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脱炭素化には20世紀型のメカニズムでは限界。人の意識を変えて協調していく仕組みへ。

脱炭素どうやって達成するのか。 
今世界では、この先も続く持続可能な社会の実現に向け、乗り越えなければいけない課題の一つである「脱炭素化」をどう達成していくかが大きな問題となっています。 
日本でも2030年度までに温室効果ガス46%削減を目標として、各企業、行政、団体がいかにその目標を達成するか知恵を絞って取り組みを始めています。 そこで、脱炭素に向けて前線で取り組んでいる方々のインタビューを通して、その現在地を紐解くインタビュー企画「脱炭素の今」を連載していきたいと思います。


 第1回は、東京大学 田中謙司准教授にインタビューさせていただきました。

 電力流通決済システムをはじめとし電力、物流、小売を中心として分野での課題解決研究を行い、様々な企業と共同研究に取り組む。そうした知見をもとに脱炭素化に向けエネルギーの分散型システムを提唱し日本経済新聞が主催するNIKKEI脱炭素委員会の委員などを務める。

―田中先生はNIKKEI脱炭素委員会のメンバーのお一人として、脱炭素に関する取り組みの発信を精力的に行っていらっしゃいますね。―

田中:「委員会では、委員と協賛企業を中心に脱炭素化に関したディスカッションを行い、内外へ発信することを通じて脱炭素化機運を加速させていくことが大枠です。中身の議論と同時に、脱炭素化の企業イメージ調査や脱炭素化に対して貢献されたベンチャーや企業の取組みへ賞を出すことも検討しています。」

 ―外部からの参加もあるのですか?― 

田中「前回の円卓会議*では次世代ユースの方にも参加いただきました。我々の大人世代と若い世代の感覚とは受け止め方が違うということを明確に感じました。彼らが社会をリードする立場になる頃には、この課題を解決していないと酷い方向に世界が傾いてしまうわけです。
だから、「今解決しないといけないのに、実際は現実を忖度していて進んでいる様に見えない。」とはっきりと言われました。そうした若い方の思考というのは、商品や会社選びにも反映されていて、どれ程環境問題に対応しているかという観点が就職活動の軸の一つになっているようです。」

 *日経電子版「脱炭素実現を後押し 「やれること」迅速に/NIKKEI脱炭素(カーボンZERO)委員会 第2回円卓会議」(2021年7月29日) https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD295DI0Z20C21A7000000/ 


20世紀型のメカニズムでは限界。ユーザーが待つ仕組みと調和していく。

 田中:「そうした若い方の焦燥感というのは、世界レベルで解決しなくてはいけない課題にとって非常に重要であると思います。脱炭素化というと電力や鉄鋼やボイラーなど化石燃料をどうにかするというのが最優先課題に当たりますが、しかしそれら大規模な排出企業が対処するだけで脱炭素化が達成できるわけではありません。燃料を扱う側だけでなく、ユーザーサイドが取り組める脱炭素化の仕組みを作って行かないと時間的に間に合わないのです。
 本当に社会を変えるためには、みんなが変わる必要があります。
そこで、私が提案しているのは電力という巨大システムに協調していく分散型メカニズムの構築です。 20世紀に作られた社会は、巨大国家のもと巨大企業が高品質でかつ安価な社会インフラサービスを提供してきました。電力で例えると、高品質の発電所を作って安定した電圧を常に供給してきました。 しかし、現代ではエネルギーの供給の仕方は変化しています。
供給を受ける末端のユーザー側に太陽光パネルや蓄電池とユーザー自らエネルギーを創出する仕組みができていきています。 そうすると、20世紀型でエネルギーを管理しようとすると中央型の延長となってしまい、末端のユーザー側が伸びて来ている現状と噛み合わず、限界が生じてしまい、いつか破綻してしまいます。 だからこそ、ユーザーが持っている仕組みを全体と調和する仕組みを作る必要があると考えています。」 

―具体的にはどのような仕組みになるのでしょうか?―

田中:「具体的にはユーザーの持っている蓄電池や電気自動車を使って再生可能エネルギーの社会への導入に活用させてもらう仕組みなどを考えています。例えば、太陽光発電は昼間に発電するものですが、導入が進んでいくと、昼間は需要に対して発電過剰となりバランスが崩れてしまう時間帯が問題になっています。
そのため、九州など太陽光発電が多くある地域では、それ以上発電しないでくださいと発電抑制をお願いしています。イタリアのシチリア島の例をとると、年間通じて約3割が再生可能エネルギーで供給しているそうですが、それでも5月、6月の昼間は110%発電してしまいます。そのため発電しすぎた電力をイタリア本土に送り返しているわけなのですが、それはそれで送り返すための設備投資が必要となってしまいます。このように再生可能エネルギーを導入しようとすると、マクロに見ると時間と場所によって、電気が余って流れてしまう時間・場所もあれば、電気が足りない時間・場所もあることがわかります。」

 ―どう解決するのですか?― 

田中:「解決策としては、時間と場所の電力の偏在を緩和する蓄電池のように倉庫のようなものが必要になって来ます。私は物流も研究してきたのですが、物流における一番重要な機能は倉庫です。需要が変動している物に対して、工場をいかに安定的に稼働できるかは、需要と供給の間にある倉庫で変動を吸収しています。 この考え方はエネルギーにも適応できると考えていまして、倉庫と同じように蓄電池によって全体を安定させるということです。電気自動車を例にすると、充電の多くは自宅で行うとおもいますが、そうすると日中の動きが鈍くなる夕方にされることとなります。しかし電気が逼迫される夕方に充電されてもバランスは取れません。電力が余りがちになる昼間に充電できるようにしたいので、通勤で使った車が通勤先で充電できるようにするなど工夫が必要です。」

図1

―分散型システムを実現していく上での課題はありますか?―

田中:「分散型システムが難しいのは、保有者の意思によってやるかやらないかが決まることです。集中型は中央から指令が来ますが、分散型はユーザーが自身の基準得するのか損をするのかによって行動が決まります。だから、電気代が安くなるという価格でのメッセージか、社会に協力しているという環境価値なのか何らかのインセンティブによって行動の背中を押してあげる必要があります。それを実現するために、末端で設備を持っている人が喜んで行動してもらえるような仕組みの研究に注力しています。」

図2

田中:「自ら進んで行動できるようになるには、インセンティブ以外にも私たちが日々の生活の中で何を価値と考えるのかも重要になります。すでに、価値を選択できる動きは徐々に広まっていて、ある通信販売会社では同じ水でも、労働者をより搾取していない流通経路なのかという選択ができるようにしています。同じ提供するものでも、どれだけクリーンなものを提供するのかを証明していく時代に入っていっています。それはテクノロジーに対しても同じことが言えると思います。A Iで学習させる際にも、学習のための電力は場所と時間によって余っていて、余らないので電力が余る昼間にできるだけ学習をさせるなど発想の転換というのがあらゆる分野で求められるのではないでしょうか。」 

分散型システムの実現には人の意識が重要。社会構成員全員がサステナビリティを考える時代へ。

 田中:「分散型システムを実現するためには人の意識が重要です。他人事か自分でもできるのかを考えるのでは違います。自分で行動することによって世の中は変わります。今まさにそういう自分でも行動できる仕組みの提供がどんどん出来ています。 そして、その行動を先導きってやれるのは、若い世代の方々です。 これからの世代に社会を引き継ぐために、社会の構成員全員がサステナビリティを考えて、インセンティブが湧く仕組みを作り、社会全体を持続可能にしていきたいと思います。」


【GRIDの脱炭素】
https://gridpredict.jp/our_service/renomapps/

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