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保護者と教職員の信頼関係:教員の働き方改革とPTA

 PとTでAするPTAとは「保護者と教職員・保護者同士の信頼関係」を作るPTAのことと考え、PTAを以下のように再定義しました。(PTAとは何か?=PTAの再定義)(PとTでAするPTA

PTAとは
子どもたちのよりよい教育の実現を目的に、保護者と教職員・保護者同士が、主体的に対等に課題を共有する中で、信頼関係を構築し、その課題の解決に向けて取り組む団体

 PTAは教育の課題の解決に向けて取り組む団体ですが、その過程で「信頼関係」が作られることが重要だと考えます。そもそも「保護者と教職員の信頼関係」こそが、現在の「子どもたちのよりよい教育の実現」のための「課題」と考えます。
 「保護者と教職員の信頼関係」の現状はどうでしょうか。それぞれの学校や保護者、教職員でそれぞれであることはもちろんですが、一般的に「信頼」に溢れているという状況ではないように見えます。

「保護者と教職員の信頼関係」の現状:教職員のストレスや悩み

 近年、「教員の過重労働」が取り上げられ、「教員の働き方改革」として、主に教員の長時間労働を解消するための様々な取り組みが進められています。

『平成30年版過労死等防止対策白書』によれば、教職員のストレスや悩みの内容で「保護者・PTA等への対応」(38.3%)が三番目に多くなっています。

教職員調査結果によると、業務に関連するストレスや悩みの内容は、「長時間勤務の多さ」(43.4%)が最も多く、次いで「職場の人間関係」(40.2%)、「保護者・PTA 等への対応」(38.3%)であった。

厚生労働省 『平成30年版過労死等防止対策白書』「平成29年度 我が国における過労死等の概要及び政府が過労死等の防止のために講じた施策の状況」p.114

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厚生労働省 『平成30年版過労死等防止対策白書』「平成29年度 我が国における過労死等の概要及び政府が過労死等の防止のために講じた施策の状況」p.114

 「長時間勤務の多さ」の解消が最優先課題として取り組まれる一方、「保護者・PTA等への対応」の解消の取り組みはあまり聞きません。
 平成31年1月の「教員の働き方改革」に関する中央教育審議会の「答申」には、以下のように、心身の健康維持の観点からは「長時間勤務」と「労働安全衛生」が挙げられています。

心身の健康維持の観点からは業務量の削減も喫緊の課題であるが,教師の精神疾患の原因は,児童生徒への対応や保護者への対応,職場の人間関係等様々なものが考えられる。教師が疲労や心理的負担を過度に蓄積して心身の健康を損なうことのないようにするため,長時間勤務を是正することにとどまらず,労働安全衛生の観点から必要な環境を整備することが必要である。

中央教育審議会『新しい時代の教育に向けた持続可能な学校指導・運営体制の構築のための学校における働き方改革に関する総合的な方策について(答申)』 2019 p.22


 具体的な方策としては、指導困難な児童生徒や保護者への対応に専門スタッフと連携することを挙げています。

教師は指導困難な児童生徒や保護者への対応に心理的な負担を感じていることも多いことから,文部科学省や学校の設置者は,教師が指導を行うに当たって,スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカー等の専門スタッフと連携し,密な相談を行うことができるように必要な体制を整備すべきである。

同答申 p.25

 さらに、令和2年12月の文科省「令和元年度公立学校教職員の人事行政状況調査について」では、精神疾患による病気休職者数の人数が過去最多となったことを受けて、弁護士による法律相談体制の整備を進めています。

過剰要求等に対して適切に対応するための弁護士等による法律相談体制の整備の促進

文部科学省『令和元年度公立学校教職員の人事行政状況調査について』 2020

 保護者などへの対応による教職員のストレスや悩みへの対策として、専門スタッフによるサポートとメンタルヘルス対策を充実させることを進めているようです。

「教職員の働き方改革」にPTAが求められていること

 中教審の答申では「教職員の働き方改革」に対するPTAへの期待も書かれています。

学校における働き方改革を進めるに当たっては,「社会に開かれた教育課程」の理念も踏まえ,家庭や地域の人々とともに子供を育てていくという視点に立ち,地域と学校の連携・協働の下,幅広い地域住民等とともに,地域全体で子供たちの成長を支え,地域を創生する活動を進めながら,学校内外を通じた子供の生活の充実や活性化を図ることが大切である。特に,教師と保護者で構成されている PTA に期待される役割は大きく,その活動の充実が求められる。

