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白杖を持つことへの抵抗感を少しでも減らして、安全に働いてもらいたい

どうも、がーすーです。
今回は産業医面談をきっかけに視覚障害を持つ方について少し考えました。

産業医面談で聞いたこと

数日前に、視力が徐々に低下してしまう疾患を抱えている社員さんと面談を行いました。その方は視力低下が進んでおりましたが、白杖を使用するメリット(人や物にぶつからないなど)よりデメリット(「何で見えているのに白杖を持っているんだ!」と周囲に言われるなど)を気にして、使用する気にならないと話していました。

幸いこの方は、テレワークをする、慣れた道をゆっくりと移動する、暗くなる前に帰宅するなど自身で工夫して業務上の安全を確保していますが、デメリットを感じなければ気軽に使用できてより安全に生活できるのではないかと感じました。

また、視覚障害者、特に病気によって途中で視覚障害を持つようになった方は同じようなことを考えているのだろうか?と気になり調べました。

中途視覚障害者が白杖を使用することに対する障壁

少し前のデータになりますが、2007年時点で日本には推定 164 万人の視覚障害者が存在し、内訳として約 18.8 万人が失明者(≒目が見えない:よく見える方の眼の矯正視力≦0.1)、 145 万人程度がロービジョン者(≒全く見えないわけではない:0.1<よく見える方の眼の矯正視力<0.5)と言われています。その中でも糖尿病性網膜症、緑内障、 網膜色素変性症などの病気によって中高年期から視覚障害を抱える方(中途視覚障害者)が増えている状況にあり、その方々の中には白杖を持たないという選択をしている人が多くいるようです。

ではなぜ、白杖を持たないのか。そこには白杖を使用することへの心理的困難さがあるといわれています。その困難さに関して当事者へのアンケートやインタビューを行った研究では

視覚障害者の多くが白杖を使用することの心理的な困難さに影響を与えるような体験をしていることが明らかになった。心理的な困難さの要因として
「障害者扱いへの抵抗」のほか、「誤解への不安」「障害を知られる不安」という、障害者と社会との関係性が関わる要因が確認された。

藤崎ら 視覚障害者が白杖を使用することの心理的困難さに関する研究 より

と、視覚障害者が白杖を使用するかどうかの判断に周囲が影響を及ぼしているという結果が示されています。

引用中にある「障害者扱いへの抵抗」とは障害者としてみられることへの抵抗やそれを不安視することで具体的には以下のようなものが挙げられます。

  • 普通の人に見られたい

  • 白杖を見ると無理やり優先席へ連れて行く人が居た

  • 白杖を持つと弱者として扱われてしまうと思った

  • 白杖を持つと過剰な援助をされ困った

「誤解への不安」とは

  • 白杖を持つと、今の仕事を外されるかもしれないと思った

  • 職場の上司には白杖を見られたくないと思った

  • 白杖を持つと、会社を辞めさせられると思った

  • 白杖を持つと、一人前の人として扱われていないと感じた

など、視機能や能力の低下を大きく捉えられ、仕事などに影響が出るのではないかという不安のことです。

「障害を知られる不安」とは「自分の見えにくさを知られてしまうことが辛かった」や「知人に白杖を持った姿を見られるのが嫌だった」など、自分の眼の状況を知られてしまうことへの不安です。

中途視覚障害者では「誤解への不安」が強い?

同じ研究の中で産業医として気になったことは以下の記載でした。

「誤解への不安」という要因が確認できたが、白杖を持つことで障害の程度を誤解され、職業の面にこのことが影響することを不安視する傾向が認められた。特に比較的ゆっくりと疾患が進行した弱視者に、より大きくみられ、弱視者特有の問題である可能性があると考えられた。

藤崎ら 視覚障害者が白杖を使用することの心理的困難さに関する研究 考察より

これは「困っているが仕事に悪影響が出るかも知れないので白杖を使わない」選択をする労働者がいる可能性を示していると考えられます。これらの不安が本人のなかで解消されないと、

  • 通勤時やオフィス内、出先などで危険な目にあう(怪我をする)

  • 必要な配慮が行われずに仕事がうまく出来ず評価が下がる

など職場・本人どちらにとっても良いことがありません。特にアクシデントにあう可能性が高い場合は産業医として対応する必要がある(現在の体調で安全や健康面に懸念があればその業務をやめさせるなどの意見を行う)ので、より本人にとって望ましくない方向に進むかもしれません。

同じ研究の中では対処法として

  1. 白杖の有益さを伝えること

  2. 職業的な展望を示すこと

が挙げられています。

2.に関しては産業医(産業保健職)がその役割を担えるかなと思いました。つまり、視覚障害があっても(白杖を使っていても)

  • 担当業務は変わらず、困り事には会社が可能な範囲で配慮してくれる

  • 今の眼の状況にあった業務に配置転換してくれる

などを伝えることで「白杖を使用しても業務には影響はない、もしくはやりやすい業務に変えてくれる」と白杖を使用しようと考える(自身の障害を受け入れる)ことに繋げられるのではないでしょうか。

社会全体で取り組むべき「誤解への不安」

もう一つ興味深く、面談でのやり取りにつながるような記載がありました。

「誤解への不安」については、これには視覚障害者は何もできないと思われる不安と、弱視を理解されないという不安との2種類がある。この両方については社会の側が認識を深めていくことが欠かせないと考えられる。弱視者から寄せられた「白杖の使用後に本を読み始めたら、『何だ見えるんじゃないか』という声が聞こえてきた。」といった出来事は、社会において「弱視」が知られていないことから生じていると思われる。

藤崎ら 視覚障害者が白杖を使用することの心理的困難さに関する研究 考察より

面談と同じようなエピソードを実際に経験している方がいるんだと確認ができました。この様な話が視覚障害を持つ方の中で広まっていくことで不安が生じるのはとても悲しいことです。

少しでも視覚障害や白杖について知ってもらい、視覚障害者が「自分のことを理解してもらえていない」と不安に感じて安全性や利便性を自ら手放してしまうような事態にならないようにしたいです。

その様な意味で当事者の方々の情報発信は一度見ておくのもいいかも知れませんね。

視覚障害があっても安全にイキイキと働いてもらいたい

産業医としては、視覚障害を持つ労働者が「誤解への不安」を払拭し、白杖の使用など必要なアクションをとることでより安全に働けるように取り組んでいきたいです。そして安全に働けることは仕事への意欲、生産性やエンゲージメントの向上に繋がっていくと思います。

最後までご覧いただきありがとうございました。

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