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「絶望を希望に変える経済学」経済成長編

■経済成長の法則を解明するのは無駄な努力

「絶望を希望に変える経済学」によれば、古今東西の経済学者によって数多くの研究がなされたにも関わらず、経済成長のメカニズム(※)は未だ解明されていません。なので著者は「無駄な努力はやめよう」と提言しています。

※経済成長のメカニズム
実際に本書では「ローマーモデル」「ソローモデル」「収束仮説」「収穫低減の法則」「クロスカントリー成長回帰分析」などの事例を紹介しています。
著者によれば「日本の失われた30年」は「ソローモデル」で説明可能。少子高齢化で人口が急激に減少し、しかも移民の流入が少ないから。

それでも個別にみれば、さまざまな事実の解釈(=仮説)はあり。

先日紹介した「自由の命運」の二人の著者、ダロン・アセモグル&ジム・ロビンソンとサイモン・ジョンソンによれば、

ヨーロッパ人の初期入植者の死亡率が高かった南米などの国は今でもうまくいってないといいます。なぜなら彼らの大半は入植ぜず、一部の強権的な統治者だけが残ってプランテーションや採掘場を統治するから。彼らは先住民を奴隷のように使ってサトウキビや綿花、ダイヤモンドなどを生産。

「自由の命運」によれば、これらの国は、政治権力(彼らはリヴァイアサンと呼ぶ)が、地縁・血縁で固定されてしまうので成長のモチベーションが生まれません。既得権力者にとっては「今のままがいい」のです。

一方、ニュージーランドやオーストラリアのように、先住民が極小または入植者の病原菌でほとんど死滅してしまって彼ら彼女らを労働力として活用できなかった国では、ヨーロッパ流の制度が構築され西欧と同様の経済成長を実現。

そして数少ない比較的はっきりしていることは、旧ソ連や毛沢東のような社会主義経済や、民間企業への過度な政治の介入や規制は避ける方がいいということ。

つまり自由経済・規制緩和だけが、著者が本書で唯一経済成長のための効果的な政策だと言っているのです(開発経済学者のバナジーにしてこの主張は、ちょっと意外でした)。

一方で富裕層への減税含め、

高所得層に対する減税はそれだけでは経済成長にはつながらない、という点で経済学者の大多数の意見は一致している。

本書チャプター5「成長の終焉?」

「減税によって経済成長した」という事例はありません。減税によって経済は成長しないのです。

各国の税率の変化を調査すると、成長率と税率の間には相関関係すら存在しないことがわかった。一国における1960年代ー2000年代の減税幅と成長率の変化の間には、何の関係も見受けられなかったのである。アメリカの州経済についても同じことが言える

同上

これは予想外のエビデンスでした。

■リソースの最適配分によって発展途上国の成長は可能

発展途上国が経済成長できないのは、リソース(いわゆる経営資源のこと=ヒト・資源などのモノ・カネ)が十分に活用されていないから。

これは先述の「自由の命運」の「張り子のリヴァイアサン」やインドの事例を見れば、一目瞭然。すでにその国にあるリソースをうまく活用するような制度はあったとしても、宗教的なもの含む伝統的な社会規範によって、合理的な新しい技術や習慣が阻まれたり、地縁・血縁で固定化された支配層(公・民双方とも)の既得権益を守るために、新しい企業や産業の発展が阻まれたりと、リソースはあっても活用されないハードルは無限にあるのが発展途上国です。

同族CEOを選んだ企業のその後3年間の業績は外部CEOを選んだ企業と比べてかなり見劣りするのである(ROAが14%低かった)。

同上

■それでも、確かに貧困は減っている

これもファクトフルネスでさんざん唱えられたのですが、著者も同意見。とはいえ、富裕層がさらに富裕になったという事実も強調。

購買力平価で見て1日1.9ドルで生活する人々が世界人口に占める割合は、1990年から今までに半減

1990年以降、乳児死亡率と妊産婦死亡率も半減。これによって1億人以上の子供の死が回避

SDGs(持続可能な開発目標)では、2030年までに極度の貧困(1日1.2ドル未満で暮らす人々)を撲滅する目標が掲げられていますが、少なくとも現在のペースで世界が成長するなら目標にかなり近づけると著者はいいます。

■発展途上国における若者の雇用のミスマッチ

発展途上国では、公務員の労働条件が民間と比較してダントツで好条件なので、みんな公務員になりたがります。これでは民間にいい人材が供給されるわけがありません。

公務員は「解雇されない」「倒産しない」「給料が民間の倍以上」「健康保健などの福利厚生が充実」などなど、圧倒的優位なので例えばインドで国有鉄道が下級職員9万人を募集したところ、2800万人の募集があったといいます。日本人から見るとあまりにも巨大な数字なんで、ちょっとイメージしにくい。

正規雇用と非正規雇用の問題は日本だけでなく。発展途上国も同じ。

発展途上国の労働市場は極端に二極化しているのである。一方には一生安泰の高待遇の正規部門があり、他方には大勢の人が何の雇用保障もなく働き、あるいは自衛で細々と事業を続ける非正規部門がある。

同上

逆にこのような発展途上国の未熟さを知ってしまうと、果たして発展途上国の未来は暗いように感じますが、一方で「伸びしろ」は十分にあるということ。どんなキッカケがあるかは誰にもわかりませんが、何らかのきっかけで急成長する可能性は大いにあると思っています(もちろん逆もまた然り)。

*写真:ノルウェー レルダルスエイリ(フィヨルドの街)2018年撮影

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