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書評:世界標準の経営理論

この本は800ページくらいある超大作でヘビーですが、非常に多くの論文に触れられていて、学術的なトレンドがわかるのでインプットとしてはとても良質だと思いました!

  • 経済学から派生した経営学

  • 心理学から派生した経営学

  • 社会学から派生した経営学

と大きく3部構成になっているのですが、心理学派生はリーダーシップ理論やモチベーション理論など、HRに関わる領域の論文も多く参照されています。特にモチベーション理論は複雑で、ブログに書ききれないくらい肉厚です!
経営理論を前提としての構成なので、経営戦略に基づく人事戦略というのを考える上で、この本はかなり良い気がします。

このブログを通じて、いくつか記憶に残った理論をピックアップして書いていこうかと思いますので、興味を持った方はぜひ図書館などで借りてみてはいかがでしょうか。買うと3,000円くらいです。

「世界標準の経営理論」の中で、おもしろいと思った理論のご紹介①

組織学習論:「経験の関数」として生じる「組織の知の変化」のこと

経験によって、組織内のナレッジが変化することが「組織学習」ということで、定義は比較的わかりやすいのですが、「経験」するためのプロセスは?経験を知に変えるプロセスは?などと、かなり細かく説明してあるので、
ここから端的にまとめていくことが難しい・・・。(自分の中でも消化できていないのかも)

ということで、今回は知を深めるTIPSの1つとして紹介されていたIDEO(筆者絶賛のデザイン会社)のブレストについてご紹介です。

<IDEOのブレスト時のルール>

  • トピックに忠実であれ

  • ぶっ飛んでよし

  • すぐに判断・否定するなかれ

  • 会話は一人ずつ

  • 質より量を

  • 描け、視覚的であれ

  • 他者のアイディアに乗っかれ

アイディアを出す上で、「ブレスト」という手法は実は非効率であると実証されているようなのですが、IDEOのようなルールが深く浸透していると、有効になるとのこと。勉強になりました。

「世界標準の経営理論」の中で、おもしろいと思った理論のご紹介②

エージェンシー理論:取引が成立した後に組織で生じる問題を「依頼人(プリンシパル)」と「代理人(エージェント)」でとらえる経済理論

経済活動を、依頼人が代理人に特定行動を要求するような構造になっていると捉えます。
例えば、株主(依頼人)が経営者(代理人)に対して「株価を上げる戦略を実行して」と要求する、
顧客(依頼人)が自社(代理人)に対して「広告で収益をXX円上げて」と要求する、といった構造です。

エージェンシー理論によると、①目的の不一致と②情報の非対称性が高まると、代理人は依頼人にとって不利益な行動を取りやすくなるとされます。

①目的の不一致

株主:株価を上げたい
経営者:今期は投資して、中長期的に成長したい

②情報の非対称性

株主はIR情報などの情報しか得られず、すべての経営者の持つ情報や行動をすべて把握できない

上記のような場合には、株主(依頼人)の要望どおりの行動を経営者(代理人)は取らない可能性が高いということです。
逆に同族会社の場合、株主=経営者のため、目的も一致し、情報も同じなので、期待通りの行動が起きやすいです。

これも本書からの受け売りですが、、、上記ロジックから、同族会社は、他の会社に比べて利益率が高いというデータがあるようです。
日本の上場企業の約3割は同族会社ということなのですが、個人的には同族会社は内輪で甘いのでガバナンスが効かなかったり、惰性で経営されてたり、ということが多いのかなと、どちらかというとネガティブな印象だったので意外でした。

これは人事と事業サイドだったり、上司部下だったり、同じ理論が成り立つと思うので、目的の認識を揃えたり、情報も揃うような努力をしたり、、、ということが大切だと学びました。

「世界標準の経営理論」の中で、おもしろいと思った理論のご紹介③

リーダーシップ論(リーダーシップとは):他者に心理的な変化をもたらすこと ※バーナード・バズ(1990年)の定義を意訳しました

リーダーシップという言葉の抽象度が高いですが、人事は触れる機会が多いと思います。
採用基準としてリーダーシップがあるか?、研修テーマでリーダーシップ強化、など・・・。
ただそれがなんであるか、うまく説明する自信がありませんでしたが、この答えに少しスッキリした気がします。

またリーダーシップの発揮に個性が与える影響の研究結果が時代とともに移り変わってきているようで、その変遷も興味深かったです。
50年で結構変わりましたが、唯一変わっていないのが「自信」という点も大切だなと思いました。

リーダーシップの発揮に影響がある「個性」の変遷

Stogdill(1948年)
従属性/社会性/率先力/忍耐力/自信/注意深さ/協調性/順応性

Bass(1990年)
調整力/順応性/積極性/注意深さ/支配力/感情バランス、コントロール/独立心、染まらないカ/独創性、創造性/誠実さ/自信

Yukl(1998年)
エネルギーレベルとストレス耐性/自信/内面のコントロール/感情の成熟/性格の誠実さ/社会化されたモチベーション/目標達成力/所属意識の低さ

「世界標準の経営理論」の中で、おもしろいと思った理論のご紹介④

アントレプレナーとは:リーダーとして、創造的破壊の過程に貢献する者である(シュンペーター 1942年)

ベンチャー企業に限らず大手企業でも、「アントレプレナーシップ」の重要性について耳にする機会が増えてきたかと思いますが、リーダーシップと同様で、どこか掴みどころのない言葉のように感じていました。
日本語だと「起業家精神」と訳される事が多いと思うのですが、上記の定義の方が具体的で収まりがいいですね。

シュンペーターは、イノベーション理論やら、「新結合による創造的破壊」という言葉やら、今でも使われる理論や定義を1940年の時点から作っているので、なんだか説得力が違うと思いました。

数ある中から、お越しくださって、 ありがとうございます。 人事って正解がない。 でもできるだけいい方向に持っていきたい。 そんな事例が自分の中に溜まったら、おすそ分けできるように頑張って体系的にまとめていきます。 ご縁があれば奇跡的に巡り会えますことを・・。