今アフリカはどうなっているのか?『超加速経済アフリカ』椿進著 読了
<概要>
もはや「後進国」ではなく、文字通りの「発展途上国」となったアフリカ諸国の経済が、これまでの西欧や中国などとは異なった特徴ある経済成長を加速させている、とのアフリカ向け投資&コンサルタント会社の経営者の著作。
サッカーの世界では、今月から始まるカタールでのアジアカップがアジアの頂点を決める大会である一方、アフリカでは、コートジボワール(コートダジュールではない)にてアフリカの頂点を決める大会「アフリカネーションズカップ」が開催されます。
縁あって、私もアフリカネーションズカップに合わせて2023年末のエジプトツアーに引き続き、再びアフリカ(コートジボワール)の地に渡り、サッカー観戦しにいくことになったので、
「今、アフリカはどうなっているのか」
知りたくて本書を手に取りました(電子書籍ですが)。
なお、アフリカはサハラ砂漠を境に「北アフリカ」とサハラ以南の「サブサハラ・アフリカ」で文化圏は大きく異なりますが、今回は我々が一般にアフリカをイメージする「サブサハラ」の方をメインにします。
⒈現在のアフリカの立ち位置
アフリカと一言でいっても巨大な大陸(日本の80倍、米国の3倍)なので、一言でいうのは難しいと思うのですが、
最初の大前研一の言葉を借りると、今のアフリカは、50年前の日本(1960年代)、25年前の中国(1990年代)、10年前のインド(2010年代)だといいます。
以下の図がわかりやすい。
日本の成長段階のどのあたりが、今のアフリカの主要都市の経済段階なのか、よくわかります。最も進んでいるのが南アフリカ(ヨハネスブルグ)で、ちょうど日本の1970年代後半、ケニア(ナイロビ)で1970年代前半、といった具合です。
ちなみに日本で「ファスト風土」ともいうべき、ショッピングセンターやコンビニ、ファミレスなどの「郊外」が形成され始めたのが1970年代なので、ちょうどその頃をイメージするといいかもしれません。
⒉サブサハラの現代史は1960年から始まる
サブサハラ諸国は1960年以降、英仏などの旧宗主国からの独立を果たします。
独立当初はどの国も建国に向けた熱意あるリーダーのもと、1970年代までは順調に成長したいたのですが、1980年代から2000年ごろまでのおおよそ20年間は「アフリカの死」と呼ばれ、収入源であった資源・第一次産品価格の低迷と石油ショックによって経済が低迷してしまいます。
加えて政治体制も独立当初の既得権益支配層の私利私欲によって次第に政治も不安定化し、各地で内戦が勃発。治安も悪化して経済どころではなくなってしまったのです。
そして2000年代以降、中国の経済発展に伴う資源爆買いと投資をベースに再びサブサハラは経済成長路線を歩み、今に至る、という現代史。
したがって「今はまさにアフリカへの投資チャンスだ」との投資家たる著者の主張です。
一方で政治体制は現在、どうなったのでしょう。
ほとんどが「独裁の権威主義国家」といってもよいのが今のサブサハラです(北アフリカも同様)。ある程度民主主義が機能しているのは、主要国では「南アフリカ」「ガーナ」「セネガル」ぐらいではないかと思われます(世界の政治民主化度 国別ランキング)。
つまり旧宗主国の民主主義国家の西欧と違い、権威主義国家の中国やロシアと非常に相性がいいのです。
なお、本書では「経済」がテーマなので、政治体制に関する言及はあまりないのですが、やはり「アフリカは、権威主義が支配する大陸」だ、ということはしっかりおさえる必要があると思います。
一般に権威主義国家は、発展途上においては、独裁者の強烈なリーダーシップで国を牽引できるので治安と経済発展に有利な面がある一方、国民(社会)のガバナンスが働かないので、アフリカ諸国も独裁者が無能であったり、私利私欲に走ると、途端に「アフリカの死」の時代に戻ってしまう可能性もあるのでは、と思われます。
そんなカントリーリスクを認識しつつ、著者主張の「これからの投資はアフリカだ!」というのはなぜなのか以下紹介。
⒊「リープフロッグイノベーション」とは?
