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世界の中心で何を叫ぶ

 中学生の頃に通っていた塾で、特に仲のいい友達がふたりいた。仮に、向井と森とする。
 彼らふたりは小学校からの同級生で、塾に通い始める以前から仲が良かったという。そのことにときどき、非常に嫉妬した。ぼくだけ違う小学校で、塾で出会う以前の彼らを知らなかったからだ。
 当時のぼくはいかなる時でも会話の中心に自分がいないと気が済まなかった。読んでいなかった『ドラゴンボール』や『スラムダンク』の話になると「やめろやめろやめろ!ドラえもんの話をしろ!」と冗談半分の体でその実本気でしかない不平不満を言ったものだ。

 向井と森はよく木村の話をした。木村も彼らの昔からの友達だった。ぼくの知らない木村なにがし。どんな内容であるかはいまいち覚えていない。ただ、3人でよく遊んでいたという旨の面白おかしい回顧であったことはわかる。自分が不在の思い出話に花が咲いていても、その花を美しいと思うほどの器量は中学生に備わっていない。「やめろやめろやめろ!俺の話をしろ!」とは流石に言えず、そこにいない木村の話を「ふーん」とただ聞いていた。会ったこともない木村像がぼくの中で膨らみ、そのたびに嫉妬も増えた。わけのわからない独占欲が働いていた。

 木村と会う機会があった。
 ぼくと、向井と、森と、木村の家で人気のサッカーゲーム『ウイニングイレブン』をやろうという話になったのだ。「いいよ木村なんて。俺らだけで遊べばいいだろ」という気持ちもあったといえばあった気がする。でも、なんとなく、今の彼らと仲がいいのは俺なのだと木村にアピールしておこう、ここはかましに行っておくべきと判断した。ぼくは「行こう行こう」と言った。
 木村の家を訪ねた。木村は、こりゃモテるに違いないと思わせるイケメンだった。
 非常に複雑な気持ちだった。木村はライバルだった。しかし木村と仲良くなりたいとも思った。ウイイレは可もなく不可もなく、みんなどんぐりの背比べだった。
 どういうタイミングだったか、向井と森がその場を離れ、木村の部屋で木村とふたりきりになった。ウイイレを介さずには特に話すことがなかった。しかし、PS2の電源はすでに切れていた。
 木村の部屋には無印の人をダメにするソファがあった。ぼくはそこにもたれ、ひたすらに向井と森を待っていた。木村の母ちゃんの作った、フレンチトーストを食べながら。

 今でもビーズクッションに触ると、木村のことを思い出す。
 何度か話しただけのどこかの誰かが、何かの折に、ぼくを思い出すことはあるだろうか。
 

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