#03 Parannoul、ROSE(BLACKPINK)...二組の韓国アーティストからみる文化の往来ー2021年海外音楽シーンを語ろう(3/4)(音声/文字両対応)

第1回〜第4回配信では、友人の藤田くんをお迎えし、2021年の海外音楽シーンについて語り合います。

本エピソードは、藤田レコメンドによる「Parannoul / White Ceiling」、私レコメンドによる「ROSE(BLACKPINK) / Gone」の2曲をテーマにしながら、日本文化が海外にどんな影響を及ぼしてきたか、また時代を席巻するK-POPサウンドは世界のどんなトレンドとシンクロしてきたのか...などといった側面を紐解きます。

今回も数多くのアーティスト名、作品名が言及されるので、ぜひ以下の文字情報と併せてお聞きください。

本エピソードで紹介した楽曲を以下プレイリストにまとめております。

また、藤田・深井それぞれが選曲した、2021年上半期ベスト50プレイリストも公開しておりますので、こちらもよければチェックを。


以下、音声の一部文字起こしです。

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1. 韓国インディーの新星、Parannoulとは

藤「Parannoulはまだあまり知られてないと思うんですが、韓国のアーティストで、サウンド的にはバンド色が強いんですが、ソロプロジェクトとして活動しているそうです。知ったきっかけはSNSだったのですが、全くメジャーではない海外のアーティストの情報がリリース数日後に出回り、ここ日本にも伝わったという流れはまさに”今”ならではだなという感じがします。ピッチフォークやRate Your Musicなどのレビューサイトからも軒並み高評価を獲得しているようです。」
「ジャンル的には割と日本人の耳馴染みに良さそうな、シューゲイザーやエモといったサウンドの傾向が強いです。アルバムのジャケットもそうなのですが、『Analog Sentimentalism』という曲はまさにスーパーカーを彷彿とさせるような、90年代後半の日本発ロックバンドのような雰囲気も感じられます。」
「インタビューなどからも分かるように、日本文化からの影響が作品にも強く出ていて、特に『Beautiful World』という曲の中で、岩井俊二監督『リリイ・シュシュのすべて』の台詞がサンプリングされていたことが大きな話題になりました。その他にも影響を受けた日本のバンドとしてNUMBER GIRL, THE NOVEMBERS, Syrup16g, BURGER NUDSなどを挙げていたり、『新世紀エヴァンゲリヲン」をフェイバリットアニメとして選んでいました。」

2. 日本のカルチャーが海外に与えた影響

「最近の傾向として”逆・ビッグインジャパン”ではないですが、国内ではあまり知られていないけど海外での人気が高い日本のアーティストがよく挙げられているような気がします。(第4回配信で取り上げる)Black Midiに影響を与えたボアダムスや、おとぼけビ〜バ〜フィッシュマンズとか。」
深「ゼロ年代初頭のUKロックリバイバルともいえるNo Busesや、エスニックなビジュアルとサウンドが人気のCody・Lee(李)、新体制後のKIRINJI時間がない』などのyoutubeも英語のコメントで溢れていたような。あと今挙げたアーティストに比べれば国内での知名度も高いかもしれませんが、70〜80年代国産シティポップはまさにそうですね。」

藤「今年新譜をリリースしたポーター・ロビンソンも、日本の文化に影響を受けたと公言しているアーティストの一人ですね。ダンスポップと形容されることの多い彼のサウンドのルーツは、なんとダンス・ダンス・レボリューション(笑)。グローバリズムが進むにつれて、音楽だけでなくゲームやアニメ、様々なカルチャーの相互作用が起こっていたんだなぁと実感します。」

