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産業保健職は社員のヘルスリテラシーとどう向き合うか

どうも!がーすーです!
またnoteから遠ざかっていましたが、自分の勉強のためにもぼちぼち再開していこうと思っています。

今回はヘルスリテラシーについて考えてみました。

ヘルスリテラシーとは

ヘルスリテラシーは以下のように定義されています。

健康情報を入手し、理解し、評価し、活用するための知識、意欲、能力であり、それによって、日常生活におけるヘルスケア、疾病予防、ヘルスプロモーションについて判断したり意思決定をしたりして、生涯を通じて生活の質を維持・向上させることができるもの

健康を決める力:「ヘルスリテラシーとは」より引用

つまり、症状や病気自体や病気のリスクファクター、環境変化、生活習慣改善などに関連した健康情報を入手し、内容を吟味した上で、意思決定を行う能力がヘルスリテラシーだということができます。

日本人のヘルスリテラシーは低い

日本人のヘルスリテラシーは諸外国と比較して低いと言われています。

サイト「健康を決める力」より引用

特に、情報の評価と意思決定が難しいと考えている人が多いようです。その背景として

  • 日本には信頼できるウェブサイトなどがないため情報の評価が難しい

  • 日本人は意思決定より正解を求めて情報を得ようとする傾向にある

といったことが挙げられており、自分や普段の仕事を振り返っても納得できました。

産業保健職としてどう動くべきか

さて、この状況に対して健康診断事後措置や保健指導などで面談を行う機会のある(その後に意思決定を行い何らかの行動を起こしてもらいたいと考えている)産業保健職はどう対応すればよいのでしょうか。

情報の評価と意思決定が苦手な日本人(社員さん)に対して、正しい情報を与えれば適切な行動につながると考えるのは難しそうですよね。

となると、対象者のヘルスリテラシーが低いことを前提にコミュニケーションを取り意思決定の支援を行うことを意識する必要があると思います。

対象者の意思決定スキルを高めるためのアプローチをするか意思決定プロセスに関わるかしないと産業保健職が面談を行う意味があまりないかもしれない…

例えば健康診断後の保健指導で、

「この結果を放置すると大変なのでこれをしなさい(やめなさい)」といったようなコミュニケーションを取ることがあります。
ここで、対象者のヘルスリテラシーが低い(意思決定のスキルがない)と、面談からの情報や自分が知っている(信じている)情報を正しく評価して、どの行動を起こすか選択できず、結果を放置し続ける可能性が高くなります。

それに対して「正しいことをちゃんと伝えたから後は知らん!」となってしまうのは専門職として問題かもしれません。面談時間がお互いにとって無駄になってしまう気もします…そんな事態は避けたいですよね。

意思決定スキルを高めるために

ではどうすれば対象者の意思決定スキルは高まるのでしょうか。
ここでは、与えられた情報から「おちたか」で考える方法をお伝えします。

以下が、自分らしく意思決定を行うためのポイントになります

  • 「お」:オプション→選べる選択肢が全てそろっているか確認する

  • 「ち」:長所→各選択肢の長所を確認する

  • 「た」:短所→各選択肢の短所を確認する

  • 「か」:価値観→長所と短所を比較して何が重要かはっきりさせる

例として、健康診断で高血圧が指摘された社員への保健指導で考えると
「高血圧に対して起こすアクション」を決定する時に以下の流れで対象者と一緒に検討するという感じです。

  1. オプションをたくさん上げる

  2. それぞれのメリット・デメリット考える

  3. メリットの大切さとデメリットの問題の大きさを考える

  4. それらを見比べてどうするか意思決定する

高血圧に対してのアクションを「おちたか」で考えた例

上の図を埋める形で話を進めた後に「どの選択肢を選びますか?」と本人に確認すれば、対象者にとって自分の価値観に沿った決定が行われ、そしてそれは健康面で考えても望ましい行動になるのではないでしょうか。

ちなみにこの図はこちら(おちたか意思決定ガイド)を参考に作成しました。サイトからDLできるので活用してみてください。

きちんとオプションを挙げられていない時は

先ほど、健康診断後の保健指導時に「あれをしなさい!これはやめなさい!」と言うこともあると書きましたが、実際には「(この結果に対して)どうします?」と意思決定を意識していなくても相手に選択肢を挙げてもらうこともあります。

そんな時、産業保健職は挙げられた選択肢に疑問を持ったりします。

「ネットで血圧に良いと言われている○○を食べる」
「薬は医者が金儲け目的に出しているので私は飲まない」
などなど…

この選択肢に対して「おちたか」を考えてもらってもあまり良い決定には繋がらない気がしますよね。

そんな時は「おちたか」の前に「かちもない」を一緒に確認するのが良さそうです。

これは情報の信頼性を評価する方法で、以下のそれぞれを意識してもらうことで適切な評価が下せると思います。

  • 「か」:書いたのは誰か
    →個人ブログなどではなく専門家の発信、公的機関のサイトを参照する。

  • 「ち」:違う情報と比べたか?
    →長所のみの情報は怪しい、長所と短所を偏りなく収集する。

  • 「も」:元ネタ(根拠)は何か?
    →引用元が追える情報、科学的根拠に基づいているかを確認する。

  • 「な」:何のための情報か?
    →広告・商業目的は怪しい。断定表現で示されているものも怪しい。

  • 「い」:いつの情報か?
    →発信時から更新されていることもあるので注意。

適切なプロセスで意思決定がなされたなら

これらを一緒に考えることができればヘルスリテラシー向上に繋がり、
その人にとって自分らしい意思決定が出来るのではないでしょうか。

一方で、下された意思決定が産業保健職として「ん?」と感じる内容である可能性もあります。

先程の例をまた持ち出すと、「高血圧に対してどうするか?」について「おちたか」に沿って考え「重篤な疾病発症のリスクが高くても、今の生活が制限されないが何よりも重要だ」との結論に至り、何もアクションを起こさないということがあり得ます。

ここで産業保健職として(健康面から)正しいと考えられる選択に変更させようと働きかけるのは個人的には越権行為のように思います。

個人の価値観は尊重すべきものであり、ちゃんと情報を得た上で(「かちもない」で評価などして)意思決定を行っている場合はそれで良いのではないでしょうか。

しかし、安全配慮義務や会社の意向とバッティングする場合は産業保健職としての対応、具体的には「必要な対応を行わない場合に就業制限を行う」などが必要になります。制限を行う際は根拠を明確にして会社の意見も確認しながら対応しましょう。

最後に

今回はヘルスリテラシーの定義とそしてヘルスリテラシーの低さを意識した上での産業保健職としてのアプローチについてまとめました。

日本人のヘルスリテラシーは低いという事実を認識して社員と関わることは、適切な意思決定をサポートできるだけでなく、個人の価値観を尊重することにもなると思います。

今回の内容が日々の面談対応などに役立てば幸いです。

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