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晩餐は天井裏で

不動産会社の社長令嬢・鳥山玉子は、東京の一角にある自社のビルの屋根裏部屋を仕事場にしている。この部屋には、エリート公務員の飯田カズオが住み着いていた。玉子への好意を包み隠そうとしない飯田と、飯田に冷たく接しながらも少しずつ彼の好意に応えようとする玉子。対照的な二人の、食と暮らしを巡る一コマから紡がれる、優しい味わいの物語。

    • 3. 鶏肉と冬瓜の薬膳スープ

       玉子は、朝起きた時から、ひどい頭痛に苦しめられた。窓からレースのカーテン越しに差し込む朝日が、目の奥に潜む不快感の源を直撃した。体をさまざまに伸ばしてみたり、濃いホットコーヒーを飲んでみたりしたものの、少しも改善しない。  仕事場に着くと、ちょうど飯田が出勤するところであった。彼は、玉子の不調にすぐに気づいたようだった。 「頭痛いのか?」 「大したことない。早く仕事行って」 「たまには休んでもいいんだぞ」 飯田はすぐにロフトを後にした。玉子には、いつもと変わらぬ彼の態度がい

      • 2. フェンネルソースのスパゲッティ

         鳥山玉子は、父の経営する不動産会社に勤務しており、普段は東京の路地裏にあるビルのロフトを作業場にリモートワークをしている。同時に、彼女はこのビルの管理人でもある。  この日は、太陽光パネルの設置に関して業者と打ち合わせる予定となっていた。ビルの屋根は傾斜がきつく窓も張り出しており、一般的な製品、工法の採用が可能かどうか疑問が残る。加えて、玉子はクラシカルなビルの外観を台無しにしたくないと考えていたため、業者と丁寧に相談を重ねながら適切なプランを探すことにした。  業者は午前

        • 1. 小アジの唐揚げ

           蒸し暑い雨上がりの夕方、ラッシュ時の駅の人混みから一人の男が抜け出した。クーラーボックスを肩から下げた男は駅の階段を降りると、しばらく大通りに沿って歩いてから路地に入り、水たまりと路上駐車の車両を軽快な足取りで避けながらさらに進んでいった。男の名は飯田カズオという。農林水産省に勤務する国家公務員である。  飯田が向かったのは、狭いY字路に面した、4階建ての、ネオクラシック風のビルである。建物の前まで来た時、飯田はビルの一階に入居する料理店のシェフに会った。 「こんばんは。今

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