深「Parannoulのサウンドが世界的にも(ピッチフォークなどのメディアにも)評価された、その要因はどこにあると思われますか?」
藤「フィッシュマンズが世界でウケている理由がまだあまり解明できていないのと同じく(笑)、明確には分からないんですが、Parannoulが得意とするような密室的なシューゲイザーサウンドは、サイケデリックにも似たような不思議な陶酔感があって、個人的には正にフィッシュマンズの『Long Season』を聴いた時のような、身体が音に呑み込まれる感覚を連想したりもしました。(第2回配信でも言及した)ドラッグ・カルチャーが根付いている風土であり、その陶酔感がより受け入れやすい環境にあるということも起因しているかもしれません。ややこじつけですが(笑)」

深「取り急ぎ『White Ceiling』だけ聴いたんですが、とにかく音質が粗い(笑)。ドラムとかはほぼ潰れてるんだけど、新しいなって思ったのは、あまり左右にパンを振らずに音を真ん中に寄せつつ爆音で鳴らす。ある種シューゲのシグネチャー的な部分もあるそのメソッドを、すごく密閉的な宅録に応用したというのは新しいなと思いました。左右への分離がないサウンドという面では、今年発売されたThe Armedというバンドの『ULTRAPOP』というアルバムとの共通性も感じたりしましたね。」
深「あとうまく言葉にできないんですが、まさにさっき出たような岩井俊二監督の作品群や、庵野秀明監督の実写作品『ラブ&ポップ』のような、90年代後半日本映画特有のざらついた画面、匂いのようなものをサウンドからも感じました。あと韓国のインディー音楽にはあまり詳しくないので映画のアナロジーになってしまうんですが、いわゆる韓国映画の大作ーー『パラサイト』とか『新感染』とかーーああいったアッパーなテンションで進んでいく作品よりも、2020年に公開された『はちどり』や、僕が敬愛するイ・チャンドン監督の傑作『バーニング 劇場版』のような、どことなくメランコリックで、鬱屈とした社会を描く韓国の情景を連想したりもしましたね。」

3. K-POPサウンドはなぜ世界に受容されたのか?

深「まず僕がK-POPサウンドの沼にハマっていったきっかけを話したいんですが、10月くらいにTWICEの『I CAN’T STOP ME』っていう曲が発売されて、それがとにかく僕が死ぬほど聞いていたウィークエンドデュアリパのサウンドに完全にマッチしていたんですね。a-haの『Take on me』発 ウィークエンドの『Blinding Lights』経由みたいなイントロのシンセにまずやられて、またその曲が収録されていたアルバム『Eyes Wide Open』の中にはデュアリパのチームが参加している曲もあったりして(『BEHIND THE MASK』)。そこで完全に点が線になった感覚というか、グローバルなトレンドを同時代に終えている!という興奮が自分の中にあったわけです。」
「BLACKPINKの、なんとも形容し難い中東的な雰囲気も匂わせる特徴的なサウンドには最初あんまりハマれなかったんですが、TWICEやITZYなどの聴きやすいK-POPを一周してリテラシーをつけた結果、やっぱり最高だなって今では感じます。彼女たちは2019年のコーチェラ(世界最大規模の音楽フェスティバル)に参加していたり、カーディBセレーナ・ゴメスなどとコラボしていて、すでに世界的な評価を確立していました。K-POPのアーティストはおしなべてリリースのペースがとても早いイメージがありますが、BLACKPINKに関しては反対。ただそこには他グループとの差別化と言った戦略的意図があると考えていて、持ち曲が少ないからこそ一曲一曲の価値も高まって、後追いのファンたちが曲をディグる敷居も低くなっているのかなと思います。」

