【INTERVIEW:Arexibo】“ニューダンス”を求めて
DJ・プロデューサーのArexiboが、10月2日に初のEPとなる作品「카운터!(Counter!)」を<CHINABOT>からリリースした。
ソウル・乙支路のクラブ「新都市」やそこで行われる「NO CLUB」を主宰するクルー<NO MUSIC>の一員として、アンダーグラウンドシーンの中心にいる彼女。その内容はDJとは打って変わりエクスペリメンタルやIDMに近い楽曲となっている。
過渡期にあり、ここ日本でも日増しに存在感を増す韓国のアンダーグラウンドシーンの中で活動する彼女は、一体どのようなことを考えながら活動しているのだろうか?作品の内容からシーンの移り変わりまで、彼女と親しいオーガナイザー・キュレーターの内畑美里氏に話を聞いてもらった。(編集部)
Interview:Misato Uchihata, Yuma Yamada, Photo:Dasom Han, Translate:Misato Uchihata
−−まず1st EP『카운터! (Counter!)』リリースおめでとうございます。このEPはいつぐらいから制作を始めたんですか?
今年の1月にレーベルの<CHINABOT>から「EPをリリースする考えはありますか?」って連絡が来て。その時から前向きに制作をスタートさせました。
リリースする直前まで…7月かな?結構、制作に長く時間を取りました。
−−制作時は誰かにアドバイスを貰ったりしましたか?
正直、今回の制作が決まるまで本格的に音楽を作っていた訳ではなく趣味で制作をしていたので、リリースのお話しが来て、急いで制作していたんです。
ちょっと上手くいかない部分もあったのでミキシングを担当してくれた友人のシン・へジンにサポートしてもらいました。
−−へジンさんは元々友人だったんですか!
同じ高校に通ってたんです。私たちはソウルじゃなくて出身がテグなんですけど。でも、その時はお互い何となく知ってるくらいでした。私はその時、音楽じゃなくて美術を主にやっていたし。
私がDJキャリアをスタートさせた時に、belaという友人がソウルのDJクルー兼レーベルの<NBDKNW>でミックスシリーズを出すと聞いて、その時へジンという名前を見かけたんです。そこから連絡を取るようになって、一緒に公演を行ったりするようになりました。
−−ヘジンさんとは具体的にどんな話をしていましたか?
主に技術的なアドバイスを貰いました。<CHINABOT>からリリースの話をもらうまでは、作曲するにあたってのテクニカルな部分に関して、きちんと勉強をしたことがなく途方に暮れていたので、かなり大きなサポートとなりました。
作った曲をへジンに聞かせると「この部分にこんな音が入るのはどう?」と、新しいテクニックの提案や楽器を教えてくれました。また、私が他のアーティストの作品を聞いて気になるサウンドを見つけた時は、へジンに制作方法を聞いたりしました。
おかげで、サウンドの領域を拡げていくことが出来ましたね。
−−<NBDKNW>とはどのような経緯で出会ったのでしょうか?
自分が<NBDKNW>クルーとして交流があったわけではなくて。ただ、そのクルーに所属するNet Galaやbelaなど、個人個人と時々話をする関係でした。狭いアンダーグラウンド・シーンで一緒に活動する友達たちなので。
belaが<NBDKNW>でキュレーションしたミックスセット・シリーズ(2018年)に私も参加したことがあります。
−−本作のコンセプトは「力のバランス」とプレスリリースにありますね。その通りに受け取るとポップさとダークさ、ビートとシンセの対比や揺らぎが描かれています。本作で影響を受けたアーティストや作品はありますか?
「自分が本当に好きなサウンドは何だろう?」と制作期間はよく考えていました。改めて考えてみると、音楽活動を始める前、10代の頃によく聞いていた音楽にたどり着きました。KorelessやJohn Cohenのように、2000年代~2010年代初頭に活動していたアーティスト達の作品をよく聞いていましたね。
具体的な構成要素を参考にした訳ではありませんが「こんな音楽を作れたらいいな」と思っていましたね。
上記のようなアーティストを聴きながら制作した今回のEPを再考すると…聞いたままの音楽が作れる訳ではないですね、やはり。
−−なるほど。では逆に最近の若いアーティストでよく聴いている人はいるでしょうか?
