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「彼女とイイ雰囲気になったときに使える曲を教えて!」とな?

穴子君(以下”穴”):こんにちは穴子です。
今日はボクとっても緊張しています。
先月合コンで知り合ったタカコさんと3回目のデートなんです。

映画(←独立系シアターで聞いたこともない東欧の監督の難解な作品)
食事(←住宅街の中にあって看板も出さない一見さんお断りで薄味の和食屋)
お酒(←近隣で一番大きなホテル最上階の慇懃無礼なバーテンダーがいるバー)
と完璧なプランニングで、いよいよ自宅へタカコさんを招くことができました。

だ、だ、だって生まれて初めての彼女なんです。
緊張するでしょうが!
じょ、じょ、女性とふたりっきりで何を話せばいいんですか?

こんなこともあろうかと、会社の同僚にムード作りのBGMを聞いておいたんです。
あいつは仕事もできないくせにヘラヘラしてるバカで、こういうことでしか役に立たないのです。
よ、よ、よし、こっそりスマホから再生操作だ!


♪ "Leave the Door Open”  by Silk Sonic

タカコさん(以下”タ”):あら、ブルーノ・マーズとアンダーソン・パークという当代きってのヒット・メイカーが組んだユニットの、2年前の話題作ね。
ふたりの70年代ソウルへの、あざといまでの敬慕と愛情が全開になったスウィートな曲だわ。

穴:え?あ、うん。


♪ "I Want To Be Your Man”  by Roger

タ:続いては80年代オハイオ・ファンクの雄、ザップを率いたロジャーの名バラードね。
十八番のトークボックスも、この曲ではロマンティックな効果を増幅させて、めくるめくようなコーラスとなっているわ。
彼は残念な最期を迎えたけど、残された曲は色褪せないわね…

穴:そ、そうだね…


♪ "I Want You”  by Marvin Gaye

タ:泣く子も黙るソウル界一のモテ男ね。
暖かくも情熱的な歌唱をもり立てるジェイムズ・ギャドソンとチャック・レイニーのリズム隊、デイヴィッド・T・ウォーカーの狂おしいまでのギター、そしてリオン・ウェアの才能を凝縮したようなメロディー、全てがセクシーの一言。

穴:だ、だよね、だよね。


♪ "Don’t You Know”  by Durand Jones & The Indications

タ:ドゥラン・ジョーンズとアーロン・フレイザーの双頭ヴォーカルが渾然として、男心の切なさと純情を訴えかけてくるわ。
こんな風に気持ちをぶつけられたら、母性本能を鷲掴みにされる女性も大勢いるんじゃないかしら。

穴:そ、そうなの?


♪ "Dynamite”  by Gallant & Brandy

タ:これもちょっと前に話題になった、ガラントとブランディのデュエットだわ。
彼のファルセットと彼女のハスキーな声が絡むところなんてステキねぇ〜。
ピアノ中心の静かな曲なのに、激しい感情をむき出しにした歌詞がグッときちゃう。

穴:あはあはあは、きちゃうよね〜。


♪ "All I Really Want Is You”  by The Marías

タ:あら、このLAのバンドも好きなのね穴子さん。
ドリーミーなトラックに乗って、マリアのウィスパー・ヴォイスが部屋中に漂うようだわ。
「欲しいのはあなただけ」っていうわりに掴みどころのない恋心を歌にしてくれたみたいで、揺れるわぁ…

穴:ゆ、揺れる…の?


♪ "Stand Still”  by Sabrina Claudio

タ:セクシーな歌声といえば、現行R&Bならこのサブリナね。
情感たっぷりの声質ももちろんだけど、女性のストレートな欲求を、こんな可愛いコに囁かれたらマジメな穴子さんだってクラクラしちゃうんじゃない?

穴:えへへ…まぁ…


♪ "Your Love Is King”  by Sade

タ:そして夜のラヴ・シンガーといえばシャーデー・アデュ。
特にこの曲はめちゃめちゃセクシーなこと歌ってて、尚且つクールな佇まいもステキねぇ。
こんな女性に憧れちゃうわ〜。

穴:タ、タカコさんもす、す、素敵だと思うよ…


♪ "Between The Sheets”  by The Isley Brothers

タ:超ヴェテラン・グループの超名作スウィート・バラードにゾクゾクしちゃうわ。
間奏のところから、この「アゥッ」って声でリズムを刻まれるとわたし…もう…
ね、穴子さん、もっとこっちへ来て…

穴:えっ!
あの、あの、ぼ、ボク初めてなので…優しくして…

タ:大丈夫よ、全部教えてあげる…♥️


穴:…というわけさ。

私:へぇ〜、それは良かったじゃない。
それから?それから?

穴:それから「大衆音楽における形而上的欲望の受容史——近代的自我と社会構造の相克を越えて」というテーマで朝まで講義を受けたよ。
来週までに20枚のレポートを提出しなきゃ。

私:…それでいいのかキミは?


images : pieonane, Thank you for letting me borrow your wonderful work.

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