マッカーサーは「日本は自衛戦争した」とは言っていない

 世の中には、いろいろなトンデモ説がある。
 そのひとつに、こういうのがある。「マッカーサーは、1951年5月3日、アメリカ議会で『日本の対米戦争は自衛のための戦争だった』と証言した」。


 話としては単純で、それはただの誤訳だ。
 証拠はその原文(と和訳)↓
http://www.chukai.ne.jp/~masago/macar.html
https://blogos.com/article/241061/?p=2

 事実としてマッカーサーは、
 Their purpose, therefore, in going to war was largely dictated by security.
 としか言っていない。
 要するに「日本は安全保障のために戦争した」という意。

 そして、security(安全保障)のために戦争したというなら、それは自衛戦争(defensive war)では無い。予防戦争(preventive war)だ。

 一応念のため説明だが、平たく言うと、
 殴られた後に殴り返すのが自衛戦争で、これは国際法の上で正当。
 それに対して、
 このままでは殴られると思って先制攻撃するのが予防戦争。こちらは正当とは認められない。(なお、本当はもっと七面倒くさい概念)

 そして、「安全保障のために戦争した」というなら、前者では無く後者になる。つまりは予防戦争に。



 話は以上でお終いだが、筆者的にはもうひとつ指摘したいことがある。
 マッカーサーの発言のこの部分。
 They feared that if those supplies were cut off, there would be 10 to 12 million people unoccupied in Japan. Their purpose, therefore, in going to war was largely dictated by security.
 そのうちのさらにこの部分↓
They feared that if those supplies were cut off,

 これは英文法の話になるが、if構文は「現実には~~ではないが、もし~~だったら」だ。
 そこからしてマッカーサーは、「日本は、現実には資源の供給を絶たれてはいなかった。しかし日本は、もし絶たれた場合のことを恐れ、戦争を開始した」と言っていることになる。

 ここで疑問が生じると思う。
「事実としてアメリカは石油禁輸しているじゃないか。日本がアメリカとの戦争を決意したのは、その後のはずだ」という疑問。

 これについては、マッカーサーはそれ以上詳しく述べていないので、真意は解明不可能だ。

 なのだが、前回の記事と同様の見解だったと考えるのが妥当だろう。すなわちハルと同様に「日本が先に戦争を決意した。アメリカの石油禁輸はその後だ」と考えていたのだろうと。
 そう解釈すれば、きちんと説明がつくし、アメリカ側の当時の状況からしてそれが自然だ。


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