き」とは、人間の場合、歴史上も今も不倫・売春の結果として生まれる子供が非常に多いから。なんと西ヨーロッパで生まれる赤ちゃんの3人に1人は、不倫の結果生まれた子供(これも驚き)。

実は不倫経験の女性の場合、夫(40%)よりも不倫相手(70%)の方が妊娠率が高い。というのも子供が生まれそうなタイミングには、夫よりも魅力のある(より健康で経済力があり支配的な)男性に惹かれることが多いから。

前回紹介した通り、メスはより質の高いオスを求めるので、夫よりも質が高いと判断すれば不倫してしまうのは生物学的に女性がそのような特性を持つから。

一方で男の場合は、他の生物同様、妊娠・子育てコストがない、または低いので性交渉する数を求める=結果として不倫になるのです。

◼️人間だけが相手を選り好み
面白いのは人間だけが相手を選り好みすること。動物の場合、特に類人猿のオスの場合はメスを選り好みしない。年寄りだろうと若かろうとブスだろうと美人だろうと関係ない。発情していればどのメスとも交尾する。出産養育の負担がないからこそ、オスは性交渉の「数」重視なのです。

どのような基準で選り好みするかというと、第1に若く、第2に美人(イケメン)で、第3に腰のくびれた女性(背の高い男性)かどうかで選り好みする。女性の場合は、更に経済力があって支配力が強い男性(=養育能力が高い)が選ばれやすい(これは歴史上・世界中どこでも共通)。

人間のオスは数だけでなく、より質の高さを重視するのは、人間の子供は自立するまでの長い時間養育が必要なため。より健康で出産後の寿命が長くなる(=若い)女性を選り好みするのです。

なぜ美人(イケメン)なのかといえば、美人は平均顔でバランスが良く、血色が良くてシワも少ない=健康の可能性が高い、と判断されるからで、これは男女とも同じ。特に男性にこの傾向が強い。

腰のくびれた(ウエストとヒップのサイズ比率が高い)女性がモテるのは妊娠している確率が低い=自分の子供が産まれやすい、または腰骨が大きく(=安産)、母乳が出やすい、という印象を男性に与えるから。これは痩せていても太っていても関係なく、くびれた腰が重要という意味。

妊娠可能性のある女性かどうかを判別するのは実は男にとってとても重要、というのも狩猟採集社会では、女性が妊娠できる期間(生理がある期間)は少なかったから。

現代に比してカロリー摂取の極端に低い狩猟採集社会では授乳期は栄養不足から排卵が抑制され生理学上女性は妊娠できないため、離乳期(原始社会は3〜4歳)に妊娠期間(1年未満)を加えると、おおよそ3〜4年ごとにしか妊娠可能期間は訪れないのです。

したがって、狩猟採集社会ではしょっちゅう妊娠する女性でもせいぜい4〜5人ぐらいしか子供を産めない。更に赤ん坊が奇形だったり未熟児だったり、すぐに妊娠して子供が産まれたり双子(の片方)が生まれても、母親に殺されてしまうのが狩猟採集社会(昨日までの世界上巻312~313頁)。

したがって男にとって、より多くの美しくて若くスタイルのいい女性と性交渉できるかどうかは、自分の遺伝子を継承していくという生物学上の目的にとって、非常に重要な要素だったのです。

なお「ブロンド女性に魅力がある」というのも生物学的根拠があるらしい。髪がブロンドなのは性淘汰されたハンディキャップ。欧州人の間では子供時代のみのブロンドはかなり普通にみられる遺伝子だそうで、この遺伝子は突然変異によって20代前半まで続くようになり、この結果ブロンドの女性を選べば若い女性を選択することにつながるから。

本書エピローグでは、以下のように人間の本性を総括(編集加工)。


「一夫一妻の結合が通常だが、多くのオスが情事に耽り、時には一夫多妻を成し遂げるオスもいる類人猿。低い地位のオスと結婚したメスは、より高い地位のオスの遺伝子を獲得するためにしばしば夫を裏切る類人猿。雌雄相互に強い性淘汰を受け、その結果メスの多くの形質(胸、腰)と雌雄の知力(歌、競争心、ステータス願望)が、パートナーをめぐる争いで用いられるようにデザインされた類人猿である」

「不倫は、生物学的に人間の本能のなせる業」というなんとも倫理的には厳しい生物学的仮説になってしまいましたが、一方で(一夫多妻における妻であっても)配偶者による他の異性との性交渉は、「結婚相手に嫉妬される」というのも生物学的には定説だそうなので、奥さん(または旦那)に嫌われたくなければ、やはり不倫はしない方が良さそうです。

*写真:スリランカ ハヌマンラングール


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