面白いのが、アフリカで発展する分野は「通信業」や「IT産業」「金融」「医療」「物流」など。一方で「資源開発」「酒販売」「自動車販売」「コーヒー・紅茶・カカオ」などはなかなか発展が難しい。
これは、なぜかというと「既得権益者がいるかどうか」の違い。
この違いは日本でも同じだな、と思ってしまいますが、アフリカではよりその傾向が顕著ということでしょう。
そして通信やIT関連に関しては、まさに究極のブルーオーシャンな世界で、著者が本書のサブタイトルにつけた「リープフロッグ」の世界。
リープフロッグとは、そのまま訳すと「蛙飛び」のこと。アフリカでは「リープフロッグイノベーション」といって、インフラが整っていないので、蛙飛びのように最先端の技術がひとっ飛びで普及する、という意味です。
日本でも既存の老朽化したインフラや設備があると、アップデートするのに時間とお金が大量に必要です。むしろ全て廃棄して最初から作った方が安くてクオリティーが上がる事例が多くあります。
通信はもちろん、道路や鉄道・空港などのインフラはじめ、工場や発電所然り、マンション然り、各種情報システム然り。
アフリカのように最初からレガシー(既存インフラ、既得権益者、岩盤規制)が何もなければ、その時点で最新のインフラ・設備・サービスを即時導入可能というわけです。
【リープフロッグの事例】
⑴固定電話が普及する前に「携帯電話」が蛙飛び普及
これはわかりやすい。携帯電話がどこでもつながれば、固定電話不要。固定電話のインフラを整える必要がないのです。
⑵銀行口座が普及する前に「モバイルマネー」が蛙飛び普及
例えばケニアの「MーPESA」は、チャージした通話料が通貨のように使えてしまう。
電話用にチャージしたお金がそのまま仮想通貨のようになっていて、預金もできるし送金もできます。電話なので通信キャリア会社(サファリコム)が運営していて、銀行などの金融業ではないのも面白い。
アフリカでは信用経済が未発達なので、カードなどの掛売り(=後払い)は極小で、すべて「前払い」方式。携帯電話もほとんどが前払いのプリペイドカード式なので、常に電話料代に充当するチャージ分が「通話料」というカタチで仮想通貨のようになっているのです。
しかも「通話料」は現金化もできちゃう。「1000円分だけ通話料から現金引き出しする」ことが「MーPESA」と契約しているコンビニやキオスクなどで可能なので「通話料」を銀行口座としても流用できるのです。
そして「MーPESA」は、各種決済にも利用可能。コンビニでもガソリンスタンドでも、お客がそのお店に割り当てられている6桁の番号をケータイのSMSを使って入力して支払い、というしくみ。
⑶医療サービス:外来診察」が普及する前に「遠隔診察」が蛙飛び普及
アフリカ大陸は広大で交通網も未発達。しかも医師は日本の人口千人あたり2.4人の普及率に比し、ケニアでは0.2人、エチオピアでは0.1人しかいません。
そこでAIベンチャー「babyion/babel(バビロン/バベル)が遠隔診療をケニアで導入。
まずはスマホのAIのチャットポットで症状を入力。するとAIが症状を初期判断して返答。それでも治らない場合は看護師が遠隔で対応、それでも解決できない場合は医師が遠隔診。
最終的には地域のヘルスセンターと連携して近隣(と言っても遠いので1日がかりがほとんど)のヘルスセンターと連携して直接診療するのですが、最終的に直接診療するのは全体の17%のみ、と相当に効率的になっています。
⑷ウーバー型物流で全国物流網を1年で構築
アフリカ最大の国、ナイジェリアでは「kobo360」というUber型物流が普及。荷主と中小トラック運送会社のマッチングサービス。
ヤマト運輸や佐川急便、日本通運、西濃運輸など、日本のように大手配送物流業者がいないナイジェリアでは、中小ひしめく運送会社にその都度対応が必要でしたが、Kobo360によって誰でもナイジェリア全土に簡単に荷物を運ぶことが可能に。
個人的にかつて物流業界に携わっていた経験からすると、kobo360は「宅配」とか「積み合わせ」ではなく、赤帽のようにトラックをチャーターして配送するようなスタイルのようです。日本でも軽貨物で同じようなプラットフォーム「ピックゴー」があります。
⒋なぜアフリカでは「中国」の存在が大きいのか?
私は、実は40年近く前に中国北京に夏休みを利用して短期語学留学したことがあります。その時に日本人以外で一番仲良くなったのがガーナ人の男性。
「ガーナにはプールがほとんどないから泳げない、是非とも水泳を教えてほしい」
とのことで、午前の授業が終わった後、しばしば二人でホテルのプールに行ってクロールや平泳を教えていたのを思い出します。私の付き合っていたガーナ人は本当にナイスガイでその後、縁が切れてしまったのが実に残念。
一方で当時はアフリカ男性と日本女性との男女関係にまつわるトラブルも多く、問題になっていたので「アフリカ男子寮と日本女子寮が一番遠くに離された」と長期留学生に話を聞いたのを覚えています。
このように、この時代(1980年代)すでに中国はアフリカと深い関係を持っていて、多くの留学生をアフリカから受け入れていたのです。
本書によれば、アフリカで中国の存在感が大きくなったのは2003年ごろから、というから、中国が存分に発展して世界進出し始めた時代から、ということでしょうが、過去からその土台はあったように感じます。
そして2000年代から、家電や携帯などが韓国製から中国製にシフトしていき、すでに中国がスマホではアフリカのトップメーカー。そして中国は資源確保目的でアフリカに改めて急接近。中国がアフリカから輸入する90%は燃料・鉱物。
も一つの目的は「国際世論の形成」のようで、権威主義国家として欧米から嫌われている中国にとって、同じ権威主義国家が多いアフリカからの賛同を得るのはむしろ、民主主義を押し付ける欧米西側諸国よりもたやすい事でしょう。
アフリカ諸国における中国人の在留数は、なんと80〜100万人で、第2位のフランス25万人の4倍近く。日本の在留数は7千人ですから「日本人はほとんどいない」と言ってもいいぐらい。
こんなアフリカの現状ですから、特に軍事クーデターなどの政変がなければ、経済成長は先進国をはるかに超える高率で加速する可能性大。
本書はアフリカ向けの投資を促す投資家向けの著作ですが、私たち一般庶民であっても、世界株(オルカン)等の投資信託を購入することで、その資産の一部をアフリカに投資し、アフリカの成長に貢献するとともに、その果実をちゃんと享受しましょう、という事かもしれません。
合わせて私はアフリカ旅行を通じて直接アフリカに貢献したいと思います。
*写真
アフリカ大陸最南端 アガラス岬(希望峰ではありません。2008年10月撮影)
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