軍事戦略の「順次戦略」と「累積戦略」に学ぶ、若手に向けたキャリアの考え方
若手の成長戦略を相談された時にいつも思うこと
新卒でサイバーエージェントにエンジニアとして入社して10年目になった。
有難いことに就活生、内定者、新卒〜若手など、幅広い後輩にどう成長していくのが良いか相談をもらうことが多くあり、よくアドバイスさせてもらっている。
その中でよくもらう相談の一つが、
「何をどのような順で経験していけば、優秀な人材になれるのか」
という相談である。
質問の意図には、
・最初の会社はどのような会社でなければいけないのか(就活生)
・最初の配属先の部署はどこであるべきか(内定者)
・最初にどの仕事をして、その次にどのような仕事をしていくべきか(若手)
という、経験を確実に積み上げていきたい、そのために選択を失敗したくないという意図が含まれていることが多い。
最初の3年くらいの経験がその後のキャリアに大きく影響があることは間違いないので良い悩みだと思っている。
ただ、
・任された仕事を確実にやり切る。それを繰り返す
・担当した実装タスクを終わらせるだけではなく、毎回周辺の技術知識を仕入れて語れる状態にする
など、ステップだけでは語れない、繰り返してやり抜くことでキャリアが積み上がる要素が多分にあると私は感じている。
特に優秀だと感じる方は、意図して経験やキャリアを積み上げたわけではなく、やると決めたことをやり切る、自分が決めたルールを貫き続けることで、結果として突き抜けた能力やキャリアになっている方が多い印象である。
このメッセージを伝えるために、私は大学1年生の頃に学んだ軍事戦略論である「順次戦略」と「累積戦略」の話をよくしている。
意外と累積戦略の方が中長期で結果に繋がることが多いと感じており、直近の就職や配属先、業務内容だけで一喜一憂せず大きく構えるのが良いと思っている。
今回はいつも話している内容を紹介する。
米国海軍の元中将に学ぶ「順次戦略」と「累積戦略」
まずはJ.C.ワイリーが提唱した「順次戦略」と「累積戦略」について説明したいと思う。この考え方を知った時、物事を全て順次戦略で考えすぎていて、累積戦略の大事さを考えたことがなかったと衝撃を受けたことを今でも覚えている。
J.C.ワイリーは軍事戦略の基礎を提唱した人物
この戦略論はJ.C.ワイリーという米国海軍の元中将によって書かれている。彼は、アメリカ海軍の実戦経験を持つ戦略家であり、著書の『Military Strategy: A General Theory of Power Control』(1989年)での理論が、現代の軍事戦略論の基礎となっている人物。彼は「順次戦略」と「累積戦略」という2つの概念を提唱し、長期的視点で戦争を捉える重要性を説いている。この理論は、太平洋戦争の成功や冷戦期の封じ込め戦略に大きく貢献し、今なお軍事教育で重視されているものとなっている。
順次戦略とは
順次戦略は、目標に向けて段階的に進んでいく戦略。一つの作戦が完了したら、その結果を基にして次の作戦に進む戦略になる。
第二次世界大戦中、アメリカは「島嶼攻略作戦」を実施し、太平洋の島々を順番に制圧していった。これらの島々は新たな作戦のための補給拠点や飛行場として活用され、次に攻撃する島への足がかりとなった。こうして徐々に前進し、マリアナ諸島や硫黄島を経て、最終的には沖縄まで到達し、日本本土への攻撃の準備が整った。
各作戦が次の作戦の基盤となり、段階的に目標に近づいていくという戦略。
累積戦略とは
小さな行動を繰り返し行い続けることで徐々に効果が積み重なり、最終的に大きな成果を生む戦略。
第二次世界大戦中アメリカは「無制限潜水艦作戦」という日本の商船や輸送船を見つけ次第攻撃・撃沈する戦略を実施した。この作戦は、初めは各船の沈没が戦局に大きな影響を与えなかったが、繰り返されるうちに資源や兵器の輸送が困難となり、日本の工業生産や戦争遂行能力が次第に弱体化していった。
それぞれの行動が独立していて単独では大きな影響を与えなくても、小さな行動を繰り返し続けることで徐々に力が蓄積され、最終的に大きな成果を生む戦略。
J.C.ワイリーの主張
この理論は、戦争が単純な局地戦の連続ではなく、全体として見たときにどのように効果が蓄積されていくかを理解するための枠組みとして重要である。
順次戦略のように各行動が次の行動を支え、計画的に前進することで最終的な目標に到達する戦略と、累積戦略のように小さな行動が独立していても、その積み重ねによって大きな成果を生むという長期的な視点の重要性を強調している。累積戦略について言及していることから伺えるように、長期的かつ全体的な視点から勝利を目指す重要性を説いている。
累積戦略の用いた私の経験談
折角なので私が累積戦略を学んでから実際に行動した内容の例を紹介したいと思う。
累積戦略を用いた恋愛戦略
