【ショートショート】『告白水平線』
天気雨は嫌いじゃない。
「雨じゃない?」
「うわ。来やがった」
五つ上の少しぶっきらぼうな従兄と今日も一緒だ。
道端にカブリオレを止め二人でルーフを慌てて閉じる。
「早く、早く」
「それより早く窓上げろ」
びしょびしょになった。
いいけどね。
「お前さぁ」
「はいはい、とろいのはいつものこと...…」
いつだって後にくっついて離れなかった。
今日は少し意地悪してみたくなった。
「来年はこんなふうに一緒に海、来られないかも」
「どうして?」
ちらちらこっちを見てる。それにエアコンの風量を上げてるし。
「どうしてかなあ...…」
アクセルもブレーキも初心者マークが必要な程ぎこちないのはどうして?
ここで生まれて家族同然に育った。
山道を駆け上がり誰もいないスキー場の広い駐車場にぽつりと止める。ここだっていつも遊んだ場所だから。
天気雨は気まぐれで、眼下に広がる街並みの先に水平線が煙っている。
「ずっとわたしと、でいいの?」
まつ毛に雨が当たった。
また、狐がどこかに嫁いでいったらしい。
天気雨は嫌いじゃない。
(430文字)
* * *
以上、こちらからお題をいただきました。
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