#04 Dry Cleaning、オリヴィア・ロドリゴ...サウスロンドンとティーンのシンガーを抜きにして語れない!ー2021年海外音楽シーンを語ろう(4/4)(音声/文字両対応)

第1回〜第4回配信では、友人の藤田くんをお迎えし、2021年の海外音楽シーンについて語り合います。

本エピソードは、藤田レコメンドによる「Dry Cleaning / Strong Feelings」、私レコメンドによる「オリヴィア・ロドリゴ / deja vu」の2曲をテーマにしながら、今年リリースが相次いだサウスロンドンシーンの活況と、2021年イチのバズ・ガールによる新世代のリリック表現について紐解きます。

今回も数多くのアーティスト名、作品名が言及されるので、ぜひ以下の文字情報と併せてお聞きください。

本エピソードで紹介した楽曲を以下プレイリストにまとめております。

また、藤田・深井それぞれが選曲した、2021年上半期ベスト50プレイリストも公開しておりますので、こちらもよければチェックを。


以下、音声の一部文字起こしです。

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1. Dry Cleaningと、その出自であるサウスロンドン


藤「これまでUS,アジアのアーティストを紹介してきたんですが(#2#3を参照)、次に紹介するのはUKのアーティストです。」
「2021年怒涛のリリースラッシュをしたのが、いわゆる『サウスロンドン』と呼ばれる地域のアーティスト達でした。black midi, Squid, Black Country New Road, shameなど…その中でも実験的な要素というよりは、割とオーセンティックなサウンドを展開するDry Cleaningを選びました。恐らく彼らのルーツであろう、Sonic YouthPJ Harveyといった90年代オルタナロックの雰囲気が感じられて、個人的にもアクセスしやすかったです。」
「面白いなと感じるのが、今挙げたようなサウスロンドンのバンドが平然とUKのトップチャートにランクインしていること(笑)こんなエクスペリメンタルでカオティックな音楽が大衆受けするのか!という驚きもありますし、今後の動向がとても気になるシーンでもあります。」

「Dry Cleaningの新譜の印象としては、全編通してほぼ同じような曲調で、淡々としている。これを受けて2ndがどのような方向性で来るのか、個人的にとても興味深いです。」
深「まさに。今言ってくれたように、色んなジャンルの音楽を経由して取り入れてはいるけども、サウンド的には収録曲それぞれに大幅な違いは無い、と言う点で連想したのがSuperorganismで。彼らもヒップホップやサイケ、シューゲやヴェイパーウェイヴなど様々なジャンルを内包しつつも、作品としての一貫性を保持するために、突飛なプロダクションの曲は入れない。そういったアティテュードにおいて共通するものがあるなと思いました。」
「あとDry Cleaning、Squid、Black Country, New Road、いずれもアルバムとしては1枚目なんですよね。2,3年前からサウスロンドンシーンの萌芽のようなものは一部メディアでも取り上げられていましたが、今年その盛り上がりがマスにも届いたという感じですね。」

2. サウスロンドンシーンの連帯と、ジャンルの横断性


藤「よくサウスロンドンから出てきたバンド達をまとめてポストパンクと形容されたりもするのですが、そのジャンル一つだけには収まらない背景やリファレンスがそれぞれ内包されている。
例えば今年2ndアルバムを発売したblack midiは、ドイツ発祥のクラウトロックと呼ばれるジャンルにも影響を受けていて、代表的なバンド、canのメンバーであったダモ鈴木さんという方との繋がりがあったりとか。ポストパンクの系譜を引きながら、当時パンクに対する反発から生まれたプログレを積極的に取り入れているところも面白いですし、音楽学校に通って本格的な演奏技術を学んでいるというところも、パンク的な姿勢とは程遠い(笑)」
深「UKには『ブリットスクール』というアーティストの育成に焦点を絞った無償学校がありますが、black midiもそこの出身だったんですね。ジャンルは違いますが同じくサウスロンドンのトム・ミッシュや、Rex Orange Countyなどを輩出した学校としても有名です。社会がアーティストを養成するというシステムが出来上がっているからこそ、シーンの連帯感のようなものがより色濃く見える、そんな側面もあるのかなと思いました。」

藤「彼らのライブを見ていると、ジャズ的なインプロヴィゼーション(即興)のフィーリングも感じられていて、それが出来るのはやはり演奏技術の高さに起因しているのかなと。一時期のマイルス・デイヴィスじゃないですが、しっかりとした素養を身につけつつ、それを解体していくことで新鮮味が生まれる。ライブパフォーマンスも重要な注目ポイントだと思います。」
深「Black Country, New Roadのライブ映像を見たんですが、その貫禄と安定感に圧倒されました。彼らの音楽はblack midi同様割と展開や拍子が複雑なのですが、よりキャッチーで高揚感を煽るような展開も用意されている。サウスロンドンビギナーの自分としては、今のところ一推しですね。まあ彼らがSpotifyに公開しているフェイバリット・プレイリストで、僕の生涯ベスト映画『パンチドランク・ラヴ』のサントラから一曲チョイスされていたことも大きいですが(笑)」