「ようやく本題の曲に移りますが(笑)、BLACKPINKのメインボーカルであり、クリエイティブな面を率いているROSEというメンバーの初ソロ作で、2曲リリースしているんですが今回は『Gone』という曲を選びました。」
「基本エレキギターの弾き語りで、指弾きの細やかなアタックによってグルーヴを作り出している感じがします。ギターの音色は短めのディレイと、少しのコーラス(エフェクター)を混ぜたような、広がりのあるサウンドになっていて、曲の構成的にもカミラ・カベロの『Real Friends』を連想させるような、シンプルながら飽きさせない作りになっています。」
「歌詞の一部を引用すると『あなたが新しい誰かといるところを見るのが嫌、私はあなたと彼女に呪いをかける』と言っています。これが実話かどうかはさて置いて(笑)、今回僕が挙げた3人のアーティストと共通するような、超局地的で、パーソナルなトピックを歌うこと。内省的で、恨み節も込められたようなリリックを発信するというメソッドは、テイラー・スウィフトから連綿と受け継がれ、2021年にも広く受容されているということが伺えます。」
「『Gone』と同時に発表された『On The Ground』という曲では、『急に売れてしまってからは今まで地に足がついていないような感覚であった。でも自分にとって大事なスピリットは常に私の心の中にある。ここから崩れ落ちたりしない。』というような、ポップ・スターとしての矜持を歌っているようにも思えます。対照的な2曲を併せて聞くと、その抜け目ない戦略性のようなものが見えてくるかもしれません。」

藤「K-POPについてはあまり明るくないんですが、日本のアイドルのソロ曲を思い浮かべるとやはりアイドルらしい曲というのが多かった気がします。ただこの曲に関しては、いま海外でトレンドになっている女性シンガー、まさしくビリー・アイリッシュとかと比べても全く引けを取らないサウンドのクオリティであることが非常に印象的でした。アイドルグループのソロ曲というよりは、また別の軸で評価することが必要だなと感じましたね。」
深「確かに。力強い歌唱と緻密なサウンドプロダクションは、先ほど挙げたカミラ・カベロやチャーリーXCXといったアーティストにも通ずるものがあるように思います。」

4. K-POPの登場によって、日本のヤング音楽リスナーの聞き方は変化する?

藤「K-POPのセールスのあり方っていうのは結構独特だと思っていて、英語・韓国語・日本語など様々な言語がリリックに使われている印象があります。それはやっぱりグローバルなマーケットを見据えてということなんでしょうか。」
深「そうだと思います。BTSは『Dynamite』以降の3曲は全編英語詞を用いて、世界中が歌って踊れる曲をリリースした一方で、その間に発表された『Life Goes On』という曲は韓国語メインながらビルボードで1位を獲得した。楽曲のクオリティとファンダムの力を以てすれば、英語であろうが何であろうが世界に受け入れられるということを証明してしまったわけです。K-POPを通して、今まで見過ごされていたような文化が一大ジャンルとして定着していく、そういった視点から過程を見るのも面白いと思います。」

藤「第1回目の配信でも話したように、コロナ禍を機に色んな国の音楽を聴くことが増えた結果、自分はリリックよりサウンド重視なんだということに気づきました。ただ歌詞考察などのサイトがネットにも溢れているように、日本のリスナーはリリックを重視する傾向が根強くて、その結果ガラパゴス化が進んでしまった側面もあるのかなと思いました。」
深「洋楽的なフローに日本語を落とし込む、という試みが初めて成功した例は恐らくサザンオールスターズで、そこからMr.childrenスピッツが徐々に日本語の「上手い乗せ方」を開拓していった(そのまま読んでも意味の通る文に落とし込んだ)という流れは大きいと思います。そのメソッドがある種図式化したことで、洋楽的なフローとの乖離が進んでいった、ともとれるかなと。(もちろん岡村靖幸のような超独特の譜割りを開発した異分子も一定数います)
K-POPに話を繋げるならば、今の小学生達は普通に意味の分からない言葉の音楽を聞いているわけで、そういった点からも洋楽離れした日本人リスナーをうまく繋げてくれるハブになったりするのかな、と期待をしています。」

「最近新譜をリリースしたOfficial髭男dismなんかは、サウンド的にはかなり色々なジャンルーーBrasstracksからボン・イヴェールまでーー、アプローチを取り入れている一方で歌詞の一つ一つがすごく重いんですよね。内容が重いとかじゃなくて物理的に重い(笑)流れるように連なる英語のフローと対照的に、日本語の特性を洋楽的アプローチに則ったサウンドで生かそうという意図が見えて、個人的にはすごく面白いです。」

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