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「日本語の歴史」山口仲美著 書評

<概要>
日本では、人間本来の能力として先天的に持つ「話し言葉」に対応して、中国から輸入した漢字・漢文を、時代ごとにどのように悪戦苦闘しつつ活用してきたか、整合性を目指してきたか、を解説してくれる良書。

<コメント>
著者は、私の出身大学の出身学部の教授だった方なんですが、こんなに有名な先生がいたとはちょっと驚き。

さて、日本語の歴史と言っても、広範囲になってしまうので著者の場合は「あとがき」によれば時代ごとの「話し言葉=口語」と「書き言葉=文語」のせめぎ合いという観点に絞って書いたとのこと。

個人的には、言語の標準化が近代国家成立の礎になっているとの知見をベネディクト・アンダーソンの「想像の共同体」を読んで感じたので、さて江戸山手の話し言葉を加工して成立した現代日本語は「どのように作られたのか」に興味があって読んでみました。

内容的にはドンズバではなかったものの、別の視点でとても興味深く読めました。

一般的に口語と文語は別物で、現代日本人は誰でも文字が読めますが、昔は全世界的に文字を読める人は上流階級のみ

日本の場合はオリジナルな文語がなかったので、中国から漢文を輸入。ちなみに漢文は現代中国語とも違うので、今の中国人でも専門家でないと読めません(日本人が古文を読めないのと同じ感じか?)。

日本の場合は、畿内の天孫民族の支配階級の間でだけ使用されたのが漢文。正式な文書は江戸時代までずっと漢文だったそうですが、本書によれば平安時代などは、漢字を加工したカナ文字も活用した日本固有の口語に合わせた文語も使用していたようです。

口語も奈良時代は、は行は「ファフィフフェフォ」だったらしい。考えてみると今の日本語も、た行は「t」が子音であれば「タティトゥテト」であるべきなのに「タチツテト」と発音しているなどは、実は「行」と「子音」は一致していない

最近NHKのアナウンサーでも「さ行」のうち「し」を正確に発音できない人がいて、なぜなのかなと思っていたのですが、さ行の場合は全て子音が「s」ですが「シ」だけは別の子音なんでちゃんと発音できないアナウンサーがいるんだなと納得。

明治維新政府は、西洋列強に並ぶべく口語の標準化と言文一致政策をとり、どの言葉を標準語にするか迷ったそうですが、むしろ苦労したのは文語の口語化で、福沢諭吉や二葉亭四迷をはじめ、80年かけて戦後にやっと言文一致がかなったということだから、これも驚きです。

ただ口語は、どんどん変化していくので文語も時代時代に合わせて口語に合わせていかないとまた昔のように言文不一致が起きるという。

言語ってデジタル化できず、話す相手、時代などによっても変幻自在に無限に生き物のように変わっていくものだから、それも言語の持って生まれた性質で本当に不思議です。

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