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授業の様子⑭:グローバルスタディーズ学科

今回は、全学部・学科すべての学生が履修できる共通教育科目のひとつ「京都の伝統産業演習/実習」をご紹介したいと思います。 
この授業は、京都で伝統産業に携わる工房・企業など実際の現場に出向き、実習生(見習い・弟子)としてプロの仕事を学ぶというもので、40年以上にわたって続く本学の特色ある科目のひとつです。
 
今回は、錺(かざり)金具の製作・修復技術によって創業以来140年にわたって文化財の保存に貢献されてきた(株)森本錺金具製作所さんでの実習の様子をお届けします。

錺金具は、世界最古の木造建築として名高い法隆寺金堂以来、様々な社寺・住宅建築に用いられてきた日本文化のひとつとして知られます。現在は文化財保護法において、文化財保存のために欠くことのできない材料製作、修理、修復といった専門的技術・技能である「選定保存技術」に選定されています。

1877年の創業以来受け継がれている作業台(2022年9月撮影)。

実習前の事前授業では、製作所4代目社長からこうした錺金具の歴史や技術、材料の性質、実際の作業工程などについてレクチャーを受けました。時には釘隠しや神楽鈴など実際の作品に触らせてもらったり作業現場を見学したりしながら、実習に向けた心構えを学びます。

工房に併設された資料館の内部(2022年9月撮影)。

また、実際の実習では作品製作に挑戦しますが、どのような作品を作りたいのか、明確なイメージを膨らませてデザインを考えるのは、もちろん実習生自身のお仕事。材料の特性など職人さんにアドバイスをいただきながらデザイン案を作画します。

ここまでの事前授業を終えると、いよいよ夏の2週間の実習本番です。
職人さんに錺金具製作技法を基礎から丁寧に教えていただき、徐々に自身がデザインした原画をもとに作品の製作に取り組んでいきます。

デザイン画と制作途中の作品(2022年9月撮影)。
実習中の様子。
作品製作に集中している背中からは、生き生きとした緊張感が伝わってきます。
(2022年9月撮影)

美しい装飾部の表現には相当の集中力と忍耐力を伴う作業が必要なものと想像しますが、2週間という実習の限られた時間の中、今年の実習生はなんと3作品を完成させました。

図案(上)と実際に完成した作品(下)。
(2022年9月、11月撮影)

完成した作品と実習中の様子を記録したノートは「京都の伝統産業演習/実習」報告展で展示されます。全20社の実習先それぞれで学んだ学生たちの作品が一堂に会した様子は圧巻で、会場は本学学生や、教職員、そして実習先の職人さんなど多くの来場者で賑わっていました。
【「京都の伝統産業演習/実習」報告展についてはこちら↓】
(※展示会は終了しています。)
https://www.kyoto-seika.ac.jp/event/2022/1104_1.html?fbclid=IwAR1OXRux1jUarIZmVGmLynyG_DrR3Icrh5cx0PYDsL925d182ENAsp5KU3U

完成した作品と実習記録ノートの展示。
展示の準備や設営、会期中の運営もすべて学生主体で行います。
(2022年11月撮影)

各実習先の記録ノートを読んでいて、この実習では、手仕事の精緻な技術や知恵を実践的に学んだ豊かな経験はもちろん、究極の美を追求しつづける現場で生まれた閃きや独創的な発想など、自身のなかに新たな「発見」をした学生も多かったように感じました。また、伝統工芸や伝統産業、伝統文化に改めて興味関心をもったという学生もいました。

そもそも「伝統」とはなんでしょうか。
日ごろ私たちは、「伝統」とは「昔から受け継がれてきたもの」という漠然とした理解にとどまっているように思いますが、「伝統」は自然発生的に生まれたものではなく、たまたま現在まで残っていたというものでもなく、そこには必ず「人」が関係してきたことを忘れてはなりません。私たちが今、美しいと思って見る多彩な「伝統」には、おそらく「人」にかかわる多様で複雑な背景が広がっているはずです。
「京都の伝統産業演習/実習」の授業では、匠の技法を学ぶとともに、それが今日に受け継がれてきた場を体感することを通して、「伝統」について改めて考えるきっかけを得て欲しいと考えています。

2022年12月5日
山田 小夜歌(グローバルスタディーズ学科教員)

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