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『自然のしくみがわかる地理学』水野一晴著 読了

<概要>

自然地理学全般の知識を世界中・日本中を調査してきた著者が親しみやすいエピソードとともに網羅的に紹介した著作。

<コメント>

地理学には大雑把に分けて、自然地理学と人文地理学があります。本書は自然地理学に関する網羅的な初心者向け著作なので「これ一つあれば、おおよその概略がわかる」という便利本。他にも書店でチェックしたところ以下著作もわかりやすそうです。

本書の場合、著者の実体験に基づくエピソードも織り交ぜながら解説してくれるので、とてもわかりやすい。いつものように以下興味深かった内容を整理。

▪️なぜ新宿に高層ビルが集まっているのか

平野は、洪積台地と沖積平野(沖積低地ともいう)で形成されています。山手線に乗るとよくわかりますが、新宿駅や池袋駅は高く、渋谷駅や東京駅は低い。

本書23頁

新宿駅は10ー12万年前に形成された淀橋台地にあるし、池袋駅は5−8万年前に形成された豊島台地にあリます。これらの台地は、武蔵野台地という洪積台地の一部です。最も古いのが淀橋台地なので、一番地盤が硬い。つまり一番安く高層ビルが建てられる土地。

池袋台地は2番目に古いのでここも高層ビルが建てやすい。だからサンシャイン60が建設されたのです。

最近は渋谷駅や東京駅周辺、つまり沖積平野でも当たり前のように高層ビルが建設されていますし、最も地盤が新しい(=柔らかい)湾岸にもタワーマンションが建設されていますが、これらは、より深くの古い地層に杭を打って建設する必要があるので「新宿高層ビル群よりもコストが高い」ということでしょう。

▪️地震に強い家を建てるにはどこが良いか

これは地盤の硬い土地に立てればよいので、先述の「洪積台地」ということになりますが沖積平野でも地盤の硬いところがあります。それが「自然堤防」。

一般にこのような土地は、古くから地震に強く洪水が起きにくい場所なので多くの神社仏閣が残っています。したがって神社仏閣の近くに家を建てる、というのが一つの鉄則です(城下町の神社仏閣は昔の防衛線だった場所なので除く)。より深く知りたい方は以下ブログも参照ください。

川は洪水で氾濫するたびに、川に沿って砂の高まりができます。これが自然堤防。自然堤防ができると洪水で川が氾濫して自然堤防を越えた泥水は、元の川に戻らずそのまま湿地となります。これが「後背湿地」。

自然堤防は、砂で形成された硬い地盤なので、昔の人は自然堤防に家を建て、洪水のくる後背湿地に田畠を作って生活していたのです。

なので、後背湿地は、洪水が起きやすくて泥の柔らかい地盤だから、ここには家を建てなかったのです。

今は後背湿地にも多くの家が建っていますが、当然洪水が起きやすく地盤も柔らかいので、しっかりした家を建てる必要がる=コストが高い家になる、ということになります。

▪️火成岩の覚え方「シンカンセンハ カリアゲ」

なるほどな、と思いました。火成岩は火山によって誕生した岩石ですが、深成岩と火山岩に分類され、深成岩は、花崗岩・閃緑岩・ハンレイ岩に、火山岩は、流紋岩・安山岩・玄武岩に分類されます。

*シン=深成岩:地表に近づくにつれ、ゆっくりと固まった岩石
*カン=花崗岩
*セン=閃緑岩
*ハ=ハンレイ岩

*カ=火山岩:噴火などで地表に押し出されたマグマが急激に冷やされて固まった岩石
*リ=流紋岩
*ア=安山岩
*ゲ=玄武岩

本書80頁

▪️山脈の高さの違いは何によるのか

これは単純に「新しい山脈が高くて、古い山脈が低い」ということです。古ければ古いほど山は雨風によって侵食されて削られていくからです。できたばっかりの山脈はまだまだ雨風にさらされる期間が短いので高くなるのです。

古い山脈の代表例は、アメリカのアパラチア山脈(古期造山帯)、新しい山脈の代表例は、ヒマラヤ山脈(新期造山帯)です。

本書123頁

ちなみに雨風によって山地を削られ、川で流された土砂が、谷に埋まると平野ができます。

飛行機の窓から地形を見るとよくわかりますが、真っ平の平地の間に急峻な山脈があるわけですが、最初から平地が真っ平らだったのではなく、山と山の間の谷に土砂が埋められて真っ平らになったのですね。

▪️なぜ木を伐採すると洪水が起きやすいのか

なぜなら「樹木の根」やその周りで生きている「ミミズ」は、土の粒を固めて団粒を作る作用があるのですが、木を伐採することによって団粒がなくなってしまうからです。

団粒構造の発達した土壌は、団粒と団粒のスキマに水を保持することができるため、大雨が降っても、水は地面にしみ込み、土の中に保全されるからです。

本書228頁

▪️南アフリカの壮大なる景色は、ゴンドワナ大陸が分裂して形成された

2009年に南アフリカ西部をドライブした時、あまりにも壮大な景色に感動の連続だったのですが、この辺りは5億年以上前(先カンブリア時代)に形成された安定陸塊でアフリカ卓状地と呼ばれています。

南アフリカ 西ケープ州 北部(2009年撮影)

鉄鉱石がよく取れる場所として有名ですが、特に私がドライブした南アフリカ西部は、構造平野と呼ばれ、上の写真のようなメサと呼ばれる地形が点在し、その圧倒的迫力に驚いた記憶があります。

同上

下のケープタウンのテーブルマウンテンもメサ地形の一つ。

同上

ゴンドワナ大陸分裂時に割れ目から玄武岩の溶岩がシート状に地表を何度も覆い、硬い層と柔らかい層からなる水平な地層の構造平野ができ、その硬い層が侵食から取り残されて、この地形ができたといいます。

南アフリカ共和国 北ケープ州


以上のほか、地理学がいかに私たちの知的興奮を誘う学問か、がよくわかると思いますし、生活の役にも立ちます。

本書の続編としての人文地理学編『人間お営みがわかる地理学入門』も大変面白いので追って紹介したいと思います。

*写真:アフリカ ボツワナのひまわり畑(2009年撮影)

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