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新宿-ソウルで生まれた交感─『めちゃくちゃナイト』が繋ぐローカル

韓国のオルタナティブなカルチャーを日本から捉えていこうとするgridsytemにおいて『めちゃくちゃナイト』『NO CLUB』という日韓のクラブイベントは重要なキーワードだ。相互に文化交流を行いながら特有の共通したバイブスを孕む“感覚的”にローカルなこのシーンは、それぞれのプレイヤー自体についての情報は既出のものも多いが、その結びつきや物語のようなものはまだまだアーカイブできていない。

そこで今回はめちゃくちゃナイトのオーガナイザーであり、現在ではTigerdiscoやXin Sehaなど韓国アーティストの来日公演やTOWER RECORDSのサブミッションメディア「TOWER DOORS」で韓国音楽のキュレーションなども担当している内畑美里氏にエッセイの寄稿を依頼した。

彼女が持つ音楽愛や他方で感じている生きづらさを共有しながら、国を超えたローカル・シーンを作り上げた軌跡をぜひ確かめてほしい。(編集部)

Text and Photo: Misato Uchihata

新宿からソウルへ

2016年、当時は新宿BE-WAVEで通常業務の他に、イベントの自主企画やサポートをしながら働いていました。その頃担当していたイベントの中に、ローカルで活躍する女性DJだけをブッキングする『なでしこラウンジ』という平日のデイパーティーがあり、主催のnnnさんが持つ広い交流関係と、オーガナイズセンスが存分に発揮されたものでした。

女性DJに特化すると「華やか」「男勝りなプレイ」などのワードがまだ告知などで見られていた当時。そんな言葉をすっ飛ばして「かっこいいもんは、性差関係なくかっこいいんで」みたいなスタンスを、声に出さなくともパーティーで感じられるなでしこラウンジは、その後の自身の企画に大きな影響を与えてくれたと思います。

当時から韓国(特にソウルの)パーティーカルチャーやインディーズ音楽に興味があり、日本語か翻訳機で読める記事をチェックしていた時、ふと目にした記事がBICHINDABae Tokyoのインタビューだった記憶があります。少し記憶が朧げですが、どちらの記事でもクラブシーンにおける女性DJの立ち位置に問題提議をしており(例えば、ブッキングされてもオープン/クローズの時間に当てられる、ルックスについて言及される等、女性DJは男性DJの元に成り立っている構図など)、クラブ・シーン以外でも自分が女性として現実社会での生きづらさを感じていた当時、その記事を読んで「自分もアクションを起こそう、些細な事かもしれないけど」と、小さく決意した記憶があります。

BICHINDAはインタビューで「ソウルは女性DJが少ない。だから女性DJが育つようにワークショップを始めました」と言っていた事もあり「東京のローカル・シーンにはかっこいい女性DJが沢山いるから、パーティーやるならまずソウルだな」と思い立ちました。すぐに知り合いのDJ/オーガーナイザーであるパク・ダハム君に連絡を入れて、新都市というクラブでのパーティー企画を進めました。

当時の構想としては日本勢は女性DJだけにしようとしていましたが、紆余曲折あり男女バランス良い感じでラインナップが決まりました。第一回目は韓国勢のブッキングをダハム君にお願いし、日韓コラボイベントのような形で進行しました。

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『めちゃくちゃナイト vol.01』

余談ですが、この『めちゃくちゃナイト』というパーティー名は、2015年に企画された別のパーティーがスタートでした。京都を拠点に活動されているstttrさんのシティ・ポップDJset、コレクション販売のためにソウルで企画されたパーティーが本当に最初の「めちゃくちゃナイト」で、私はその名前をそのまま受け継いだ感じです。発音し易い&覚え易いみたいで、韓国の人みんな一発で覚えてくれるので凄く好きです。めちゃくちゃナイト。

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cakeshop(イテウォン)

ソウルのクラブの特徴として、箱付きのお客さんが多いという点が挙げられます。クラブが飲み会の二次会的な要素としても使われることが多いので、パーティー目的の他に、行きつけの”酒場”として流れてくる人も多いです。

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新都市(乙支路)

新都市はとりわけ若い世代の方達が多く、パーティーのために気合の入ったお洒落をしている人たちも目立ちます(みんな本当〜〜に素敵!超クール)。

新都市が位置する乙支路というエリアのすぐ近くにはLGBTQの方達が集まるコミュニティエリアもあるので、深い時間になっても人が流れてきます。フロアは常に多様性に溢れ、各々自由に音楽を楽しむ姿が印象的でした。

