#02 共通点は「フィニアス」と「メンタルヘルス」?ビリー・アイリッシュとgirl in red、分かち難い両者の関係ー2021年海外音楽シーンを語ろう(2/4)(音声/文字両対応)

第1回〜第4回配信では、友人の藤田くんをお迎えし、2021年の海外音楽シーンについて語り合います。

本エピソードは、藤田レコメンドによる「ビリー・アイリッシュ / Happier Than Ever」、私レコメンドによる「girl in red / serotonin」の2曲をテーマにしながら、話題は90年代サウンドの復興、BLM、クイアの視点、メンタルヘルス...様々な方向へ飛び火していきます。

数多くのアーティスト名、作品名が言及されるので、ぜひ以下の文字情報と併せてお聞きください。

本エピソードで紹介した楽曲を以下プレイリストにまとめております。

また、藤田・深井それぞれが選曲した、2021年上半期ベスト50プレイリストも公開しておりますので、こちらもよければチェックを。


以下、音声の一部文字起こしです。

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1. ビリーアイリッシュ「Happier Than Ever」のサウンド

藤「前半は弾き語り調で静かに始まるんですけど、後半部分のサウンドが物凄いことになっています。スタジアムロックのようなサウンドスケープの壮大さが感じられて素晴らしいです。」
デイヴ・グロールからは『ビリーを聞くとロックはまだ死んでないと思える』というお墨付きをもらったりしているようで、まさにフー・ファイターズマイ・ケミカル・ロマンスリンキン・パークといったバンドのようなサウンド感もこの曲からは感じられます。」
「ビリーは影響を受けたと公言しているアーティストの幅がとにかく広い。ビートルズフランク・シナトラthe 1975タイラー・ザ・クリエイターなど…もはやジャンルも時代も関係ないんだ、という意識が強くあると思います。」
深「後々のテーマにも深く関わってくるけど、そういったある種雑食的な特性っていうのは、ストリーミング全盛時代ならではって感じがします。まあその裏にはフィニアスという兄であり超有能ブレーンによる貢献も相当大きそうだけど。」

2. 「Happier Than Ever」に込められた意義とは?

深「ビリーはなぜ『今までになく幸せ」と名付けられた曲を作り、それをアルバムのタイトルにまでしたのでしょうか?」
藤「1stから今回の2ndまで2年ほどの期間が空いていますが、ビリー(現19歳)にとっての2年間っておそらく僕らが計り知れないほど濃密だったと思うんです。と同時に、社会的に見ても本当に色々な事件や運動が起こった。それによって、自分や周りに対する見方も変化して、あるところではビリーのポジティブな面も引き出されたのかなと感じます。タイトルに関しては多少皮肉の部分もあるかと思いますが、わりかし素直な感情の吐露とも解釈できるかなと。」
深「2020年のブラック・ライブズ・マター運動が活発化した時にも、ビリーはSNS上で強く抗議表明をしていた。自分がZ世代を『引き受ける』とまでは言わないまでも、自身の影響力を理解しながら、積極的に発信していくという姿勢は本当に素晴らしいと思います。」

深「『my future』という曲には、『誰かと一緒にいると不幸せになる。でもその誰かとは私じゃないか?』と自問自答するパートがある。1stアルバムははビリー自身のメンタルヘルスの問題や、恋愛についての曲が多かったけど、そこから『自分の価値を見つめ直す』というフェーズに移っていったんじゃないか。」
「体型で人の価値を判断することに対するアンチテーゼとして『Not my Responsibility』という曲が収録されていたり、『Lost Cause』という曲のPVでは露出度の高い服を着て、シスターフッド的なビジュアルを打ち出している。ビリーだから麻痺しちゃってるけど、17歳→19歳でここまで思考やパフォーマンスが進化していくのは本当にすごい。」

3.girl in redとはどんなアーティスト?

深「今回僕が選んだ3曲は、”Z世代の女性アーティストによるパーソナル表現”というところが共通しています。girl in redは元々Clairoなどと同じように、新世代ベッドルームポップ(宅録)アーティストとして登場し、今回のアルバムではオルタナティブロックと形容される、同世代だとbeabadoobeeなどともシンクロするサウンドを展開していました。」
「日本のポップミュージックと凄くギャップを感じるのは、クィア(だと公言している)アーティストの表現です。冒頭で紹介したリル・ナズ・Xや、ボーイジーニアスの3人(Phoebe BridgersLucy DacusJulian Baker)、ホールジーセイント・ヴィンセントなど、第一線で活躍するアーティストが様々挙げられます。」
(プライド月間に公開されたクィア・アーティストの新譜をまとめたプレイリストが下部の参考資料内にあります)

「本人が語ったところによると『LGBTコミュニティは私が作るような音楽を必要としていた。だから彼らが私にクィア・アイコンであって欲しいと思うのも、素敵なこと。ただ私は、自分の音楽はみんなに向けたものだと思うだけなんだよね。ラベルをつけられたくない』と言っている。つまり、クィアにとってのアンセムになってほしいと思って曲を作るわけじゃない、あくまで自分のパーソナルな心情を歌うんだと主張しているんですね。」

4. 「Serotonin」とメンタルヘルスの関係

深「Serotoninを初めて聴いた時の印象はどうでしたか?」
藤「まず直感的に、ポップだなと思いました。ジャケットも奇抜で、歌ってる内容も鬱屈としているけど、曲調はとても開けているところに歪さがあって、面白いなと感じましたね。」
深「リリックの内容としては、セロトニン(精神を安定させる神経伝達物質)が不足していて、薬で抑えつけようとしてもどうにもならない、といったものです。メンタルヘルスの問題を取り上げているという点では、ビリーの1stアルバムとも繋がるかもしれません。」
「日本のメインカルチャー、ポップソングにおいてメンタルヘルスを扱ったような作品があまり見られないのはどうしてだと思いますか?」
藤「一つはドラッグ・カルチャーに対しての受容度合いの違いではないでしょうか。ビリーはその点あまりドラッグに対して肯定的ではないですが。」
深「『Xanny』という曲はタイトルずばりザナックス(抗不安薬)のことを歌っているけど、『私にドラッグなんて渡さないで』と拒否反応を示していました。」
藤「サイケデリックのような音楽は別として、いわゆるJ-POP的なサウンドに”心の闇”のような歌詞を載せるのは…。自分の鬱々とした内面をさらけ出すということはタブー視されてるのか、あまり見たことがないですね。」
深「海外ではジュース・ワールドとか(追記:なぜ大坂なおみ選手がメンタルヘルスの問題を公にした時にジュース・ワールドの曲をポストしたのか?考えていくと興味深いです)、リル・ピープXXXテンタシオンのようにエモラップと呼ばれていたジャンルをやっていた人たち。あとは彼らにとても大きい影響を与えたと思われるカニエ・ウエストの『808’s heartbreak』というアルバムや、フランク・オーシャン、遡ればエリオット・スミスまで、自身の心の傷や弱さを独自のサウンドに乗せて歌う、そういった系譜が築き上げられてきたからこそ、メンタルヘルスを主題にした音楽も生まれやすいのかなと思いました。」
「最近リリースされたロードの『Solar Power』という新曲も、『I hate the winter』という季節性うつ病を暗示するフレーズから始まる。3年ほどメディアに姿をほとんど表さなかったロードだからこそ、その歌詞は重みがあるし、開放的な後半パートとPVには感動してしまいました。」

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以下、参考資料です。



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