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信者

信者が店にやって来る。

ごくまれにではあるが、どこかの店で見事 BAR デビューを果たした男女が、

さて、腕試しとばかりに、

挑んで来られることがある。


これは、正直言って、困る(笑。


彼ら、彼女らは、自分が初めて訪れた、そこの BAR のマスターかどなたかに、

めでたく洗礼を受けて、この BAR の世界に足を踏み入れた、


いわば、その店の「信者」だ。


これはまあ、仕方ないことなのだろうが、


こういった方々は、

もう、入ってくるなり、対抗心むきだしなのである(笑。

「さあ、俺を感心させてみろ。俺の教祖はそんなヤワじゃないぞ。」

と、言わんばかりである。

これがもう少し、小慣れてくると、

「そこの店にはそこの店の良さがあるんだから。それを楽しめばいいじゃない。」

という境地に達してくれるのだが、

いかんせん、駆け出しの頃というのは、どうにもこうにも、

自分がハマった「店」との比較がしたくてたまらないものだ。


「あの店にはあったウイスキーがここには置いてない。」
「カクテルの作り方が違う。」
「僕の先生はもっと親密に話してくれるぞ。」

もう、鼻から否定ムード満々なのだ。

色々至らなくて、本当に申し訳ない。

精進いたします。


さて、


振り返って、

幸か不幸か、

たまたまうちの店で、BAR に目覚めてくれた方も、いるにはいるかと思う。

それはそれで、大変有難いことだし、

うちの店を皮切りに、色々な店へと足を伸ばしてくれるのは大変喜ばしいことだ。

(中には自分の店以外に行くことを、良しとしないところもあるかと思うが、僕の店に限っては、そういうことは一切ない。むしろ、うちの店でお酒に興味を持ってくれて、ご本人の世界観を広げてくれるのは、とても嬉しく思う。)

現に、うちの店をスタートに、モルトの専門店や、ラムの専門店、なぜだか整体院(笑、通いを始めた方も複数いらっしゃる。

ある分野に特化すると、お客さんの好奇心は凄いもので、僕の知識などあっという間に通り超して、すっかりその道のプロになっていたりする。負け惜しみをいうわけではないが(笑、僕はこういうのが決して嫌いではない。あっさり「先生」になってもらって、その筋の情報を頂戴しております。

ただ、一方で、その方が他所でどんな飲まれ方をしているのか、若干不安なところがないわけではない。

うちの店のお客さんのことなので、大丈夫だとは思うが、好かれないまでも、うちの店との比較をさらけ出したりして、嫌われていやしないか、少々心配ではある。

「ここの店で、いつもソーダ割りで飲むモルトを、他所でオーダーしたら、凄く嫌な顔をされました。」

なんて聞かされると、心底心が痛む。

気付いた時には、逐一お伝えするようにしているつもりだが、やはり、その店にはその店のやり方があるものだし、それを楽しめるのが、本当の意味での「Bar   Lover」なのだと思う。


何事も「通」になり過ぎるのは、考えものだ。


初めて来た時の気持ちを忘れずに。


「信者」より「新者」で(笑。


神保町へお越しの際は、是非お立ち寄りください。

モルトの美味しい季節です。値は上がってますが、試飲サイズも承っております。

お待ちしております。

How Can I Tell You / Charles Lloyd New Quartet
Blue Note
2017 

(本文の最後に、お店でよくかける音楽を紹介しています。お家でお酒を飲まれる際に是非どうぞ。今度お店に聴きに来てくださいね。)

サポート頂いたお金は、お店でかける音源の購入に充てさせていただきます。