めちゃくちゃナイトの時は翻訳機片手に話しかけてくれる人や、ブースの前でレコードの写真を熱心に撮る人、互いの国の言葉は出来なくとも交流しようとしてくれるお客さんが多くて感動しました。「外国から来た自分が企画してウケるのかな…」など当初思っていた気持ちが馬鹿らしくなるくらい、皆さん温かかったです。

Tigerdisco、NO MUSICクルーらとの交流

この第一回目のめちゃくちゃナイトでTigerdiscoseeseaJohann Electric Bachと知り合い、Tigerdiscoとは初来日に向けてすぐ連絡を取り合うようになりました。

ほとんど韓国語が出来なかった当時、Tigerdiscoとはパーティーを通じて彼を理解していったように思います。より彼のマニアックなオタクの部分が出た方がきっと面白いだろうな、などパーティーを重ねながら少しづつ内容を変えていきました。

DJは趣味ではなく仕事だからと、時間内でキッチリ収めるスタンスも彼らしくてリスペクトしています。

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『めちゃくちゃナイトvol.02』

この頃はパーティーとしての『NO CLUB』やそのクルーである〈NO MUSIC〉、アパレルチームの〈BEM〉など様々なチームが頭の中で混在していてキチンと把握出来ておらず、cong vuはジューク/フットワークのトラックメーカー、DJ Selfieはアクセサリーブランド〈seoul metal〉のデザイナーなど、バラバラに認識していて…。seeseaの出演をきっかけにNO CLUBというパーティーをチェックするようになりました。(2017年くらいからNO CLUBのレギュラーメンバーも固まりました)

2016-2017年頃のNO CLUBは現在のレギュラーメンバーの他にも色んなDJの人が出演しており、どのDJもミックスが面白くて、サンクラで聴き倒していました。2018年、めちゃくちゃナイト×NO CLUBのパーティー時にはインタビューも行っています。

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『めちゃくちゃナイト×NO CLUB』

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『めちゃくちゃナイト×NO CLUB in DOMMUNE』

互いのローカルを気軽に行き来できるように

2018年の春に語学留学としてソウルに移り住むのですが、ソウルのローカル・シーンと深く繋がりを持てるようになったのは留学してからでした。

NO CLUBのメンバー、特にArexiboとはよく互いの国の女性問題について話を重ねました。ArexiboはNO CLUBの他に〈Bazookapo〉という女性DJクルーのメンバーでもあり、フェミニストとして、ソウルで活動する女性DJとして、自らセーフティスペースを作っていく活動を行っています。東京にも彼女たちが作り上げるようなパーティーが必要だと、女性DJにフォーカスしたパーティーを企画し、ArexiboとKISEWAが東京でプレイをしてくれました。

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『めちゃくちゃナイトvol.07』Arexibo(ex.NG.AE)とKISEWAが出演

Tigerdiscoが来日した際に話していた「東京のクラブに来るお客さんは、正規のエントランス価格を支払って楽しむ。アーティストとクラブに対しての敬意を感じた。」という言葉が、クラブやライブハウスのスタッフと交流をすることで理解してきたのもこの頃でした。(これはインタビューでも同様の内容を答えています。)

「ソウルのクラブはエントランスが安くて敷居が低いから気軽に楽しめていいな」と、楽観的に考えていた部分が出演者やクラブの持続力低迷に繋がっている事を、でも安くしないとお客さんが来ない現実を、潰れていくベニューを目の前に、自分はどうしたらこの素晴らしいシーンをこれからも繋いで貢献していけるのか。立ち止まって考えた時期でもありました。

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一杯のルルララ(ホンデ) Room306のライブ ※2019年の春に閉店

その後、ソウル在住時によく通ったレコ屋での繋がりから知り合ったアーティスト、Xin Sehaの来日企画を行うなど、ライブ公演の企画もスタートさせました。

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『Xin Seha showcase in Tokyo』

東京にはいない、面白いプレイをする多くのDJやアーティストがローカルで活動していて、ネットで作品に触れることは出来てもDJ/アーティストに還元出来ないと意味がない。今まで、日本には積極的にこれらのシーンを取り上げた企画をする人があまりいなかったように思います。逆も然りで、日本のDJ/アーティストを韓国に呼ぶ時は、ダハム君がほとんどを担っていたと思います。大きなことは出来ないかも知れないけれど、着実に繋いでいけるように、互いの国を気軽に行き来するような企画を続けていこうと思い、現在に至ります。

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NO CLUBのメンバーや新都市のお客さんたちと

コロナ禍が終息し、再びお互いの国で顔を合わせて話せる日を願って。

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