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何もかもにムカついていたあの頃

 10段階で8、9、10レベルの怒りが最近あっただろうか。全然思いつかない。
 逆に、若い頃は8、9、10だけでやりくりしていた、なんて話もある。

 怒りはかなりのエネルギー源だ。金鉱だ。油田だ。
 社会への怒りがなければパンクロックは生まれなかったし、不条理な日本への怒りがなければ厚切りジェイソンは生まれなかった。後者はともかく、前者が生まれなかったら、かなりの損失だ。

 歳はとりたくないわねえ、などと言ったところで20歳の感性のままずっと生きていくなんて不可能。いや、たまにそういうタイプの人もいなくもないが、感性が若いと言うより大人げないだけだったりする。
 
 大体の場合は望むと望まざるとにかかわらず、相応に歳を重ねていく。

 怒りは、尖りとも言い換えられる。
 ニュアンスは若干違うかもしれないが、尖りはそもそも「没個性な自分、そして没個性であることに疑問を抱かない集団への怒り」である。

 俺は、お前らとは違うんだ。

 そういう感覚が、ふと訪れる。時には厨二病とも言われる。おたふく風邪のようなもので、通過儀礼だ。
 それは必要な通過儀礼である。「俺にはなんの個性もない。その他大勢、モブ中のモブ」という思考よりどう考えても前向きだからだ。

 その尖りが、年齢とともに削れてくる。

「この包丁、びっくりするくらいよく切れますよ。ほら、肉の繊維も全然引っかからない!」
 へえ。いいなあ。欲しいなあ。買っちゃおうかなあ。
 注文したら翌日に届いた。ママゾンプレミアム会員だもんなあ。
 毎日この包丁を使うぞ。料理も捗るなあ。いろんなものが作れるなあ。
 料理最高。自炊最高。自分の食べるものは自分で。
 トントントン。トントントン。トントンッン。
 あれ。リズムが悪い。ちゃんと手入れしながら使ってたつもりなのに。10年も使うと流石に切れ味も鈍くなるのかなあ。
 でも新しいのを買うのもなあ。自分の名前も刻んじゃったし。なんだか愛着もあるし。
 なんとなく、ずっとこいつと付き合っていくような気がするんだよなあ。
 トントントン。トンットン。ンッン。
 新しいリズムも、悪くないのかなあ。

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