3. オリヴィア・ロドリゴーー新世代スターの誕生


深「オリヴィア・ロドリゴは現在18歳で、先日高校を卒業したばかり。元々はセレーナ・ゴメスマイリー・サイラスなどと同じように、ディズニー・チャンネルの主役女優としてデビューしましたが、今年1月に『drivers license』という曲を発売しました。サウンド的にはテイラー・スウィフトロードの系譜を引き継ぐような、ピアノ主体のオーセンティックなバラードで、リリックは『彼氏と約束して自動車免許を取ったけど、別れちゃったから一人で郊外を運転してるよ』という非常にパーソナルで、普遍的な日常をテーマにしています。」
「『deja vu』のリリックについては後述しますが、サウンド的には(第2回で取り上げた)ビリー・アイリッシュHappier Than Ever』じゃないけど、フックの終わりで急にノイジーなギターサウンドが登場する。その絶妙にくぐもったファズのような音色は90年代オルタナロックの匂いも感じさせられます。』
「そして今のところ最も売れている曲、『good 4 U』が5月に発売されました。こちらは前2作よりさらに振り切った、2000年代のポップ・パンク、よく形容されるのがparamore(2021年8月、正式にこの楽曲のクレジットに名前が追加されることが発表されました)やアヴリル・ラヴィーンといったアーティストを彷彿とさせるようなサウンドでリスナーを驚かせました。」

藤「1stアルバム『SOUR』を聴いた印象としては、既にめちゃくちゃ完成されてるな、と。ビリー・アイリッシュの1stなどは意識的にヒップホップやロックのエッセンスを自分のサウンドの中に取り込もうとしているように聞こえたのですが、オリヴィアに関してはもはやそれすらも彼女の『当たり前』であり、さらにその先を見据えてるような気がするんですよね。」
深「確かに。あとそこにはトラップというある種”便利なツール”が行き着くところまで行った結果の、生音回帰の流れもある気がして。2020年にはハイムが『Women In Music Pt.Ⅲ』というアルバムでビンテージのめちゃくちゃ高質な音を慣らしていたり、テイラー・スウィフトが『folklore』というアルバムでザ・ナショナルのメンバーであるアーロン・デスナーや、ボン・イヴェールと組むことでインディーロックに接近したりとか。そういった潮流の先に、オリヴィアもいるのかなと。」
「あとジャック・アントノフの存在も非常に重要ですね。『deja vu』にはテイラー・スウィフトの『Cruel Summer』という曲の一部が引用されていて、彼もクレジットに名を連ねています。傑作続きであった2021年の女性アーティストーーラナ・デル・レイClairoロードセイント・ヴィンセントーーのプロデューサーであり、Bleachersという彼が率いるバンドも新譜がリリースされました。もちろんオリヴィアの『SOUR』にも一部の楽曲で携わっています。」

深「『deja vu』のリリックについてなんですが、構成が結構練られていて。1番のAメロでは、彼氏との楽しい思い出が語られるんですが、フックで急に『で、いつ今カノに白状するの?それは元カノである私ともしたことだって。彼女特別だと思っちゃってるよ!?』という怒涛の追い討ちがかけられます。幸せなのかと思いきや、恨み節かよ!みたいな(笑)つまり元カレに対して、私と付き合ってた時と同じようなことを今の彼女として、デジャヴを感じないの?きまり悪くならないの?と言っているわけです。」
「このリリックにおけるもう一つ重要ポイントは、『彼女はビリー・ジョエルを知っているでしょう?まあ、彼の歌をあなたに教えたのは私だけど』というところ。ここがまさに第2回以降話していたような、ストリーミング時代の表現。TikTokで90年代の曲がバイラルヒットすることも最近ではよくありますが、新旧分け隔てなく様々な音楽にアクセスできる環境が整っていたからこそ、ビリー・ジョエルが自然に歌詞に登場する。これにはあまりにも社会的な潮流とマッチしすぎていて唸らされましたし、まさに時代の写し鏡とも言えるポップ・ソングの真髄が垣間見えたような気がしました。」

深「2020年に最もヒットした曲と言える、カーディ・Bミーガン・ジー・スタリオンによる『WAP』では、あえて過度に性的な表現を見せることで、抑圧からの解放といったテーマを描いた。と同時に、Black Lives Matterの運動と呼応する、コンシャスな楽曲ーーDababy, Roddy Ricchの『Rockstar』とか、H.E.R.の『I Can’t Breathe』とかーーが多数登場したことで、より直接的に社会性のようなものが浮き彫りになる形になった。その流れと全く反転するかのように、今年初頭にはオリヴィアの超パーソナルなリリックが多くの人に受け入れられました。そこに時代としての必然性を感じたし、個人的にもすごくエキサイティングな部分だったので、リリックにおける共通性をテーマに(#2~#4で紹介したアーティストを)選んだんです。」

(音声の方ではClairoの「Blouse」について話していますが、Takashiさんによる↓の記事がより詳しいので、ぜひご参照ください。)


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