HAEPAARYというアーティスト。デュオなんですが、一人は韓国伝統音楽を専攻した人で、もう一人は電子音楽をされていて。最近すごく好きです。美しい。
−−DJとしてのArexiboをよく知っていたので、EPを聞いた時新鮮でした。雰囲気がガラッと変わっていて。
そうそう、DJはフューチャーベースやEDMを聴いてアウトプットするから。
音楽制作はモジュラーとかシンセサイザーとか使ったものに興味があったので、全然違う雰囲気になるんだと思います。
−−作品の雰囲気が、Arexiboが大学時代に制作した写真と似ているなと感じました。エッジの効いた部分と、静謐な部分が共存する感じというか。すごく美術的な作品だなと。
作曲に関してはダンスミュージックに関心がないから、そう感じるのかもしれません。DJはダンスミュージックに興味があってやってる訳だけど。
もちろん楽しいからやってるんだけど、作曲は自分の中でまた違うものかな。
−−作曲する上で音の質感などのテクスチャーとリズムの関係について、こだわっている点や考えていることがあればお聞きしたいです。
レイヤーをまずバババッと作る、即興的な制作方法を多く使用しました。全体的なレリーフはすぐ出来るんですが、その後の調整にすごく時間がかかって。この調節部分が一番大変でした。
グリッドに合わせて細かく作る・8拍子に合わせて作ることはせずに「次にこのビートが来たらいいな」と、聴いた時に前後の関係性が成立するような感じで制作しました。
テクスチャーに関しては、今回モジュラーシンセのソフトを使用して制作したので、色々な音を出しては変形させて、その瞬間瞬間に気に入った音を保存して重ねていった感じです。コラージュに近い感覚ですね。
−−今回はモジュラーシンセのソフトウェアを使用したとのことですが、これから使用してみたい機材などありますか?
やっぱりソフトじゃなくて実物のモジュラーやシンセサイザーは使ってみたいですね。でも高いから〜(笑)
−−misatoさんに書いてもらった記事の中でよく女性問題について話しているとありました。今はコロナでいろいろまた複雑になってきているとは思いますが、ご自身が活動されるようなクラブでの現在の状況はどうでしょうか? 良くなってきていると感じますか?
今はコロナでクラブが閉まっているので諸々パーティーも出来ないんですが、アーティストの意識は変わってきたと思います。
特に、若い女性たちの間でフェミニズムのイシューが公然と語られるようになったし、シーンのアーティストが変わってきたので、自然とシーン全体も意識が変わったように感じます。
女性のアーティストも以前より多く見かけるし、パーティーやレーベルを構成する時もその辺を意識するようになってるかなと思います。
−−例えば、<Bazookapoo>のRAKTAが友人たちと立ち上げた女性アーティストにフューチャーした雑誌『HEAVY MAGAZINE』など、SNSを見ているとパーティー以外での活動アプローチも見受けられます。
うん。マガジンやアパレルとか、そういう活動は元々多いと思う。パーティーに関しては<Bazookapoo>以外にも、テクノを軸とした若い女性クルーのパーティーとかもあるし。
−−元々の活動とシーンの新陳代謝によって変わってきているという感じでしょうか。男性側や企業なども含め、周りの方からのアクションはどうですか。
<NBDKNW>のbelaとは、bela本人がクィアの友人だということもあって、問題について積極的に向き合っています。友人とは直接話したりしますが、やはり当事者じゃないと考えることが難しい部分もあるので…。
時代は変化しているし、理解してもらえない人たちに「一緒に考えてよ」「考えてくれてありがとう」とは決して言わず、この人は時代の変化に取り残されていってるんだな〜って思ってます。
−−韓国のアンダーグラウンド・シーンは、メディアでの露出も多いように思うのですが、韓国のアンダーグラウンド・シーンとメディアの関係性はどんな感じでしょうか?