中央教育審議会『新しい時代の教育に向けた持続可能な学校指導・運営体制の構築のための学校における働き方改革に関する総合的な方策について(答申)』 2019 p.9
「学校の業務だが,必ずしも教師が担う必要のない業務」や「教師の業務だが,負担軽減が可能な業務」と整理した業務であっても,過去の裁判例等を見ても法的にその全ての責任を学校・教師が負うというわけではなく,保護者や地域から学校への過剰要求は認められないことについて,関係省庁をはじめとした国の各機関に対して,また PTA 等の団体と連携して保護者に対して,あるいは政府広報等を活用して社会全体に対して明確にメッセージを出すこと

同答申 pp.32-3
 子供たちの未来のため質の高い教育を実現するには,保護者・PTA や地域の協力が欠かせない。この答申の最後に,学校における働き方改革についての保護者・PTA や地域 をはじめとする社会全体の御理解と,今後の推進のための御協力を心からお願いすることとしたい。

同答申 p.57

 「PTA に期待される役割は大きく、その活動の充実が求められる」とありますが、具体的には、主に保護者や地域に「教職員の働き方改革」への理解と協力を示し、それを広げるメッセージを出す役割が期待されているようです。
 このメッセージとは、「地域や保護者をはじめとした社会に対して何が教師の教職としての職務であって,何が職務ではないかの明確なメッセージ(同答申 p.14)」のことで、32ページで述べられている「保護者や地域から学校への過剰要求は認められないことについて」の発信が期待されていると考えられます。

「教職員の働き方改革」を進めるためにPTAがするべきこと

 中教審答申では、文科省の役割として、地域や保護者の理解と協力のための明確で力強いメッセージを発出し、認識を共有することが求められています。「PTAの再定義」に基づけば、この「認識の共有」こそがPTAの役割と考えられます。

文部科学省が取り組むべき方策
学校における働き方改革に係る取組を進める上では,地域や保護者の協力が不可欠であることから,社会全体の理解を得られるように,その趣旨等をわかりやすくまとめた明確で力強いメッセージを発出し,認識を共有。

同答申 p.29

 「教職員のストレスや悩み」で三番目に多いことが「保護者・PTA等への対応」で、この軽減のために、専門スタッフによるサポートとメンタルヘルス対策を充実させることが進められています。しかし、最も軽減に効果があるのは、PTAのあり方を変えることであり、保護者と教職員の関係を変えることだと考えます。それは、PTAのあり方を「保護者と教職員の信頼関係づくり」に変えることです。
 保護者と教職員で「認識の共有」を進め、互いの「期待」を伝え合う中で「信頼関係」を構築していくことで、「保護者・PTA等への対応」という「教職員のストレスや悩み」の軽減に繋がると考えます。

「保護者と教職員の信頼関係」

 保護者と教職員の「信頼関係」が弱いと様々なマイナスがあり、その「信頼関係」は重要です。

信頼が縮減することによって、保護者及び教師は、多様な局面での心理的・時間的コストの増幅と秩序機能の低下を経験する。例えば、学校生活・学習指導面での不安という心理的コストの増幅、相互不信によるトラブルの多発、非協力的な反応の増加による教育活動の停滞、学校組織活動の質や生産性の低下などである。信頼崩壊がもたらす負の効果をイメージすると、公立学校改革における信頼構築(=ソーシャル ・キャピタル の醸成)への焦点化は、極めて妥当な選択であるといえよう。

露口健司 「第6章 保護者による学校信頼」『ソーシャル・キャピタルと教育——つながりづくりにおける学校の役割』露口健司編著 2016a ミネルヴァ書房 p.104

 「信頼」とは「他者・集団に対する期待感」のことで、互いに「期待」しあい、互いに「期待」に応えあうような「期待の交換」のなかで「関係的信頼」が作られます。(PとTのAで作る信頼関係とは?

関係的信頼(Relational Trust)
学校(教員)と保護者が共通の目標に向けて、互いに期待感をもつとともに、協力的態度で接する信頼関係

露口健司 「第8章 信頼を構築する学級・学校の経営戦略」『「つながり」を深め子どもの成長を促す教育学——信頼関係を築きやすい学校組織・施策とは』露口健司編著 2016 ミネルヴァ書房 p.157

 「教職員の働き方改革」という「教育の課題」を解決するために、保護者と教職員が、主体的に対等な関係で、その課題を共有する中で信頼関係を構築していく役割がPTAにはあり、それが「保護者・PTA等への対応」という「教職員のストレスや悩み」の軽減にもつながると考えます。

PTAとは
子どもたちのよりよい教育の実現を目的に、保護者と教職員・保護者同士が、主体的に対等に課題を共有する中で、信頼関係を構築し、その課題の解決に向けて取り組む団体

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