「順次戦略」と「累積戦略」を学んだ私の最初の実践の場は、大学1年当時の片思い人(現妻)へのアプローチだった。
中高男子校出身だった私は、無意識に順次戦略的に考えて
・帰り道にお茶などに誘って2人で話すタイミングを作る
・次に2人で出かけるのを誘う、出かける
・告白をする
ものだと思って考えていた。
ライバルも多い中何とか告白までいけたらいいなと思っていたところで、共通の知り合いから「脈なしだから告白やめた方が良いよ」と言われる有様だった。
ちょうど累積戦略の考え方を学んだタイミングだったので、上記順次戦略を撤廃し、
・帰り道に一緒に帰ることをとにかく増やす
・道中たくさん話を「聴く」※
の2つをとにかく徹底して続けることにした。
ステップバイステップで関係が進んでいった訳ではなかったが、3ヶ月経つ頃にはかなり関係が親密になり付き合うに至った。
結果を急いで階段を駆け上がるのが全てではないと感じた経験だった。
※聴き方については「営業の聴く技術」がバイブルにPDCAを回していたのだけど、その話はまた別の機会に
累積戦略を用いたサイバーエージェントでの最初の3年間
サイバーエージェントは入社当時も広告・ゲーム・メディアと大きく異なる事業からなっており、配属先はもっぱらの関心ごとだった。
私は開発経験を多く積めそうだということでゲーム事業部を選択したが、ゲーム事業部の中でも子会社が10社以上あった。
その中で”最適な”配属先を選び、配属の希望が叶い、配属された子会社で希望するプロジェクトと開発経験を自分で設計するのは雲を掴むような心地だった。
サイバーエージェントを選び取った以上、巡り合わせの先で頑張ることで必ず選択を正解にできると思い、累積戦略として
・開発物量を多くこなし続ける
・やりたいことには手を挙げ続ける(早めにエンジニアリーダーになりたかった)
の2つをやり続けていた。
1年目で基本的な機能開発を一通り経験し、2年目の後半でとあるプロジェクトのエンジニアリーダーになり、技術面でもパフォーマンスチューニングをやるなど経験の幅が広がった。
事業状況等によってやる仕事内容は変化していったが、結果として必要な経験は出来て着実に積み上がった実感がある。
現在はアプリボットにてDX事業部の開発責任者をしているが、狙ってやるべき経験を積み上げたから現在に繋がったという感覚はあまりない。
主に上記を繰り返してきた結果、それぞれの経験が点と点が線でつながり、タイミングが重なった時に結果として形になったように感じている。
若手に向けた累積戦略の考え方
どこに行くか、どの順で仕事をやるかについてはある程度本気で考えたらあとは巡り合わせに身を任せるのが良いと私は思っている。
置かれた環境で累積戦略を決めて愚直に頑張る思のが結果的に一番成果に繋がると思っている。
今求められている仕事 > 自分がやりたい仕事
大前提、企業とは売上を上げ利益を上げることで存続する組織である。
求められる仕事とは、今ある事業を伸ばすのに必要な仕事として生み出されている。
そのような仕事をこなしていれば事業が伸びて裁量が拡大する可能性が高いし、成果に繋がりやすい。
逆に「自分のやりたいこと」をど真ん中に置いて環境を探すと、企業が事業を伸ばすために必要な仕事から大抵ベクトルがズレてくる。
自分がやりたい仕事ではなく、今求められている仕事にチャンスが広がっていると捉えて、順次戦略で捉え過ぎずに求められている仕事に素直に取り組むのが初速の成長に繋がると思っている。
チャンスにはタイミングがある
自分が描いた"理想"のキャリア順序を踏もうと思っても、欲しいタイミングでチャンスがあるわけではない。
実力や信頼が積み上がっていないゆえに今は任せてもらえなかったり、会社のフェーズ的にその挑戦をするタイミングでなかったりする。
そんな外部要因に一喜一憂せず、累積戦略的に向き合ってきた仕事たちが足場になって、挑戦の舞台に立った時にチャンスを掴めると思っている。
まとめ: キャリアを考える時、累積戦略の視点を忘れずに
私からあえて言わなくても、キャリアに関して順次戦略的な考え方は持っている人が多いと感じている。
ただ生き急ぐあまり、「正しい」環境とステップを策定して駆け上がらなくてはと焦っているケースに出会うことも多い。
そんな時は順次戦略と累積戦略の話を思い出して、今の自分にとっての累積戦略とは何かを是非考えてみて欲しい。
余談: マネージャー育成、キャリア相談等あればご連絡どうぞ
ありがたいことに公私問わず、マネージャーの考え方やキャリアについて相談をもらうことが増えました。
キャリアとしてもチームを持ったり沢山の1on1機会があったりと、自分の経験や考えてきた内容が人の役に立つのは嬉しいなと思っています。
お力になれることもあると思うので、気になった方は是非ご連絡ください。
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