アンダーグラウンド・シーンを取り上げるようなメディアがいつもあるって訳じゃないです。あったとしてもそのメディアのユーザーはアンダーグラウンド・シーンにいるので、多くの人に拡散される可能性があるかというと、そうでもない。
そもそも大衆的に親しまれたいとか、メディアに沢山取り上げられたいとか、そういうことには乗りきれずにいる。だってアンダーグラウンドだから(笑)
でも関係性というか、アーティストとメディアの人が各々パーティーとかライブで知り合って「あ、このバンド好きなの?」みたいなところから盛り上がって仕事につながった、みたいなのは多いと思いますよ。
BUDXBEATSも去年始まったもので、そもそもIDやviceとかがシーンに入ってきたのも本当、どれもこれも最近の出来事なんですよね。
−−最近ではYeajiやPark Hye JinだけでなくSUMINやCIFIKA、Balming Tiger、Lim Kimなどがここ日本でも注目されるようになりましたよね。こうした状況をどう見ていますか?
まず、私がめっちゃファンです!ということと(笑)、注目されていることは純粋に良いことだなと思います。YeajiやPark Hye JinとDJスタイルは違うけど、自分がDJキャリアをスタートしたときに憧れる部分や学ぶ部分がありました。
Lim Kimはメインストリームで活動後、自分の音楽スタイルを再構築するためにアンダーグラウンドで再始動した方じゃないですか。すごくかっこいいと思います。
−−ご自身の身近なところでは、KISEWAさんもリリースしていましたね。同世代のアーティストたちとは音楽について普段どのような話をしていますか?
KISEWAとは、お互いがリリースした音楽について、話を沢山シェアすることが実はあまり出来ませんでした。今年に入って、お互い忙しくて深い話をする時間があまりなかったので。
二人とも誰かに進捗を報告したり作業内容をシェアすることより、完成形をシェアしたかったという部分もありますね。
個人的には最近、周りのアーティスト達とは音楽の話より、生活について話をよくしていると思います。「肩が痛くて〜」とか「仕事しながら制作するのしんどい〜」とか。最近あった出来事の報告的な。
オフラインで会えばお互いの音楽についての話も自然と出ると思うんだけど、会うことが出来ないので、SNSでサクッと話をする感じになってます。
−−コロナの影響でここ日本でもパーティーのあり方やDJというものに対して深く考えるきっかけが多くありました。ご自身はコロナで自粛を余儀なくされている間、どんなことを考えていましたか? また現在の韓国のクラブはどんな状況ですか?
ソウルはまだ、10人以上集まってはダメ*1なのでクラブは全て営業出来ない状態です。クラウドファンディングもあるにはあるんですけど、いつ再開できるか分からない。その代わり私はEPの制作に集中出来たんですが(笑)
新都市もパーティーはやらず、バーを時間短縮営業で行っています。今、音楽を聴きに行く場所がほとんどありません。
むしろ良いタイミングなのかもと思いました。「ダンスミュージックとは?」を考える時期なのかも。これからどうやってシーンを作っていくか考えなくてはいけないけど、そんな気がしています。
−−お客さんの前でプレイ出来ない現在、配信やバーチャルレイヴに参加されていますね。そのようなプレイを重ねてきて、今、自分の中でのダンスミュージックへの考え方の変化など、何かあったりしますか?
私は身体を中心とした感覚的なことに興味があります。「ダンス」はその意味で、私にとって長い間重要なキーワードでした。でも今は身動きが取れない状態だし、今までと同じような方法ではこれから先を想像することが難しいと思いますし、解決方法はまだ私自身も見つかっていない状態です。
配信はこれからの新たなプラットホームになると思うのですが、現場のダンスフロアに完全に取って代わるものとは違うと思います。「ニューノーマル」が訪れたように「ニューダンス」が訪れないといけないんですけどね。
*1…現在韓国では「社会的距離の確保」のレベルが第1段階に引き下げられているため、状況が異なる場合があります。https://jp.yna.co.kr/view/AJP20201012002800882?section=search
Arexibo『카운터! (Counter!)』
Releas date:2020.10.2
Format: Digital / Tape
Mixing: Hyejin Shin
Master: John Hannon
Artwork: Haeri Chung (Super Salad Stuff)
Tracklist:
1. sketch for un/coming image (intro)
2. 쌍둥이자리 Gemini
3. 3
4. 교각 Bent
5. 𓆉)))) 𓆉)))
6. fin
Arexibo:
IG:https://www.instagram.com/soma_kim/?hl=ja
TW:https://twitter.com/_Soma_Kim
SC:https://soundcloud.com/arexibo
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